|
Ruralnet・農文協>食農教育>2001年5月号> | ||||||||
あけてビックリ!友だちのばあちゃんたちが加工所の主人公だったイモクッキーづくりに先駆けて育てたサツマイモは4品種。紅東、紅はやと、コガネセンガン、山川紫。それぞれ簡単に言うと普通色、オレンジ色、白色、紫色をした特徴的な品種だ。実はこれらは神岡町の国道沿いにある加工所でイモヨウカンやイモクッキー、イモアイスクリームなどに加工されて、隣接する道の駅で販売されている品種である。 これらの特産品づくりに励んでいるのが、今キミエさんをはじめとする、さわやか加工グループのみなさん。今さんは4年生の奏夢君のおばあちゃんでもあり、12年度、北神小のサツマイモ学習を栽培から加工まで親身に協力してくれた農家先生でもある。 子どもたちが加工所見学をしたのは4月28日だった。このとき「加工所では地元でとれたものを地元の人が工夫して、クッキーやアイスクリームをつくっているんだな」と実感。当たり前のようだが、子どもにとっては新鮮な出来事だったそうだ。 それまでは、加工所の存在を知っていても、「グリコ」や「森永」といった、パートのおかあさんが通う外からの食品加工所といっしょのような感覚で眺めていた。しかし、ここで見た光景は、奏夢くんとまゆ子さんのおばあちゃんや悠佳さんのおかあさんが、いつも家の畑で育てているイモなどをもってきて、頭を使って工夫を凝らしながら特産品をつくりあげている姿だった。「なんだ、こういうところだったんだ」と1気に親近感が増した。家とは違う凛々しいおばあちゃんの姿を見ることもできた。 用意した質問に熱心に答えてくれる今さんの人柄や、旦那さんや家族を実験台にして新しい特産品を開発しているその熱意は、充分に子どもたちの胸に届いたようだ。 そんなことがあって、その後クラスで成立した、自分たちの学校区にあるものを発見する4つのグループのうち、有名人発見グループの学習対象の1人に今さんが選ばれ、うまいもの発見グループの学習対象に加工所が決まっていった。 必ずしも世間一般から見た「有名人」や「うまいもの」ではなく、子どもたちの視線から見た町の「有名人」「うまいもの」を発見することができたのである。
子どもに押し切られイモクッキーづくりが決定10月半ば、発表会のために何をするのかという話し合いの場がもたれた。とれたイモでクッキーづくりをすることに決まるまで、話し合いのなかでは、アイスクリームやクレープ、スイートポテトなど、いろいろなアイデアが提案された。子どもたちの意見を大切にしながらも、実は簗先生と和美先生の間では、「クッキーがいいんじゃないかな」との見通しをたてていた。見通しというよりも、希望的観測といったほうがいいのかもしれない。 なぜクッキーなのか、その理由が面白い。やはり日ごろ台所とは縁の薄い若手男性教師。アイスクリームなんてどうやってつくったらいいのか見当もつかないし、クッキーだったら何とかなりそうかな?と考えたのだという。「普通のクッキーならつくったことあるよ」という子どももいたので、その子の経験も役立ってくれるかもしれない、とちょっぴり子どもたちをも頼みにしていたようだ。イモクッキー、イモヨウカン、イモアイスクリーム。教師にとっても未知の世界。実はワラにもすがる思いだったのかもしれない。 結局、いろいろでたアイデアに対して、「時間も知識もねえし、1つに絞らねぇか?」と持ちかけたところ、子どもたちもすっかりクッキーをつくる気になった。そこで、当日どれくらいつくればいいのかを試算してみた。1人につき、5〜6個分のクッキーは必要かな?仮に200人お客さんが来たら、「エッ?1000個つくらなきゃなんねぇべ」。クッキー1000個なんてちょっと想像もできずに、先生はたじろいだそうだが、「それでもやる!」と子どもたちの決意は堅い。 自分たちで育てたイモでつくったイモクッキーを食べてほしい、という思いがあったし、お客さんの数が多いのなら「よし、それに答えてやろうじゃないか」との勢いがあった。