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食育活動
No.14 2009

6

「地場産学校給食」先進地に学ぶ みんなが喜ぶ「食材供給体制」つくり
――生産者・納入業者・学校の思いをつなぐ


◆地場産食材活用率日本一! 佐賀県からのレポート 学校給食で進む地域の絆づくり
 さが“食と農”絆づくりプロジェクト事務局・佐賀県生産者支援課 熊谷節子さん……6

◆給食納入業者の視点から 生産者と給食現場の「つなぎ役」は当店におまかせ!
 ――みやき町・坂本ストアーの実践―― みやき町・株式会社坂本ストアー社長 坂本博敬さん……10

◆生産者の視点から めざせ!給食食材の安定供給
 ――鳥栖市「学校給食応援志隊」の取組み―― 鳥栖市・農業 西山利治さん……18

◆学校の視点から 地元食材は学校教育の素材!
 ――学校での地場産食材活用の実際――
 武雄市立橘小学校(元・鳥栖市立鳥栖小学校)栄養教諭 江口陽子さん……21

◆学校給食を子どもたちの「ふるさとの味」に
 ――品川に畑がよみがえる日を夢見て――
 元品川区立小山小学校 石原洋子さん/江戸東京・伝統野菜研究会 大塚好雄さん……24

◆給食会が地場産給食をバックアップ! 地場産物と調理現場の声を活かした食品開発
 ――埼玉県学校給食会の実践から―― 地域資源研究会 西村良平……32

◆食料価格高騰は地元産米一〇〇%で乗り切る!
 岡山県美咲町の学校給食の現場から フリーライター 鈴木江美留……40

《小特集》食育推進全国大会応援企画! 島根県の実践にみる食育の現段階

◆食卓をかこむ喜びをかみしめて お父さんたちの料理教室二〇年のあゆみ
 島根県川本町・お父さんの料理教室 室長 堤浩隆……48

◆福祉施設の療育現場で始まった 社会性・人間性を育む「食育」の実際
 松江市・東部島根医療福祉センター管理栄養士 伊藤有紀さん……54

◆里山・川・農地が教室 「生きる力」を育む農業小学校の実践
 島根県津和野町・なよし農業小学校 事務局 村田祐一……60

◆地域の活性化から「生きた教材」の実践まで 島根県の学校給食の現場から
 津和野町立津和野中学校 栄養教諭 青木みゆきさん/松江市立鹿島中学校 栄養教諭 岩田緑さん……66

《食と農の応援団コーナー》「タネ」からはじまる「ふるさと」探し

◆大人も子どもも熱くなる!現代によみがえる江戸東京野菜とその魅力
 東京都農林水産振興財団・食育アドバイザー 大竹道茂……71

◆コーヒーブレイク「弁当の日」に挑戦しました! 農文協赤坂事務所……82

【ランチタイムを彩る旬菜弁当教室(夏編)】
夏野菜で暑さに負けない! 食育サークルSUN代表・管理栄養士 小出弥生……84

【図解 親子で学ぶ!おもしろ食べもの加工(5)】
ワラビの根っこから「わらび餅」をつくろう おやじの休日の会代表 岡本靖史……86

地場産食材活用率日本一! 佐賀県からのレポート

学校給食で進む地域の絆づくり

▼さが“食と農”絆づくりプロジェクト事務局 佐賀県生産者支援課 熊谷節子さん

 「食育推進基本計画」の柱の一つである学校給食への地場産食材の活用。全国で取組みが始まるなかで、佐賀県の取組みが成果をあげている。文部科学省の調査によれば、平成十九年度、県内産食材の活用率が四四・二%に達して全国第一位。その背景には、地域を単位とした食材納入システムの構築があった。行政、納入業者、生産者、学校の四者の視点から、その仕組みづくりを掘り下げた。

「ふるさとの食の日」の実施と
「さが“食と農”絆づくりプロジェクト」の取組み

 佐賀県で地場産給食が本格的に始まったのは、平成十五年から実施された「ふるさとの食の日」がきっかけだった。これは県単独事業で実施されたもので、小中給食で、副食(おかず)に佐賀県産食材を重量ベースで八割以上使った給食を年一〇日以上実施する場合に、一食あたり一四〇円を上限に食材費を県と市町村が補助するというものだ。

 佐賀県ではさらに、平成十八年度から五ヵ年の計画で「さが“食と農”絆づくりプロジェクト」がスタートした。「地産地消」、「食農教育」、「都市農村交流」を柱にしたこの事業を進めるなかで実施されているのが、学校給食への地場産物活用である。このような経緯があって、佐賀県では市町や校区を範囲として地場産食材を給食に納入するシステムが整えられてきた。鳥栖市を中心にして立ちあがっている「鳥栖モデル」はその一例だ(鳥栖モデルについては一一頁カコミを参照)。

