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Ruralnet・農文協食農教育2002年5月号

食農教育 No.20 2002年5月号より
[特集]パソコンで深める体験学習

相良北小のホームページ
相良北小のホームページ
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学校版インターネット産直で、ホームページに人が集う

熊本・相良村立相良北小学校の実践

編集部

 インターネット上で、地域内外の人たちと双方向に交流する関係をみごとにつくりだしている学校がある。鹿児島県との県境に近い、熊本県球磨郡相良村立相良北小学校(校長 大平和明)だ。
 この山に囲まれた僻地校には、「北っ子友の会」という名の外部PTA組織がネット上にできあがっている。会員は現在46名、そのうち30名ほどは学区外の人たちだ。熊本県内や福岡県はもちろん、奄美大島、関西、関東、はてはアメリカ在住の方なども参加している。職業も、主婦、システムエンジニア、医師、コピーライター、サラリーマンなどバラエティーに富む。
 会員には、毎週メールマガジンを配信し、校長室からの閑話、子どもの日記、今週の学校行事、教師のリレーエッセイが送られ、会員からはそのつど学習への意見、感想などが寄せられる。子どもたちと会員との個人的なつながりもすっかりできあがった。
 それにしても、電話回線の向こうの顔の見えない人たちと、どのようにして与え与えられる双方向の関係をつくりあげていったのだろうか? それは相良北小が実践してきた、ふるさとを生かした「総合」の学びを深めていく過程と密接に関係している。

「ふるさと」と「パソコン」、どう結びつける?

川辺川で気軽に泳いだりカヌーをしたり
川辺川で気軽に泳いだりカヌーをしたり

 相良北小では4年ほど前から、地域にどっぷりつかった総合の実践を積み重ねてきた。移行期を終えた今では、各学年ごとにふるさとの何を学習するかについての「こんな形でよくはないだろうか案」(大平校長)もできあがってきた。それぞれのテーマをあげると

・3年生 「お茶からながめるふるさと四浦」
・4年生 「田代用水路の秘密」・「ふるさとの文豪・小山勝清物語」
・5年生 「米づくり大作戦」・「四浦郷土料理レストラン」
・6年生 「炭焼きに挑戦」・「卒業証書は4浦紙」

 といった具合だ。すべて、「ふるさとにあるもの」を手がかりにしていて、そのなかに環境、福祉、情報、英語といった分野の学習を子どもたちが見出していくことになる。
 川辺川の清流と緑豊かな山々に恵まれ、児童の7割の家庭でお茶を栽培していることを考えれば、学校独自のカリキュラムをふるさとの自然や暮らしに学ぶことでつくりあげていこうというのは、ごく自然な発想だ。しかし、これをパソコンを使った情報教育とつなげるとなると……? 相良北小にしても、必ずしも当初からうまくいったわけではないという。この4年間、情報教育担当をしてきた溝口博史先生によると、学校ホームページ(以下本文中HPと略)の開設以来、「ふるさと」と「パソコン」を結びつける画期は3回ほどあったという。

▼ホームページ開設――1998年10月

 当時の定政校長の学校づくりのビジョンから、溝口先生がHPを開設することになった。地域に開かれた学校をめざすには、まず学校が自らの情報を地域に開くことが必要。山の中にある学校だからこそ、パソコンを使った情報公開が有効だという。
 といっても学校HPが今ほど盛んに公開されていなかった当時、溝口先生もまったく手探りの状態だった。学校の所在地や児童数のほか、学校行事のようすをとりあえず紹介した程度のHP。「見る人にとって何の意味もないんじゃないの?」という声が当然のごとく職員室内にもちあがった。
 総合の実践についていえば、地域素材を軸にして子どもたちの思考を深めるには、たんに学習したことを発表して終わるだけでなく、その学習の過程のなかにどんな意味があったのかを、教師と子どもがいっしょになって見出す作業が必要ではないか、という意識が芽生えていたころだった。そこで、HPを情報公開の手段としてだけでなく、この学校にあった総合の形づくりと、教師がお互いの実践を評価しあうための場として位置づけよう。そんな合意が次第にできあがっていった。

