今年4月の春の遠足を「お弁当の日」に(6年生で実施。1年生といっしょに食べました)食農教育 No.56 2007年7月号より
――稲益流コース別「弁当の日」
「弁当の日」は柔軟に無理なく取り組もう!
福岡・福岡市立下山門小学校 稲益義宏
Point!
・給食のない日を選ぶ
・「お手伝い」からのステップアップで保護者も安心
・子どもの力に合わせてコースを設定できる方法を考えることが、実現への近道
「できる方法を考えることが、実現への近道」。私に「弁当の日」を紹介してくれた西日本新聞社の佐藤弘さん(西日本新聞社「食卓の向こう側」取材班)のその言葉で、下山門小学校「お弁当の日」の取組みは始まった。
「お弁当の日」の取組みでいちばんの壁が給食。給食を止めることは簡単にはできない。給食がない日を考えてみると、遠足や社会科見学を思いついた。この日に実施すれば、特別に給食を止める必要はない。
次は、保護者にどのように伝えるか。当時担任していた三年生は家庭科の学習を行なっていない。唐突にお弁当をつくることを伝えても「そんなことは無理」と反対されるかもしれない。そこで、お弁当をつめることから始めることにした。これならお手伝いのレベル。三年の三学期に、「おかずをつめるお弁当の日」に取り組んだところ、口頭で伝えただけでクラスの三分の二の子どもたちが取り組んだ。そのなかには、さっそく自分でつくってきた子どももいた。
この子たちが四年生になった四月の遠足の日に「お弁当の日」を実施した。学校で教えていないのに「親は手伝わないで」とは言えない。そこで選択できる四つのコースを設定した。
○完璧コース 子どもの力だけでつくる。買い物とご飯は、家族の協力を得てもOK。
○おすすめコース 親と子どもが一緒に台所に立ってお弁当をつくる。
○ベーシックコース おにぎりをむすんで、お弁当におかずをつめる。
○エンタコース つくった人に感謝の言葉を表現豊かに伝える。子どもたちに対する声かけも「お弁当を自分でつくってみる?」と自発的な動きを促すように心がけた。
第一回目の「お弁当の日」は、学年全体(九〇人)の九〇%を超える子どもたちが、「完璧コース」と「おすすめコース」でお弁当づくりに取り組んだ。なかには、買い物から炊飯まで自分で取り組んだ子どももいた。
四年生では五回の「お弁当の日」に取り組んだ。教室でともに生活をしているダウン症の子どもも一緒に取り組んだ。ふだんは早起きが苦手な彼女も、「お弁当、つくると?」の母親の一言ですっくと起きあがり、台所に立ってお弁当をつくった。
「お弁当の日」で子どもたちが身につけた力は、お弁当をつくることだけではない。朝ご飯を、毎日、親と一緒につくっている子どもがいる。親の仕事が遅くなったときに、冷蔵庫のなかにある材料で簡単な料理をつくる子どもがいる。親子で一緒に台所に立つことが多くなったという話も届いた。
めんどくさがり屋の六年生には家庭科のレシピづくりから
今年は六年生を担任している。四月の遠足。どのような形で始めようかと迷いながら、今回は私が担任する六年二組の子どもたちだけに「自分でお弁当づくりに挑戦してみよう」と提案した。
提案を聞いた子どもたちの反応は様々だった。「おもしろそう」ととらえた子どももいたが、「自分にはできない」「めんどくさい」などと、否定的にとらえた子どもが多数を占めた。保護者の反応も様々だった。
私がクラス担任となったので、「お弁当つくるっちゃろうね」と予想していた保護者もおられる。「この際だから、お弁当づくりを教えよう」と肯定的に受け取られた家庭もあれば、否定的なとらえ方をされた家庭もあった。
取組みは、家庭科の時間を使ったレシピづくりからはじめた。そして、そのレシピをもとに保護者と話し合い、お弁当づくりの方針を決めていった。最初は「めんどくさい」と思っていた子どもたちも、次第におもしろさに気づき、やる気を見せはじめた。
今回設定したコースは、二つ。
○チャレンジコース おかずはすべて自分でつくる。できれば、買い物や炊飯もやってみる。
○親子でお弁当コース できるだけ子どもが活躍する場をつくる。四年生で設けた「つくらなくてもよい」という内容のコースは、今回設定しなかった。その結果、クラスの三九人全員がどちらかのコースでお弁当をつくってきた。
子どもたちと保護者の感想から
最後に、子どもたちと保護者の感想を紹介しよう。
「これまで当たり前につくってもらっていたお弁当も大変なんだなあと思いました」(女児)
「『お弁当の日』に取り組んでみて、もっとつくりたいという気持ちが芽生えた。今度はほかのクラスでもつくってほしい。ほかのクラスの人たちにも、私のような気持ちを味わってもらいたい」(女児)
「今年一年間で、どのくらい上手になるか楽しみです」(男児)
「『お弁当の日』は、これまでも(子どもと)一緒に台所に立つこともしばしばあり、楽勝かと思っておりました。しかし、熱い物や水を張った鍋を運ぶのにも一苦労。缶切りなどの道具も使いこなせないのには、親として恥ずかしい限りでした。小中学生を持つ母として『生活力』をどのようにつけていくかということの重要性をひしひしと感じております。これからも、子どもと一緒に楽しく前向きに取り組んでいきたいと思います」(女児 母親)食は、本来は個人の問題だ。しかし、食をめぐって多くの課題があり、「弁当の日」によって子どもたちが伸びていくのならば、学校はそれを積極的に提案していく必要がある。そのときに学校全体で「弁当の日」に取り組むことが望ましいかもしれないが、まずは、自分のクラスで取り組んでみることだ。取組みは無理のない計画がいい。それが次へのステップになる。足下から実践を始めることが大切である。
下記のURLで、四年生の年間五回の弁当の写真をごらんいただけます。
http://members2.jcom.home.ne.jp/sora-riku-umi/4nen/obentou.html
What’s「弁当の日」?
「弁当の日」は、竹下和男先生(香川県高松市立国分寺中学校校長)が提唱する食育の実践手法だ。竹下先生が「親は決して手伝わないでください」「弁当づくりの基礎的な知識と技術は学校が責任をもって教えます」と訴えてはじめた「弁当の日」は、2007年度で7年目を迎えた。
はじめて「弁当の日」に取り組んだとき、竹下先生は香川県綾南町立滝宮小学校校長。そのとき、竹下先生はつぎの3つの約束事を決めた。
(1)弁当は子どもだけでつくる
(2)実施する学年は5年生と6年生だけ
(3)10月から月1回、年5回実施「子どもだけでつくる」―このきまりに、竹下先生は「親は手伝わないでください」という言葉をつけ加える。ひとつは、親に負担をかけないため、もうひとつは子どもの自立のためには親は手伝わないほうがいいからだ。
「5年生と6年生だけ」―これは「弁当づくりの基礎的な知識と技術」を教えるための家庭科の授業が5、6年生にしかないためだ。さらに、子どもの発達段階の過程で、壁を乗りこえる通過儀礼の意味合いを込めた。
「月1回、年5回」―10月からひと月間隔のくり返しで、子どもたちの技量は大きく向上する。本当は親に手伝ってもらった子も、2回目以降の再挑戦のなかで自分でつくるようになっていく。
「弁当の日」をはじめたとき、竹下先生の念頭にあったのは「家族の時間」の取り戻しだ。いま「弁当の日」は11道県63校に広がり、「家族の時間」を取り戻した家庭が確実にふえている。この特集でとりあげた実践は、竹下先生がはじめた「弁当の日」の発展型である。
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