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食農教育 No.14 2001年7月号より

発端はおいしい水の再発見!

「水ツアー」に至る
5つのステージ

松江市立本庄小学校4年の
「本庄の水は宝物」

 ●編集部

地面からボコボコと湧き出る上宇部尾地区の湧水を飲む子どもたち
地面からボコボコと湧き出る上宇部尾地区の湧水を飲む子どもたち
斐伊川源流域への「水ツアー」で木を流れる水の音を聞く子どもたち。3月なのにまだ雪が残っていた。
斐伊川源流域への「水ツアー」で木を流れる水の音を聞く子どもたち。3月なのにまだ雪が残っていた。

斐伊川の湧水は本庄とは違うよ!

 松江市立本庄小学校の平成12年度の4年生26名は、担任の荒川仁美先生と1緒に持ち上がりで5年生になっていた(現在27名、1学年1学級)。この新5年生を前にして、「4年生のときの総合的な学習で、いちばん印象に残ったこと、楽しかったことは何?」と問いかけたところ、エコクラブのリーダーの石橋達明君がこう答えてくれた。

 「3学期にやった水ツアーで、斐伊川を上流までたどったことです。石を見つけたり、砂鉄をとったりしながら船通山まで行きました。山奥に行ったとき、湧水が岩の間からしみ出ているのでびっくりしました。本庄の湧水は、地面からボコボコ湧き出しているからです」

 担任の荒川先生によると、今年(平成13年)の3月に、子どもたちの発案で、中海・宍道湖に注ぐ代表的な川・斐伊川を、「水ツアー」と称してバスを仕立てて溯ったのだそうだ。そのとき石に詳しい地域の先生、山に詳しい地域の先生にもバスに同乗してもらい、途中で何度もとまって、川の石や山のことを説明してもらった。なかでも、中国山地で有名なタタラ製鉄の鉱滓であるケラが、中流ではこぶし大のものがゴロゴロ転がっているのを発見して驚いたという。

 バス、地域の先生は荒川先生が手配してくれたものの、子どもたち自身の企画で、こんなにダイナミックな「水の旅」を実現できたのだから、印象に残らないはずがない。

 ではこの「水の旅」を実現するまでに、どのような学びの過程があったのだろうか。

地域の人と交流して学習構想を立てる

 荒川先生は、去年、4年生を担任するに当たって、総合的な学習のテーマを何にするか少し迷った。峠を越えて隣にある野波小学校から、ごみをテーマにして環境学習を1緒にやろうと誘いがあったが(野波小学校の近くにある海岸には日本海からのごみがたくさん流れつく)、あまり気乗りがしなかった。ふるさとのよさを子どもたちが実感できなければ、環境を守りたいという意識も生まれてこないと考えていたので、ごみ問題という否定的な切り口から出発したくなかったからだ。

 学校全体が地域の人との交流を大切にしていることもあり、荒川先生は、地域の催し物にはなるべく顔を出すようにして、地域の情報に普段から触れるようにしていた。そのなかで、本庄小学校の学区は、湧水が豊富なこと、地域の人が水を大切にしていることをつかんでいた。

 ごみよりは湧水をテーマにと腹が決まってきた。そして、地域の人と出会うことで、子どもたちが地域の水の文化を探究するようにしたいと、学習の方向性も固まってきた。

 こうしてテーマ案、学習の方向性を決めたところで、学習の素材・地域の人脈を知るために、地区の公民館館長をはじめとする6人の地域の人に集まってもらい、学習をはじめるに当たっての打合わせ会を開いた。平成12年度の新学期を迎えた4月のことである。

 その結果、5つのステージからなる学習構想ができた(27頁の図1参照)。ただしこの段階ではっきりしていたのは、図1の各ステージのテーマと、けい線で囲んだねらい、ステージ3までのおおよその学習内容だった。図1のそのほかの記述は、実際に学習を進めるなかで、実践したことである。

 水の飲み比べからはじめる 
 [ステージ1]      

 新学期早々、荒川先生が子どもたちに持ちかけたのは、地域の湧水と市販の自然水の飲み比べだった。水をテーマにした環境学習の導入としては、川で遊ぶ、水質検査をするなどが考えられる。しかし、前者は地域の暮らしに直接結びつかないし、後者のように科学的方法論から入ると、子どもたちの課題意識が長続きしない。その点、水を飲んで味を比べるという導入は、飲み水から地域の暮らしへという流れをつけやすいし、何より子どもの感覚に働きかけて学習の意欲を引き出すインパクトがあると、荒川先生は考えた。