▼「北っ子友の会」設立――2000年9月

 きっかけは1枚のチラシだった。
 「暮らしの夢を広げませんか――いろんな素敵なことが、毎日の中で発見できますように、うれしい特典、新しい出会いを鶴屋がお手伝いいたします」。
 毎月の積立てで春と秋の満期時にボーナス数千円を上乗せした商品券がもらえる。そのほかご優待案内のDMや関連施設の割引券など……。「鶴屋友の会」と銘打った百貨店の会員案内チラシを見ながら、「はて、何か使えるかも?」と溝口先生はひらめきを感じた。
 学校HPを開設して2年ほど。今思えばHPはメンテナンスされているのに、アクセス数や読者からの反応があまりこなかった現状に、「うーん、どうしよう」と考えをめぐらせていたのだろう。そんなときに見たデパートの会員募集の広告。学校HPも電話回線の向こうの読者を待つばかりでなく、こちらからどんどん働きかけていくことができるんじゃないか? と思ったのだ。
 幸い学校では総合の時間を使ってお米やサツマイモ、シイタケ、お茶、そのほか季節の野菜をつくっている。これを会員の特典にすれば、ネットの向こうにいる全国に散らばるさまざまな人材を、一気にこの山の学校の応援団に引き込むことができるかもしれない。季節ごとに農産物を届けることで、1回限りだったHPへのアクセスが継続的なものになるかもしれない。そんな期待がふくらんだ。助かったことといえば、校長先生はじめ、同僚がみんな新しいこと好きで、職員間の連携もよくとれていたこと。さっそく、溝口先生が担任していた6年生が中心となって準備にとりかかった。

(1)「ふるさと」を届けるホームページに

学校田での田植え。1〜6年合同で
学校田での田植え。1〜6年合同で
 まず、ネット上での学校の玄関口となるHPを変えることにした。会員の方には学習の応援をしてもらうのだから、何はともあれ、子どもたちがふるさとを学習する姿を伝えなければならない。もっといえば、「子どもたちの目をとおしたふるさとの姿」がスーっと伝わってくるようなHPにしたい。そこで思いついたのが、子どものイラストをふんだんに使うこと。百聞は一見に如かず。学習のなかで子どもが誇りに思って描いたふるさとの絵で、学校と地域の姿を表現する。小学校ならではの、読者へ訴えかけるストレートな表現はこれしかない。

(2)「季節の農産物」を届けて顔の見える関係に

2001年度3年生が会員や地域の方に配った「北っ子茶」
2001年度3年生が会員や地域の方に配った「北っ子茶」。オリジナルキャラクターやラベルもパソコンでつくった

 それとともに会員募集の案内をアップした。会員の条件は学校の教育活動を応援していただくこと。応援といっても、たまにHPを見てもらうだけでいい。見られることは子どもたちの励みにもなるし、たまたま気が向いたらメールを送ってくれる……。そんな気楽な教育応援団のほうがいい。
 そこで……。HPで9月に呼びかけをすると、なんと20数名の会員が集まった! 1月、さっそく1人につき学校田でとれた米1kgとサツマイモ2個、それに子どもたちの手紙を載せた、ささやかな学校版インターネット産直便(「北っ子ふるさと便」)を届けることになった。
 まず、6年生が会員の方にメールを出し、他言しないことを約束に本名、住所、電話番号を聞く。次に学校内の了承を得る。相良北小の総合は2本立で、先に紹介したテーマは学年ごとの総合。そのほかに学校全体で行なう総合の時間として、米づくり、サツマイモづくり、茶摘みの作業体験を1〜6年全員で行なう。だから、米とサツマイモを送るにも他学年の了解を得るところからはじめ、パッキングや袋詰め、箱詰めの作業、郵送料の工面など、6年生が自分たちで、発送にいたるまでのすべての段取りを行なった。届けた人数はメールでの返信があった10数名だった(そのほかに、学校活動でお世話になっている地域の人にも手渡しした)。
 すると……。「ふるさと便」が届いたとたんに、メールでの返信や励ましの言葉が学校に相次いで送られてきた! 読者にとってもいっぺんに子どもたちが身近な存在になったようで、なかにはクリスマスに絵本「スノーマン」(レイモンド・ブリッグズ著、評論社)をプレゼントしてくれた福岡県のOLの方や、特産のバナナを送ってくれた奄美大島の方など、子どもたちにとってもうれしい出来事がどんどん起こってきた。
 村内でも新たな出会いがあった。たとえば、「ハリー・ポッター魔法の教室」(ワールド・ポッタリアン協会著、青春出版社)を送ってくれた「たっつん」さんや、お隣の相良南小学校区に住む村議の松永重宜さん。松永さんは北小の子どもや先生にとって面識のない方だったが、友の会をとおしてとくに気のあった当時6年生の女の子が個人的なメールのやりとりをはじめた。それが発展して社会科の「わたしたちのくらしと政治」という単元の授業ではゲストティーチャーとして講師をしていただき、子どもたちに実際の議会を傍聴するきっかけをつくってくれた(カコミ記事参照)。

