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Ruralnet・農文協食農教育2002年9月号

食農教育 No.22 2002年9月号より
[特集]「売る」から何を学べるか

売ることを通して地域とかかわる

日曜市に行列!
「うぐいすグループ」の人気のヒミツを探る

合原理恵
福岡・八女郡黒木町立鶯西小学校

「鶯西」には本当に何もないのか?
黄な粉とダイズ灰汁を販売
地域の「木屋まつり」にて、子どもたちは黄な粉とダイズ灰汁を販売した

 八女郡黒木町の山奥に位置する鶯西地区は50戸の小さな集落である。そして鶯西小学校は全校児童17名の極小規模校。5・6年生は5名の複式学級である。

 とはいえ、放課後や休日には、地区のスポーツ少年団や習いごと、ショッピングなどに忙しく、野山を駆け回るような機会はない。それでもなんとか、自分の住む地域を愛し、誇りをもてるような子どもが育ってほしいと思う。

 「鶯西のどこが好き」と尋ねたとき、「きらい。何もないから」という子がいた。本当に何もないのだろうか。子どもたちとともに考えた。「緑がたくさん、自然がたくさん、空気がいい……」とありきたりの言葉が続くなかで、「うぐいすグループ」と答えた子どもがいた。その言葉に深い意味はなかったようだが、私はハッとさせられた。

 子どもたちの日常生活は都会化されているとはいえ、全員が3世代同居世帯。田畑のない家はない。ありがたいことに、食生活にはスナック菓子もあるが、まだまだ伝統食も残っている。コンニャク、納豆、ユズ胡椒、味噌、梅干、漬物などはほとんど自家製である。

 今、人気上昇中の「黒木ふるさと日曜市」では、そんな自分たちの手づくり自家産品や郷土料理を毎回出店されている「うぐいすグループ」という4人のおばあちゃんたちがいる。地域に根ざした「食と人」を探るなかで、地域のよさ、足元の豊かさが見えてこないだろうか。

■囲み記事
黒木町立鶯西小学校の紹介

日曜市を見学

 さっそく、次の日曜日、私たちは「黒木ふるさと日曜市」へ向かった。鶯西の鶯をとって「うぐいすグループ」と名づけた4人のおばあちゃんたちが販売する、名物の「ジャガイモまんじゅう」はその場でつくりながら売られていて、あたりには湯気が漂っている。いくつかのグループが出店されているなか、そのテントの前だけになぜだか行列ができている。テントから離れて人の流れを見ていると「うぐいすグループ」にどんどんお客さんが集まってくるのがよくわかる。

 売られているものは子どもたちが日常食べているもの、子どもたちの家にあるものと同じ。いつも食べている、いやもしかしたら、かっこわるい……と言っていつも食べないもの。「ジャガイモまんじゅう」「高菜の油炒め(アブラゲコンコン)」「らっきょう」「梅干」「おにのてこぼし」などが行列をつくって売れていく。「鶯西」には何もないと思っていた子どもたちにとっては、驚きの光景だ。「なぜだろう……」子どもたちのなかに疑問が湧いた。そして、驚き・喜び・疑問のなかから「うぐいすグループの人気の秘密を探ろう」という共通の課題が設定された。

【初めて見学に行った子どもの感想】

  • 僕はあまり行きたくありませんでした。でも行ってみてびっくりしました。それはうぐいすグループの前に人の行列ができていたからです。なぜだかうれしかったです。(J児)
  • 家で食べているものと同じものがあったけれど、とてもおいしそうに見えました。(M児)

日曜市にてインタビュー

日曜市に来たお客さんをインタビュー
日曜市に来たお客さんをインタビュー

 見学で生まれた「なぜ」を解くために、今度は直接インタビューをすることにした。聞きたいことを1人5〜6個ずつポストイットに書き出していく。計28枚でた全員の関心をKJ法にて大まかに分類。そこから、自分が1番聞きたいことがらを各自調査票の形にし、インタビューに向かった。お客さん・うぐいすグループの両者を調査してわかったことは表のとおりである。

■表
調査内容と結果

 お客さんは「新鮮さ、手づくり、無添加、田舎のもの、人柄」を求めて遠くの街からやってきている。これまでの買い物の経験から、物を購入するときの視点は「安さ(値段)」が1番と思っていた子どもたちにとって、インタビューからわかった消費者の視点は意外なことであり驚きだったようだ。