地場産食材活用をすすめるポイントは、納入業者と直売所の役割をひきだすこと

食材の重量ベースでみた佐賀県の給食での県内産食材活用率は、平成13年には、副食で31.9%、主食と牛乳を加えた全食材で63.4%であったが、平成20年度には副食で49.0%、全食材で75.0%となっている。品目ベースで地場産率を算出した文部科学省の調査では、平成17年度の30.7%から、平成20年度には44.2%となっている。

 佐賀県は全国有数の農業県。主要な生産物の多くは、大消費地である東京や大阪などに出荷されてきたが、一方で学校給食に必要な多品目の県産野菜の供給は進んでこなかった。

 そこで、遠隔地向けの野菜の一部を給食用に振り向けつつ、少量多品目の野菜生産を進めて給食に活用するための仕組みづくりを進めていった。

 その仕組みづくりのポイントの一つ目は、学校給食の食材調達にあたって直売所を経由させることである。近年、農協などが各地に農産物直売所を開設してきたことで、少量多品目の「せんじゃ畑(自家菜園のこと)」の野菜も出回るようになった。直売所を経由することで、少量多品目生産がいっそう豊かになる。

 二つ目は、地元の納入業者と連携を図ること。佐賀県の給食では、主食と牛乳はすべて県産を使っているほか、これまでに県内産小麦を使ったパン(県内産四割と北海道産六割)を県学校給食会と地元業者が共同で開発、納入してきた実績がある。副食食材や調味料は、地元の業者からなる納入組合を通じて納入されているが、地元納入業者は、生産者や生産物に関する地域の情報を持っているだけでなく、地元産食材が不足したときには市場から調達するノウハウも持つ。そのため納入業者と生産者、学校が連携を図った取組みにするために、話し合いの機会を設け、お互いの立場を理解するシステムづくりも行なわれている。

 大切にしているのは、生産者も納入業者も「地域の一員」という視点で、それぞれが学校と築いてきた関係を尊重している。生産者や納入業者も地場産食材活用のためにそれぞれの得意分野を持ち寄ってくれている。

めざすは地域の「コミュニティ」に支えられた生産者と消費者の絆づくり

 平成十八年度から始まった「絆づくりプロジェクト」の目標は、生産者と消費者の絆づくりである。生産者の営みや思い、地域の食文化などを共有しあえる「顔が見える」関係をつくっていきたい。地場産食材の活用率拡大は、その結果としてついてくるものと考えている。

 「食育」の対象は、子どもたちばかりではない。若いお母さんたちに「生きる力」を身につけてもらうことも大切なテーマである。いま、家庭を巻きこむことの重要性がいわれながら、肝心の親の世代への働きかけは空白になってしまっている。それをカバーできるのは地域のコミュニティである。

 地域のコミュニティづくりには、学校の栄養士の役割も重要だ。生産現場に出て、地元の農業を知ってほしい。そうすることで、学校で農を取り入れた食育を行ないやすくなる。

ホームページやメールマガジン「がばい☆きずな」を通して、職員が各地で取材した情報をこまめに発信している。
http://www.kizuna-saga.jp/

今後の展開

栄養士にとって、「旬」はあいまいで分かりにくい。農協などの協力を得て、どの時期にどの野菜が「出回る」のかが分かるようにカレンダーを作成し、「出回りカレンダー」と名づけた。

 市町や校区を範囲とした地域で、「ふるさと食材の日」や「地場産学校給食週間」を設定するなど、実践も深まりつつある。武雄市では「武雄の食の日」を設定し、市の「食育推進計画」にも実施学校数や県産食材の活用目標を盛り込んでいる。

 県下の各団体の取組みも進んでいる。JAさが中央会では、「地場産学校給食」の推進のため、野菜、果物などの副食食材について品目ごとに地場産物活用率の数値目標(重量ベース)を掲げ、平成二十年六月から、県内のJAの担当者が検討会を重ねている。

 佐賀県学校給食会でも、県内産農産物を活用した食品開発に力を入れている。これまでに県内産小麦を使ったパンやうどん、みかんを使ったみかんゼリーなどを開発しているほか、現在は、タマネギやレンコンを使ったメニューなどを研究中だ。

 平成二十一年三月、県はJAなどの生産者団体、栄養士会、学校給食会、消費者団体、流通団体などをメンバーに「地産地消アクションプラン」を作成した。このアクションプランでは、学校給食にとどまらず、病院や福祉施設、飲食店などで活動の輪を広げ、地産地消を進めることをこれからの課題として掲げている。