▼「北っ子メールマガジン」創刊――2001年9月

 「北っ子友の会」の設立で、子どもたち、職員ともにだんぜんパソコンがおもしろくなってきた。2001年度に入り、3年生をうけもつことになった溝口先生は、春先に学校園でとれた新茶をプレゼントするご入会キャンペーンを張ったりして、その後も継続的に会員とかかわりをもった。もちろん、会員組織を維持するという消極的な形ではなく、子どもたちをお茶学習に向かわせる動機づけとしたり、そのおかげで思わぬところに学習が発展することにもなった(カコミ記事参照)。
 しかし、学校―友の会という双方向の関係が一気に活気づいたけれども、メールでの交流が子どもや先生個人あてにいきがちになったり、熱心な会員とそうでない会員との違いがはっきりとしてきたのも事実。なんとか、応援していただいている会員の方みんなに学校の情報を届けられないのか……。と考えていたところに大きなヒントをくれたのが、6月に創刊した「小泉内閣メールマガジン」だった。メールマガジンを使えば、経費もかからず、定期的に全会員に向けて学校の情報を届けることができる。これは相良北小学校、情報公開の目玉になるぞ!
 「ようし、小泉内閣メールマガジンのパクリばつくろい」と職員室で話題になった。「こぎゃん仕方がよかろう」「気楽に読んでもらうごとするには?」と話し合い、夏休み中に検討したあと、9月3日、ついに「北っ子メールマガジン」を創刊する運びとなった!

(1)教師・児童の人柄を伝える

4浦学習マップ
四浦学習マップ。年度、学年を超えて、地域素材別に過去の実践の窓が用意されている。ホームページがそのまま学習データベースになっている
 冒頭で紹介したとおり、このメールマガジンは「校長室からの閑話」「北っ子だより〜北っ子の日記より」「今週の相良北小学校の行事」「北小だより〜職員のリレーエッセイ」からなっており、これがなかなかおもしろい。もちろん、「本校の教育理念とは」などと肩肘張ったものではなく、校長先生はじめ、子どもたち、教職員の人柄がストレートに伝わってくる内容だ。福岡県でコピーライターをしている福田弘美さん(男性)が、こんな返信メールを寄せている。
 「校長先生のメッセージは、お人柄というかなんというか子どもたちを見守るやさしい気持ちが伝わってきて感心することしきり、であります。
 また、子どもたちの日記もそれぞれに毎日の生活のようすが思い浮かべられ、私にもこんな純粋なころがあったのだろうかと自分が小学生のころを思い出しております。
 私は文章を書いて生計を立てていますが、この作文には勝てない。やっぱ、計算しながらの文章(広告コピーなどの意)と、生の体験、しかも子どもたちの心をストレートに形にした文は強さが違いますね」
 メールマガジンは毎週送信されるので、書くほうはたいへんだ。しかし、そのつど5〜6件ほど届く会員からの返信は大きな励みになる。教師にとっては自らの教育活動の意味を確認する作業となるし、子どもたちも毎週各学年で1人ずつ選ばれるので、「今度はメルマガに載るかな?」と自分の日記が掲載されることを楽しみにしている。

