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食農教育 No.15 2001年9月号より 食から健康へ楽しく食べることが健康の元ルーレットで世界の料理と
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「ハーイ。次は日本でーす」と結果を発表する上杉先生 |
このルーレットを考えたのは、給食の先生、調理員の竹好直美さんだ。最初は発泡スチロール板に描いた大きな世界地図にダーツを投げるものだった。「所ジョージのテレビ番組で地図にダーツを投げて、そこの町をスタッフが訪ねていくのがおもしろかったので、それをヒントにしました」
太平洋にダーツが刺さったらハワイの料理ということにした。ハンバーガー、それにパイナップルを縦に半分に切り、そこに盛りつけたものをバイキング方式で食べるのだ。これがちょうど年に1度の体育館での食事となり、舞台では先生たちがフラダンスの練習の成果を披露して大喝采を受けた。竹好さんは「こんなに楽しく給食を食べることができるなんて、子どもたちはしあわせですね」と話す。
体育館の壁にかけてあったダーツの旅の世界地図は、繰り返し使うダーツの穴やら、ボールがぶつかっての痛みやらでボロボロになってくる。どうせつくり直すならと、いまのルーレットのスタイルに変えた。これなら面積の大きな国が選ばれやすいという世界地図の欠点もクリアできる。
ブラジル料理の給食の日、調理員さんは、朝早く学校にやってきた。エスフィーハのパン生地を発酵させておくためだ。この日の給食の料理はすべて、ブラジルから上下町にやってきて工場で働いている女性、アグルト・ミエカさんから習ったものだ。この町には海外から働きに来る人たちが増えていて、その人たちの子どもを通しての交流も広がるようになっていた。
パン生地の発酵のすすみ具合を知る方法も教えてもらったとおりにした。強力粉に酵母を入れて練った生地を少し手に取り、小さな団子にして、コップの水の中に沈める。それが1時間ほどで浮き上がってくると、発酵終了の合図となるのだ。
ここから肉やタマネギの具を包む作業に入り、オーブンで焼く。そこにはブラジルの料理にかかせない塩、ニンニク、オレガノなどが入った調味料が使われている。マンジョオカは冷凍ものを湯通しにより解凍してフライにする。調味料やマンジョオカはブラジルから来た人を通して手に入れている。ゆでたハヤトウリを切って入れるブラジル風サラダも予定したが、ハヤトウリが間に合わなかったので、野菜サラダに変更した。ゼリーの下に敷いてあるミルクくずもちは、牛乳とコーンスターチ、コンデンスミルクでつくる。
いよいよ配膳 |
パンが焼けるいい匂いが廊下を伝って流れると、お腹がどんどんすいてくる。チャイムが鳴り、ブラジルの給食の開始となる。匂いの源、調理室に給食当番が料理を取りにいく。教室では各自の机の上に黄色いランチョンマットが置かれ、そこに料理が並べられる。ランチョンマットにはサッカーをする子どものイラストやブラジルの位置を示す地図、きょうの料理の説明がプリントされている。放送当番の子どものアナウンスが始まり、ランチョンマットに書かれた説明が読み上げられていく。
「ダーツのたび、ブラジルへん。サッカーといえばブラジル、ブラジルといえばサッカー、たくさんのサッカーファンがいるんだよ!」
「人口は1億5922万人、面積は日本の23倍。気候は日本とは逆で、夏が11月から3月、冬が6月から8月。言葉はおもにポルトガル語、おはようはボンジーア……。農業ではコーヒーの生産は世界1、オレンジも世界1。よく食べられているものはとうもろこしを使った料理。きょうのメニューは、エスフィーハ……」と料理の名前や材料、調理法の簡単な説明がつづく。
「では、ブラジルの音楽を聞いてください」と、CDがかかる。ギターのリズムに乗った軽快な歌が教室に流れていく。子どもたちも肉などが入った珍しいパン「エスフィーハ」、それにサラダやいものフライをほおばる。
食べ終わった子どもに上杉先生が「きょうの給食の感想は」と聞く。
「おいしくて量が足りませんでした」。そして「ポテトのフライがおいしかった」という子どもたち。ジャガイモの1種とでも思っているのだろう。
「あのいもはマンジョオカといいますよ」と上杉先生。
「えー、まんじゅう」
「マンジョオカです」。あっさりとして、ほんのり甘いいもはキャッサバとも呼ばれているものだ。先生と子どもたちのやりとりがつづいていく。
給食の後片付けを終えた2人の調理員さんは、「残さないで食べてくれるので、それがうれしい」と声をそろえる。
はじめての味は最高! |
調理員さんたちは世界中の料理をつくることになるので、図書館に行って本で調べることもある。「アフリカの料理では、つくり方まではのっていないものもあったので、自分たちで材料やつくり方を考えました。この給食をアフリカの人が食べたら、これは違うと怒るかもしれんね」と竹好さん。
「つくるほうも初めてだから、食べる子どもたちも初めてでしょうね。それにしても、子どもたちはよう食べてくれます」と竹内万貴子さん。
調味料が簡単に手に入るとは限らない。福山まで買物に出たり、東京から取り寄せたりすることもある。調理員がぞんぶんに腕をふるって、新しい料理に挑戦している。
上杉先生は、「食から学ぶものはたくさんあります。食べることと健康を結びつける指導もしています。なによりも楽しく食べることがいちばんです。ランチョンマットは家に持って帰ってもらっているんですよ。それで家の方も子どもと給食の話をすることができます。給食から料理する楽しさを見つけた子どももいます。子どもたちはどの学年でも野菜も育てているんです。野菜を育て、料理をつくり、食べることで、健康のことを考えていける子どもたちになってくれればいいですね」と話す。
食教育や国際理解の教育が注目されてきているけれど、吉野小学校では子どもたちが楽しく世界の料理を食べることから、その世界を広げていっているのだ。
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