食農教育 No.74 2010年5月号より
ベーゴマであそぼう!
「あれ、ここ、コンビニだったよね!?」
店内に一歩足を踏み入れたとたん、誰もが目を疑うその光景。さながら昭和三〇年代の駄菓子屋がコンビニの入口付近、一番目立つ場所にでーんと出現したかのよう。その真ん中に、昔ながらの木箱に入った鉄のベーゴマが何種類も並んでいる。漬け物樽にシートを張ったベーゴマあそび用の“床”もある。「ベーゴマについての質問は、オーナーの宮田までお声かけください」との張り紙も……。
川崎市高津区にある「ファミリーマートみやた新作店」(田中康弘撮影)
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学校が終わった三時ごろ、子どもたちが集まってきてコンビニの駐車場でベーゴマあそびが始まった。
チッチィーのぉチッ!
数人が息を合わせて、床の上にベーゴマを投げ入れると、軽くへこませたシートの中心部に向かって勢いよく回転していき、体当たり。ポーンと床からはじき飛ばされるコマが一つ、二つ。残りの二つが残って、最後はどっちが床の上で長く回るか……、「リキ勝負」というそうだ。
放課後に学童保育オカリナの子どもたちがあそびにきた
紙パック牛乳などの冷蔵庫の上にベーゴマ用の樽が並ぶ
ベーゴマのほか、巻きヒモや加工用のヤスリなど一式
コンビニの一部が駄菓子屋本舗に!
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子どもたちの間で、べイブレードという現代版ベーゴマが流行中。ワインダーとよばれるグリップを引っ張れば、誰でも簡単に回せる。
それに比べたら、器用に両手の指を使ってヒモを巻き付け、ほどよいタイミングで持ち手を引き込み、コマをうまく回さなければならないベーゴマは、コツをつかむまでに少々根気が必要だ。
でも、そこがおもしろいところ。自分で回せたり、ヒモを巻けたときの喜び。仲間と呼吸を合わせて投げ入れる前の緊張感。首尾よく床に入ったら、カーンと当たって豪快に飛ばしたり、飛ばされたり。床を囲んで大人も子どもも、いっしょにはしゃぐ。より強いベーゴマをつくるために、ヤスリで削って加工もできる……。
「ベイブレードより絶対ベーゴマ!」。都会の小学生たちが、元気よく答えてくれた。
近隣の小学校や学童保育、幼稚園などでもベーゴマ流行中! 横浜市にある幼稚園「見花山こどもの家」の子どもたちも、ぶんぶん回す
オーナーの宮田守さんこれまでは小学校低学年でも半分くらいの子しか巻けなかった。「幼稚園児はムリだと思っていた」(見花山こどもの家・植村由美子園長)そうだが、宮田式・男巻きで年中児でも遊べるように
「いや、ベーゴマを売るために、コンビニを始めたようなもんなんです」とオーナーの宮田守さん。自店仕入(店独自での仕入れ販売)ができたことが、十一年前に「ファミリーマートみやた新作店」をオープンさせた大きな理由のよう。
はじめはベーゴマだけを置いていたが、売行きはさっぱり。それじゃあ、と駄菓子を置いてみた。コマもケンダマも並べるうちに、いつしかお客さんからもいろいろな注文がくるようになった。おもちゃのピストルは、「カラス除けに」との要望がきっかけ。まさに、地域のコンビニだ。
いまでは、遠く群馬や名古屋からもベーゴマを求めに訪れる。取材中も、一〇km近く離れた場所から小学生が二人、自転車でやってきた。ベーゴマとヤスリを購入後、宮田さんからベーゴマ削りの実技指導を受けていた。
ちなみに、宮田さん、コンビニの前は鉄工所の経営者。工場はたたんだが、鉄削りは当分止められそうもない。
*ベーゴマは一個九〇〜一八〇円、通販あり。「ベーゴマ本舗」で検索を。次号では、加工の方法や、製造元の鋳物工場を紹介します。
コマの回し方
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