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Ruralnet・農文協食農教育2001年3月号
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食農教育 NO.12 2001年3月号より

子どもの探究をサポートする

ダイコン秘密をめぐる実験次々

●福岡・鞍手町立室木小学校3・4年
    「元気な大根・気になる大根」の実践から


博士コースの末廣さん

●福岡県・鞍手町立室木小学校の紹介

 鞍手町は福岡市から車で約1時間。エネルギー革命以前の昭和30年代までは炭鉱の町だった。
 町南部に位置する室木小学校では、去年、お年よりに炭鉱生活を聞き書きするなど、積極的に地域学習を進めてきた。野菜づくりも地域の協力をえて、全校児童81名が取り組んでいる。栽培活動自体は20年ほど前から活発に続いているが、業間の休み時間に草むしりをするのが日課、といった感じだった。「総合的な学習の時間」のおかげで「やらされ」の学校園活動が「楽しみ」に変わった、と桜木先生。

「博士コース」の末廣さん
肥料を調べてダイコンの“このみ”をさぐる

ダイコン葉でふりかけをつくろう

風通しのよさそうな廊下側の教室の壁。上段の窓枠のところに枯れて黄ばんだ葉っぱが吊り下がっていた。

「みんな見て、あのダイコンの葉っぱ。完全に失敗しちゃったね。あれから何をつくろうとしてたんだっけ?」
図解
ダイコンの葉の
ふりかけづくり

「ふ・り・か・けー」

絵本を読んでダイコンの葉っぱからふりかけができることを知った子どもたちが、間引き菜の葉っぱをそのまま教室に干したのは10月のこと。2カ月ほども経過して、見るも無残に変色している。「あの葉っぱ、なんとかふりかけにしたいよね。今日、再チャレンジしてみよう」と桜木陽子先生の授業はスタートした。

「じゃ、先生が正しいつくり方を教えてやろうか?」

「教えていらなーい。本で調べる!」

各グループの代表の子が、教室に置いてある『そだててあそぼうダイコンの絵本』(農文協)を1冊ずつ持ち寄り、ふりかけづくりの手順を確かめていった。「34頁にのってるよ。塩でゆでなきゃダメだったんだ」とある班の子が言う。「切り方は24頁にあるよ」と別の子ども。それを受けて桜木先生が手順を図に示していった。

全員で段取りを確認したあと、子どもたちは家庭科室に行って鍋にお湯を沸かし、校舎脇の学校園(「すくすく園」)に飛び出していった。そこでお目当てのダイコンを抜きとり、水で洗う。再び家庭科室に戻るやいなや、ダイコンを肩から切り落とし、葉っぱを塩ゆでした。ゆで終わるとビニール紐に巻いてタオル掛けに吊るす。作業はとても手際よい。ちょうど45分ほどでその日に立てたメニューをやり終えた。

室木小学校の3・4年生の子どもたち26人は「元気な大根、気になる大根」というテーマでの調べ学習を行なってきた。ダイコンに対する思い入れと、その生理や生長への好奇心は並々ならぬものがある。この日見せてくれた手際のよさといい、いったいどんな学習を通して生まれてきたものなのだろう?

微生物の力にびっくり

作物の生長や畑の土に対する興味・関心は1学期の4年社会科「ゴミを減らそう」の単元がきっかけで深まった。この単元で4年生担任の桜木先生は、生ゴミを土に返してみようと提案した。

グループに分かれて子どもたちの実験が始まった。給食の残飯や朝ごはんの残りを土に埋めたり、土と生ゴミを重ね合わせたり、枯れた生け花を埋めたり、落ち葉を焼いたり、近くの農家が使っているEMボカシをふりかけたり。

その後夏休みに入り、生ゴミは「すくすく園」の脇にそのままになっていた。しかし、それが9月に子どもたちをびっくりさせることとなる。EMボカシを使ったところがみごとにサラサラの土になっていたからだ。スイカの皮や魚の骨などもキレイさっぱり消えている。卵の殻と玉ねぎの皮は少し残っていたが、他のやり方と比べてもすごい効果だった。おまけに、残飯に含まれていた種が発芽して、大きなカボチャがすくすく育っている。すごい、びっくり。微生物の力で有機物が分解されて堆肥化し、それを肥やしにカボチャがひとりでに大きくなったのだ。

1学期でのトマト、ナス、キュウリ栽培とこの実験をとおして「生長にはいかに土が大切なのか、土の中の根が元気だと野菜も元気になる」ことを子どもたちは目の当たりにした。そこで2学期には、土の中の見えない根っこを育てて食べる、ダイコンを栽培することとなった。