 そこで、地域の象徴的存在の枕木山山頂に湧き出ている湧水・地域を流れる本庄川の上流にある川部地区の湧水と、市販の「六甲の自然水」とを飲み比べさせた。子どもたちは、すぐに反応した。「六甲の自然水より本庄の湧水のほうが断然おいしい」「これなら全国に売り出せるよ」と口々に言う。

 そこで荒川先生は、「市販の自然水はどんな所から湧き出しているだろう」と子どもたちに問いかけた。山のあるところに湧水が出ることを、子どもたちにつかませて、湧水探検を子どもたちが思いつくことを促すためだ。早速、子どもたちは「湧水探検に出かけたい」と言い出した。こうして本庄の湧水調べがはじまった。地域の人に聞き込みながら子どもたちが調べた成果が、28頁の図2である。

 山頂から湧き出る不思議な枕木山の湧水は霊水として崇められ、それを祭るため1200年前、山頂の華蔵寺が建立されたこと、川部地区の湧水は遠くから車で水を汲みにくる人がいること、本庄の町の中の湧水は松江の銘酒「国暉」の水源になっていること、などがわかった。それらのことを探究するうちに、子どもたちは、本庄の湧水はすごい→自分たちのふるさとはすごい、という意識を持つようになってきた。

 地域の水道から水の生活文化へ 
 [ステージ2]        

 ここまでが、図1のステージ1である。この段階でもなかなか面白い調べ学習が展開されているが、放っておくと、子どもたちの課題意識はこの段階までで萎んでしまう可能性がある。

 本庄小学校の学区域は、豊かな湧水が湧き出し、大きな中海を前にして、表面的には水に恵まれた地域に見えるが、実は水不足で苦労してきた地域である。谷川筋を中心に集落が発達してきたが、基本的には水量が少なく、中海は海水と淡水が交じり合う湖なので、飲み水にも農業用水にも使えない。図2にある池はため池で、使用権が細かく決まっている。このような風土条件のなかで、この地域の水を確保する苦闘の歴史がつくられてきた。

本庄小学校4年生が調べた地域の湧水と井戸水
簡易水道の仕組みを見学する子どもたち
簡易水道の仕組みを見学する子どもたち

 荒川先生は、地域の湧水の調べ学習から、こうした地域の水をめぐる営みを探究する活動へ結びつけられないかと考えた。そこで構想されたのがステージ2である。

 学校の水道は、湧水を水源にしている。じゃあ、子どもたちの家の水道はどこからきているのと、子どもたちに問いかけた。このステージを構想したもう一つの理由は、「水道の水は工場でつくられている」という子どもがいたからだ。

 このステージの学びを進めるに当たって、4月に開いた地域の人との打合わせ会で聞き出したことが効果を発揮した。水道水の確保にどのような苦労があったか、その歴史を聞き出すにはどの人がふさわしいか、目星がつけられたからである。

 といっても、荒川先生が下調べしたことを、子どもたちにすべて語ったわけではない。「君の家の近くにこんな人がいるけど、話を聞いてみたら」とそれとなく、助言していった。

 子どもたちは、地域の水道を調べるうちに、地面からボコボコと勢いよく湧き出す上宇部尾地区の水道の水源に出会ったりして、本庄の地域自然の特色を水道からつかんでいった(冒頭の石橋達明君の言葉からも、このときの印象が強かったことがわかる)。

 新庄地区の水道の歴史の話はさらに強烈だった。この地区の水は、塩気が強く、しかも金気まじり(鉄分が強い)ので、飲料水に適さない。遠くの地区まで水汲みに行かなければならない。そこで、約80年前、地区の人が大阪まで水道技術を学びに行って、地域の嵩山の麓からいくつもの接合部を工夫して、水道を敷設したのだ。

 また、湧水の出ている川部地区でも、飲み水は水瓶にためて、1回に使うのは柄杓に1杯くらいに制限し、リンゴを洗った水も元に戻すくらい大切に水を使う工夫をしていた。

 こうして地域の人から話を聞くうちに、子どもたちは、湧水という地域自然に対する愛着だけでなく、厳しい自然条件のなかで工夫をこらして水の生活文化をつくりだしていった地域の人の歴史にも感動を育んでいった。

 この段階で、エコクラブの存在を知った子どもたちの希望で、エコクラブに入った。

 交流からさらなるテーマが 
 [ステージ3]      

 ステージ3は、これまで調べたことを外に向けて表現すること。本庄小学校の4年生は、幼稚園からずっと1緒の仲間だ。言葉で表現しなくても、日常は過ぎてしまう関係になっている。そのため、言葉で表現して気持ちや意見を他人に伝えることが下手だと、日頃から荒井先生は感じていた。

