食と農の学習の広場ルーラル電子図書館田舎の本屋さん
Ruralnet・農文協食農教育2001年5月号

食農教育 No.13 2001年5月号より

学習発表会

兵庫・社町立鴨川小学校の実践

交流集会でむらの豊かさ再発見

きょうだい班がみつけた!
平木地区に柿の品種が11種

●編集部

 廣岡三枝子先生は7年前に鴨川小学校に転任してきたとき、「この辺は柿の木の多いところだなあ」と感じた。実際学校周辺の平木地区はそのころ田んぼの圃場整備が終わる前だったので、畦道などの至るところに、柿の木が今以上に植わっていたという。

 1999年の自由研究で6年生の吉田晴美さんと永井さづきさんが柿渋の利用について調べたことが、学習を進めるきっかけとなった。平木地区の区長さんである井上干支さんから聞き取りしたその自由研究には、もともとこの地区では重箱つくりの伝統があることが記されていた。そのときの漆塗りの下地に柿渋を塗るというのだ。廣岡先生は「なるほど、そうだったのか」と思った。柿の木が多いことに合点いったのである。そこで、この年のふるさと学習のテーマを「柿の利用〜昔 今 これから〜」にして進めようと考えた。

交流集会
下鴨川地区での交流集会

1〜6年縦割り班が隣近所で学習対象を発見

 鴨川小学校では10年ほど前から、「きょうだい班 ふるさと学習」という学校行事を行なっている。毎年あるテーマについて、2学期の間の2ヵ月、自分の住む地区の1〜6年までの縦割りグループが近所のお年寄りを訪問して調べ学習をする、というものだ。学校行事ではあるが、当初から学習の要素を加味してきた。小学校に孫をもつお年寄りはもちろん、そうでないお年寄りや独居老人も学習をすすめる重要な地域先生である。

 何日の何時頃、どの人に聞き取りにいくかという計画から子どもたちが立てる。毎年恒例の学習だから6年生ともなると地区の身近なおばあちゃんをしっかりつかまえている。平木地区の吉田晴美さんも、このとき、まずは近所の独居老人のおばあちゃん、常見京子さんに聞き取りにいく計画を立てた。このおばあちゃんとは、この聞き取りをきっかけとした交流がその後も続いた。「富有柿がなったからとりにきて」と誘っていただいては廣岡先生もいっしょにおよばれしたこともあった。

こんなにあった!集落の品種、渋の抜き方、食べ方

 柿の木の多い地区の子どもたちだけあって、当初から渋柿の存在や、軒に吊るして渋を抜くことは知っていたようだ。しかし、調べるなかで、たとえば校区内の3つの集落の1つ平木地区の柿利用はそんな程度じゃないことがわかった。

 まず、品種の豊かさ。たった80戸の集落に、実に11の品種があった。これは子どもの調べ学習に触発されて、平木集落の常見次郎さんが集落内を歩き回って明らかになったこと。子どもたちにとってはもちろん、地域のお年寄りにとっても、新しい発見だった。

 また、渋柿にはそれぞれの品種に応じた渋の抜き方があり、それよって呼び名も変わることも教わった。

 たとえば、みの柿。木になっているときは「みの柿」。それをとって皮むきしたあと、ヘタを縄にはさんで軒につるせば「吊るし柿」、収穫のときに、うまくヘタが残らなかった場合は、串でさして吊るして干す。これは「串柿」。なんでも、このときの串は使い古した番傘の骨が最適だという。ちなみに、この番傘の紙は柿渋をぬって強度を高めて作られたものだ。

 また、「ニタリ柿」はお風呂の湯に1晩浸けたり、柿のヘタに焼酎をつけてビニール袋で密封して渋を抜く。できた柿は「あわし柿」。そのほか、「大柿」にいたっては皮をむかずにワラヅトに入れて日陰に干したり、箱のなかにモミガラや米ヌカを入れて熟す。ゼリーのようになった頃が食べごろだ。できた柿は「うまし柿」という。

学校の多目的ホールにて。お世話になった方々に、きょうだい班でお礼の手紙を書く。奥の机には、常見さんが集めた平木の柿が並べられている。

 渋の抜き方によって名前を変える平木の柿。集落の人たちにとって、柿はなくてはならない存在だったのだろう。また、学習をとおして浮かび上がってきたのは、ワラや米ヌカなどイネの副産物や、重箱、番傘づくりといった集落の生業が、思わぬところで田の畦にたたずむ柿の木とつながっていたこと。地域の奥に潜む、モノ、コト、ヒトのつながりだった。

3地区の公民館に分かれて交流集会

 ふるさと学習の総まとめである交流集会は、校区内に3つある各集落の公民館(下鴨川地区は公民館が小さいから学校で)に分かれて行なった。学習に協力してくれたお年寄りやPTA役員の父母に、自分たちの学習したこと(柿の品種や渋の抜き方、食べ方の工夫について)を、学習の場となった集落で発表する。その後、各地区を代表して1名のお年寄りから柿にまつわる話を聞いた。平木地区は、品種調べに飛び回ってくれた、常見次郎さんにお願いした。そして、実際に吊るし柿、串柿、あわし柿、うまし柿を縄ないから教えてもらい、お開きに昔の柿料理や子どもたちが調べたこれからの柿料理(柿ゼリー、柿サラダ、柿のてんぷらなど)をつくって食べたのである。

■囲み記事■
活動の概要
もどる