 また、うぐいすグループからは、「人と会うのが楽しみ。家で採れたものを生かす。子どもが遠足に行く気持ちといっしょ。どんなにきつくても、お金が儲からなくても、楽しい」との言葉。そして、生き生きと、梅干、ユズ胡椒、湯気の立つジャガイモまんじゅう、おにのてこぼし、がにつけ、にしめ、おはぎなどを売っている。

 うぐいすグループの人たちの生き方にふれ、徐々に子どもたちは、「うぐいすグループ」への思いを高めていった。

【うぐいすグループの人気の秘密を話し合う交流のようす】

  • J ぼくは、Aさんと同じで、その場でジャガイモまんじゅうをゆでながら売っていることや(実演販売)、1つは添加物が入ってないのが人気の秘密だと思います。
  • J インタビューしたとき初めの人が言っていたけれど、その土地独特の味が出ていることやつくっている人の心がこもっていることもあると思います。
  • M 私もAさんが言ったようにお店で売ってあるものなどは消毒したり、とったあと袋につめたりしてから、時間が経ってから店に出してあるけど、日曜市のものは朝とってきてからすぐ出してあるので、そこがいいんだと思います。それにテレビで見たダイオキシンなんかも入っていないと思うし。
  • J ぼくの家のことだけど、家でつくられたコンニャクはせいぜい入るとしても灰汁ぐらいだけど、店でつくられたのはコンニャク芋製粉や水酸化カルシウム、海藻粉末黒昆布? で、家とまったくじゃないけど聞いたこともないような物を入れてあるからだと思います。
  • R 私はやさしいとかうぐいすグループのなかに友達がいることで来ている人もいると思います。
  • A 私は、Rさんと同じでうぐいすグループのおばちゃんたちと「知合い」や「人柄」「おばちゃんたちが明るくみんなと話したりしている」からだと思います。

 話合いのなかで、「実演販売」や「添加物」といったつくり方、売り方の特徴だけでなく、「その土地独特の味が出ていること」や「おばあちゃんたちが明るくみんなと話したりしている」といった、お金でははかれない日々の暮らしの楽しみ方、人と触れ合いながら生きていく楽しさについて、子どもたちは思いを巡らせていった。うぐいすグループの前に行列のできる、その人気の秘密は、おばあちゃんたちが自分の生きざまを商品に映し出していたからこそなのだ、と考えるようになっていった。

自分の家を調査、「鶯西食べ物事典」づくりへ

 では、自分の家はどうだろう。今度は、自分の家にある食べものについてつくり方などを調べてきた。まだまだ、生産・加工がほとんど自分の家でなされているという環境にはあるが、子どもたちは家に「蔵」があることも意識していない状況である。まずは、蔵を探検するなかで、家での生産にかかわるモノや人に着目していった。

【自分の家を調べての感想】

  • うちでつくったこんにゃくには添加物が入っていないとおばあちゃんが言っていたけれど、本当に家でつくったものには添加物が入っていないとわかりました。(J児)
  • ばあちゃんが灰をためていたけれど、あれは灰汁をつくるためだったのかな。(K児)

 そして、調べたことをもとに「鶯西食べ物事典」をつくることになった。子どもたちはそれぞれにカメラを持ち帰り、自分の身近な食べ物の写真をとってきた。そして、この学習で調べたことなどを付け加えて、1冊の本ができあがった。この本は黒木町図書室に展示してもらい、情報発信するとともに、広く市民の声を聞くことにした。

【鶯西食べ物事典づくりの感想】

  • ばあちゃんが何かやっていても今までは何も思わなかったけれど、今は何かやっているとじっくり見たり聞いたりするようになりました。(M児)
  • ふだんは食べもののことなど考えたこともなくつくり方などはあまり知らなかったけど、調べているうちにわかってきました。今度は日曜市で何か売ってみたい。(A児)
  • 梅酢は知っていたけれどつくり方までは知らなかった。いろいろなことを調べて楽しかった。(K児)
  • 日曜市で何か売ってみたいです。(R児)
  • 日曜市で実演販売をやりたい。できればこの「食べ物事典」も紹介したい。(J児)

…つづきは本誌でお楽しみください…

 子どもたちはこの後、地域の『木戸祭り』で実演販売を体験しました。


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