 子どもたちに表現力をつけたい。そのためには、どうしても伝えたいという根っ子になる体験・活動が必要だ。このような側面から、ここまでの荒川学級の子どもたちの活動をとらえることもできる。

 この段階の活動の山は、前述の野波小学校の4年生との交流と、「中海子ども水辺サミット」への参加だ。

 野波小学校の4年生とは、野波小は地域のごみを調べたこと、本庄小はこれまでの地域の湧水と水道について調べたことを発表しあった。活動の根っ子をつくってからごみ問題に触れたことは、おいしい水を守る意識を高め、そのための視野を広めるのに効果的だった。

 水辺サミットへは、鳥取県の小学校からの誘いもあって参加した。この会では、アドバイザーである向井さんから、割り箸を集めて製紙工場に持っていき、それを原料に紙をつくることが森林資源を守る一助になること、コップについた牛乳1滴でも無造作に洗わないことで生活排水を少なくすること、などを教わった。つまり、子どもでも環境を守る行動ができることを学んだのである。このことは、エコクラブへの入会と合わせて、次のステージへの準備ともなった。

夏休みは1人ひとりが調べ学習

 こうして1学期が終わる頃には、1人ひとりの子どもが自分の課題を持てるまでに、調べ学習が蓄積されてきた。また、当初は地域の人に話を聞こうとすると、口ごもって涙ぐむほど人と接するのに慣れていなかった子どもたちも、聞き取りという学習方法に慣れていった。

 どこの学校でもそうかもしれないが、夏休みは調べ学習を深みのあるものにするチャンスだ。本庄小学校でも、夏休みは、1人ひとりの子どもが、自分の課題を設定し調べ学習を行なった。テーマは、川のごみ調べ、水質調査、家のごみ調べ、森林の働き、光合成の仕組みと木の役目、植林の仕方などである。

 冒頭で発言してくれた石橋達明君は、おいしい湧水を生み出す枕木山の木を調べて、48種類の木があることを発見した。このことから、いい水は、一種類の木からではなく、たくさんの木が集まることでつくり出されることが分かり、それは夏休み後の発表会でクラス全員の財産となった。

 本庄のおいしい水を守りたい 
 [ステージ4]       

 夏休みが終わり、それぞれの子どもが調べたことを発表し合うなかで、本庄のおいしい水を守るための行動を取りたいという意識が、子どもたちの中に自然に生まれてきた。

本庄町内の6ヵ所に苗木を植えた
本庄町内の6ヵ所に苗木を植えた

 そこでステージ4の中心的な活動は、地域の森林を守ることがテーマとなった。子どもたちは、本当は枕木山に木を植えたかったが、それはなかなか難しいことがわかり、本庄の町の中に緑を増やすことを目標にした。森林組合や県の農林振興センターの人に来てもらい、植林の仕方を教わった。苗は、県の1人1苗運動に子どもたちが応募し、ヤマブキを26本(クラスの人数分)入手し、植える場所も子どもたち自身が町の人に交渉して、公民館・幼稚園・老人ホームなど全部で6ヵ所に植えさせてもらった。

 またこの段階で、川をごみ・生活排水から守るための基礎調査として、学区域を流れるいくつかの川の水質調査を行なっている。地域の環境を守りたいという気持ちが、子どもたちから自然に出てくるようになってはじめて、これらの活動が子どもたちの身につくものになるようだ。

 密かな種まきのあった「水ツアー」 
 [ステージ5]          

 3学期のステージ5は、これまでの活動のまとめといえるだろう。

 ここでは、荒川先生が新聞で知った、東京都墨田区の更正小学校と、これまでの活動をまとめたビデオレターの交換をした。更正小学校の4年生も、本庄小学校と同じように、水道水と市販の自然水の飲み比べをして、水の調べ学習を実践していた(32頁からの記事を参照)。

 そしてフィナーレが、冒頭で述べた「水ツアー」である。実は、ステージ4の韓国の張先生から韓国の水事情を聞くなかに、「水ツアー」への種が仕掛けてあった。韓国では水不足が深刻で、全国で水ツアーが企画されていることを、張先生との事前打合わせで知り、子どもたちがどんな反応をするか、荒川先生は期待していたからだ。

 期待通り「水ツアーをしたい」と動きはじめた子どもたちは、社会科の授業で斐伊川のことを学習していたこともあり、中海・宍道湖の源流=斐伊川を溯る「水ツアー」を企画した。

 さて、今年の本庄小学校5年生の総合的な学習は、「水ツアー」を発展させて、中国山地のタタラ製鉄のことを探究できないかと考えている。

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