在来品種で実験の知恵もふくらむ

2学期の探究は26人がそれぞれ個人別の課題をもち、それを3つのコース(やってみたい調べてみたい実験コース、たずねてみよう博士コース、あるある大辞典パワーコース)に大別した。1コース8〜9人を桜木先生のほか、3年生担任の栗田尚哉先生、教務主任の萩原慶三先生が分担してサポートしていった。

栽培したのは青首ダイコン、白首ダイコン、二十日ダイコン、桜島ダイコン、聖護院カブ、聖護院ダイコン。各地の生産者に連絡して種を取り寄せた。守口ダイコンは種が手に入らなかったが、世界一の長さ(1・85m)に興味津々。調べたいことはいっぱいだ。

生長の違いを観察するなら大きく伸びる青首と白首。有機無農薬栽培の「すくすく園」では虫食いだらけだから、虫の少ない屋上でもやってみよう。屋上で日なたと日陰の生育を比べるなら、プランターで栽培できる二十日ダイコンと聖護院カブだろうとなった。『ダイコンの絵本』や『まるごと楽しむダイコン百科』(農文協)を参考にしてペットボトルや1斗缶、バケツなどでの栽培も試みた。生育観察は間引きをするたびに、押し花の要領で「押し芽」をつくって行なった(写真参照)。

地域での発見で学校での実験が生きる

屋上のビニールハウス
屋上のビニールハウスは桜島なみの暖かさ!北風にたたられ倒壊する前の写真

「博士コース」の末廣さんは地域を歩いているとき、虫食いのないとても立派なダイコンをつくっている農家をみつけた。ものすごーくうらやましくて聞いてみると、「化学肥料と農薬を使えば、手間をかけずにこんなにいいものがとれるよ」とその農家は教えてくれた。

「農薬を使っちゃいけないのでは?」と質問するも、「でも、あなたも風邪をひいたら薬を飲むでしょ?」との答え。「うーん」唸ってしまった。

教室でその話が話題になり、「実験コース」の村上さんの観察に注目した。村上さんは1斗缶を使って化学肥料とEMのほうが大きいという結果を得た。

また、桜島ダイコンを栽培した田代君と大丸さんは、桜島が暖かいところだと聞き、屋上に物干しや古箒ふるぼうきを使って即席ビニールハウスをつくりだした。

ダイコンパワーの秘密を探る「パワーコース」の堀川君は、ダイコンの辛さの仕組みがわかれば薬に応用できるかもしれないと考え、「ダイコンはなぜ辛いのか」をテーマにいろいろな団体に手紙を書いた。

素朴な疑問を自由な発想で実験に組み立てていく子どもたち。1月に開いた「大根サミット」では疑問点をぶつけ合い、また次の実験が生まれていった。

「記憶より記録」を合い言葉に、学び方を身につける

この調べ学習で8人の子どもに教師1人がつく形をとったのは「誰が担当するかをはっきりさせないと、どうしても担任にまかせっきりになってしまうから」と桜木先生は言う。それでも本で調べる子や電話に行く子、手紙を書く子など、1人ひとりの課題について、何がしたいのかをはっきりさせそれを言葉や文字にしていくようにサポートするには「子ども8人でもアップアップだった」という。「大事なのは、学び方を身につけて、グループのなかで宙ぶらりんになってしまう子をなくすこと」だ。

生育記録のようす
屋上の脇に日陰をつくって生育を記録する

そのために桜木先生が気をつけていることは、自分で調べることを習慣づけるために、教室に参考図書と地図帳を常備しておくことと、メモをとる癖をつけておくこと、教師が段取りをしすぎないことだという。

たとえば、聖護院カブについて子どもの間でわからなかったときなどは、まずそのへんにいる大人に聞きに行くようにしている。子どもたちは校長室や職員室に行って聞いてみる。このときの皆の合い言葉は「記憶より記録」。「京都のほうにあるよ」との情報をメモれば、地図で調べてみる。在来種の出所を確認でき、守口や桜島などの品種を調べるときも、まず名前と地図帳の索引を照らし合わせるようになった。

また、この日のふりかけづくりにしても、授業時間との関係もあり、家庭科室でダイコンの葉っぱをゆでるためにあらかじめ鍋に湯を沸かしておきたいところだったが、そこを抑えて鍵とガスの元栓を開けるくらいにしておいた。このあたりのちょっとしたさじ加減一つで、子どもたちは自然にからだを動かすようになるのかもしれない。

ふりかけのつくり方を「教えてやろうか?」という教師の誘いにも簡単には「教えていらない」と拒否する室木小の子どもたち。ダイコンの調べ学習をとおして学習者としてのプライドのようなものが芽生えているように感じた。

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