だいいち、自分がお客さんの立場だったら、もらったクッキーが1個や2個ではとうてい満足できない。「子どもたちがそこまで言うんだったら、こっちもとことんサポートしてやろうじゃないか」と先生方も腹をくくった。 日曜日の学校で男2人ヒザをつきあわせて下準備それにしても、「クッキーなるものはどうやってつくるのだろう?」。先生方自身が初めての体験だった。それで男2人、日曜日に学校にでて、クッキーの試作をすることにした。 「かみさんにファックスでクッキーづくりのレシピを送ってもらって…」とりあえず、イモなしの普通のクッキーをつくった。そこでわかったことは、1000個のクッキーとはとんでもない個数だということ。学校のオーブンでは1回(約10分)につき、10個ほどしかできない。どれだけ効率よくやっても15時間はかかる。「恐ろしいことになったな」と思った。 同じ週に今度はイモを入れてのクッキーづくりを行なった。子どもが帰宅してから、やはり2人っきりになって試作した。改めて大変な数だと実感。これはもう1000個もつくるとなれば、加工所で売ってるようなかわいらしいクッキーなんて到底つくれないだろう、となった。 生地を板状にして型抜きせず、棒状にして包丁でバッサバッサ切っていくしかない。小麦粉何グラム、砂糖何グラムなんてのも計ってられない。この際男の料理だとばかりのドンブリ勘定でいくしかないだろう。考えたのは屋台などでよく使われている使い捨てのうどんカップ。本番では、これを小麦と砂糖の計量にフル活用することになった。 「どうしたものか」と悩みの種だったオーブンについては、富樫教頭から「加工所にお願いして使わせてもらえば?」とのアドバイスをもらい、すぐさま今さんに連絡。「水曜日ならOKです」と快諾いただいた。 紫のクッキーが緑のカビ色に喜んだのもつかの間。生地をつくり終えて冷凍させておいた、山川紫のイモクッキーが、みごとに変色しているではないか。それも、食欲を減退させるような鮮やかな緑色のカビみたい。和美先生も簗先生もあわてふためいた。今さんに問い合わせたところ、山川紫に含まれるアントシアン色素の成分と卵の黄味が反応して、そういうおどろおどろしい色になってしまうらしい、とのことだった。しかし、これは決してカビではないし、見た目は悪いが、味や安全性にはまったく問題ないという。 最後は「慣れない、わからない、時間がない、と3拍子そろっていた」ものだから、勘を頼りにぶっつけ本番。少々薄気味悪くても説明して何とかしよう。 10月30日、3、4年生43人と2人の教師は、4時間かけて4色のカラフルなイモクッキーの生地をつくりあげた。 さすがに加工所には何十人も押し寄せるわけにもいかず、冒頭のごとく4年生3人と和美先生が4時間まるまるフル回転した。こうして3000個のイモクッキーが焼きあがったのである。 *
「この職業について9年目になりますが、自分が子どもの頃の学校のイメージとはずいぶん変わってきています」と簗先生は振り返る。黒板に向かってノートをとる以外にも、地域のなかに学びがあることは先生自身にとっても新鮮なことだったようだ。「加工所で有名人を発見したり、川でただ魚を釣るなかでも子どもたちは成長していくし、こちらでできない部分を地域の方にカバーしていただいて、学習を進めることもできるんですよね」。 「もちろん、けっして言葉に出して言うようなことじゃないけど、毎日子どもたちと向き合っていると、自ずと「オレみたいになれよ」と言っているようなものなんです。教師ってものは」と富樫教頭はドッキリするようなことを言った。「だから、教師自身がいつも自分を見つめていなければならないんです。今、学校は大きな転換点にたっています。これだけ地域でがんばり続けてきた今さんのような方が、今の今まで学校教育と何の接点もなかったことこそ悲しむべきことでした。地域と子どもたちが結びつき、子どもが燃えて、地域が燃えたときに、すばらしい学びの場が拓けることを和美先生や簗先生は実感したと思います。子どもたちはもちろん、先生方も本当にがんばってくれました。北神小はいつも燃えてる学校ですから」。 |