(2)ホームページを地域教材のデータベースに

 HPの位置づけもだんだん深化してきた。ネット上で子どもたちの姿を伝えるということのほかに、毎年の学びを蓄積(データベース化)していくような形がつくられてきた。  たとえば、HP内にある「四浦学習マップ」というサイト。「四浦未来会議レポート」(10年度5年生)、「炭焼き会議」(1年度6年生)、「小山勝清物語」(12年度6年)「昔のくらし・四浦の知恵」(12年度6年生)という具合に、年度や学年の異なる実践の窓が同じページに収録されている。地域にある学習素材というくくりで、過去の学習をたどることができるような形。ちょうど、ウェッビングマップをネット上でたどっていくようなつくりだ。  こうしてHPにふるさと学習の独自データベースを用意しておくことで、児童、教師がそのときの自分の関心に応じて、過去の学習を現在に生かすことができるようになった。

パソコンで「ふるさと」を共有する

 「北っ子友の会」のような応援団組織をこの学校を卒業したOBを対象に立ち上げよう。そんなことをねらったことがあった。毎回各地区の回覧版にはさんでいる「学校だより」で、遠方に出ている学校OBの家族や親戚の方に入会を呼びかけてください、と働きかけたのだ。しかし、その時点では村内に住む家庭にパソコンがなかったりして、うまく動員することができなかった(現在のところ、遠方にいる卒業生の会員が2名いる)。でも、将来的にはそんな形で村を出ていった人たちとも、「ふるさと」をベースにしたつながりをつくれたらな、と相良北小の先生方は考えている。  パソコンはもっていなくても、メールの見れる携帯電話をもっている方は村にも多い。今では携帯にメールマガジンを送ったり、HPにアクセスすることで携帯からもバックナンバーを見られるようにした。  今この学校で学んでいる子どもたちの多くも、いつかは村を離れるときがくるだろう。離れても小学校時代に学んだ「ふるさと」が人生の拠り所となり、しかもそのときに村で学んでいる小学生たちが村の現在を運んでくれる……。パソコンというメディアには、そんな「人」と「ふるさと」を双方向に結びつけてくれる可能性があるし、学校には「ふるさと」の文化の情報発信基地となる可能性がある。

 相良北小学校の紹介 

 相良北小のある相良村は、日本三大急流の一つ球磨川下りで有名な「人吉市」と隣接している。南部の台地には大規模茶園が広がるが、校区である北部四浦地区の茶園は山あいで小規模。しかし、標高は高いが、霧がかかりにくく、昼間の気温が高い条件を生かして、毎年県の初値は四浦地区が記録している。
 児童数63名。パソコンはコンピュータルームに10台、各教室に旧型を1台ずつ。すべてLANでつながれインターネットにアクセスできる環境にある。

相良北小のホームページ
http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/es/sagarane

 情報ネットワークの使用にさいしての留意点 (相良北小学校の場合)   

(1)個人情報の流出についての対応
年度当初各学年ごとに、児童1人ずつがハンドルネーム(ネット上のニックネーム)を考える時間を設け、会員とのやりとりにもそれを使用する。メール送信のさいには相手を誹謗中傷することのないよう、情報モラルの指導も兼ねて、必ず教師が立ち会う。
(2)著作権・知的所有権への対応
子どもが自分で文章や図表を作成するさいには、つい他人のものを流用しがちだ。年度当初に指導するほか、適時指導するよう心がけている。

会員のみなさんは学校の誇りです

 2001年1月には、熊本県教育委員会主催の「生き生き教育フォーラム」にて、5〜6年生が「北っ子友の会」のことを発表した。会員の方にビデオメールを送っていただけないかと依頼したところ、10名を超える方から自己紹介やふるさと紹介のメールが届いた。見ず知らずの、なんのゆかりもない学校に、ここまで思い入れをもっていただける……。会員の方々の存在は、子どもたち、教職員たちの誇りとなっている。  会員の方からも、「不思議に最近、朝日新聞に、相良村長決まる!! とか川辺川ダム問題などよく目にします。私の親戚でもあるかのように目にとまります」といった声が届く。相良北小学校を発信源に、パソコンをとおした「ふるさと」応援団のきずなは着実に強まっている。


【囲み記事】

●子どもが来ると、議会も引き締まります
相良村村議 松永重宣さん

●会員募集キャンペーンで学習が深まった

●子どもたちのパソコン操作について






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