「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2010年5月号
 

食農教育 No.74 2010年5月号より

ペットボトル稲作業

これなら園児もあきずにやりきる!

やまぐち里山環境プロジェクト 嘉村則男

ペットボトルなのに、ほんものの田んぼに勝るとも劣らぬダイナミックさ。それでいて、いつも子どもたちのそばにある稲作体験プログラム!

 私の本職は山口大学農学部附属農場の技術職員で、圃場の管理や学生の実習支援をしていますが、その技術職員が中心になって山口市内の中山間地、仁保大富地区の地域おこしグループ「やまぐち里山環境プロジェクト」を結成しております。子ども向けに一年をとおした野菜栽培や里山体験も実施しています。

 しかし、つねに子どもたちといっしょにいるわけではないので、どうしても断片的な観察や体験になりがちです。とくに、稲作体験は、田植えやイネ刈りのイベントで終わりがちで、これまで積極的にプログラム化してはいませんでした。

 二〇〇〇年の淡路花博で、ペットボトルに花が植えられているのを見たのをヒントに、私も三年前からペットボトル稲を栽培するようになりました。子どもたちが身近にイネを感じながら、つねにその成長を観察することができる点が魅力で、これを使って脱イベント型の稲作体験プログラムをつくろうと考えました。たくさんの幼稚園・保育園にオファーをかけたのですが、最終的に山口市立小郡上郷保育園(長安寛子園長、年中・年長児七五名)と、山口大学教育学部附属幼稚園(河野令二園長、年長児四九名)にご協力をいただき、「おにぎりつくり隊・園庭に田んぼをつくっちゃおうプロジェクト」を実施する運びとなりました。

園児への体験は一作業・三〇分以内で

 園児はノリがよい反面、とにかくあきやすい。同じ作業は三〇分が限界です。いかに子どもたちの興味を持続させるプログラムを組めるかが勝負といえます。

 また、ペットボトルでマイ稲を育てる感覚をもたせつつも、なんとかしてほんものの体験、ほんものの田んぼに近づけたい。そんなよくばりな思いで、このプロジェクトに挑戦しました。

 まず、栽培・作業計画の作成。小中学校と同じで、幼稚園・保育園と連携するさいにも計画作成がことのほか重要です。

 ペットボトルに土を入れてタネをまき、水をやりさえすれば、実際のところイネは育ちます。家庭ならそれでよいでしょうが、さまざまな活動のなかに組み込んでもらうには、予定日を決めて計画どおりすすめる必要があるのです。そのためには苗を保温するなど、ある程度きちっと管理していかなければなりません。参考までに、昨年私たちが行なったスケジュールを紹介します(表参照)。品種は晩生のヒノヒカリで、比較的栽培が容易なものを選びました。

 それでは、各作業でのポイントを紹介していきましょう。

栽培・体験スケジュール(小郡上郷保育園)
5月11日 タネまき
5月21日 育苗用プールづくり
6月11日 ペットボトル田植え
7月6日 プール内の小生物観察
8月3日 中干し
8月28日 イネの花の観察会
10月13日 イネ刈り
10月22日 脱穀・モミすり・精米・ポン菓子づくり
11月20日 おにぎりづくり

タネまき──園児には平箱よりセルトレイ

 こちらで芽出しした種モミを子どもたちが一粒ずつまきます。今回は野菜苗用のセルトレイ(一二八穴)を使いました。通常のイネつくりに使う平面の苗箱だと、幼稚園児では作業しづらいです。「線に沿って二粒ずつ、二cm間隔で並べてね」といっても、できません。厚まきしすぎたり、間があいたりで、あとの始末が大変。その点、セルトレイなら、「一つの穴にここ(八分目)まで土を入れて、タネを二粒まいてね」でOK。自分たちでやりきります。一人二個のペットボトル稲を育てるので、グループ(五〜六人)ごとに、二〇穴に切り分けたセルトレイを二つずつ渡しました(予備苗も含む)。

 苗代は健苗シートという特殊な専用ビニールシートを用いたトンネルハウスを使いました。保温と同時に乾燥も防止してくれるので、温度や水の枯渇は気にしなくてもよく、水やりも子どもたちの好奇心にまかせられると考えたからです。しかし、その心配も要らなかったようで、子どもたちは毎日欠かさず水やりしていたと先生方から後日お聞きし、安堵しました。

 健苗シートは透明のビニールシートで代用可能です。そのばあいは乾燥に注意してください。

苗代づくり。トンネルハウスで。透明ビニールをかぶせるときは、高温・乾燥に注意
タネまき。種モミをセルトレイに移す。土は育苗用の培土を使ったが、園芸店に売っている野菜用の土でもよい
芽出し。毎日水を替えながら、1週間程度種モミを水につける

苗づくり──大工仕事で育苗プールも手づくり

 芽が三〜五cmほどに出そろったら、育苗用プールにお引越しさせます。プールは左官用のバケットなど、適当な容器でよいのですが、今回は子どもたちにDIY(Do It Yourself:自分でつくろう)精神を体験してもらい、ついでに「農家は大工さんもやるんだよ」といったことも伝えたいと思い、木製の板を使用したプールをつくり、釘打ちなどのお手伝いもしてもらいました。板には事前にドリルで穴をあけておきます。ちょっとしたことですが、穴がないとうまく釘打ちできず、その時点で園児がめげてしまいます。鍬で地面をならしたり、みんなでビニールを張り、そこに水をためていく作業なども含めて、大工仕事はことのほかおもしろかったようです。

育苗用プールづくり。子どもたちは釘や金槌を使った大工仕事が大好き
完成した育苗用プールにお引越し。左が筆者

田植え──ペットボトルでも泥んこあそび

 六月、待望の田植え作業です。家庭からペットボトルを二本ずつもってきてもらい、先生たちには、カッターナイフで側面を切り抜いて準備しておいてもらいました。

 当日、子どもたちが土と水を入れて苗を植えるのですが、その順番にも注意が必要です。最初に土をペットボトルに入れてから、水を加えると、代かき(土をこねる)のために割りばしを使ったり、手で窮屈に作業しなければなりません。これでは楽しさも半減。まずは、大きなバケットを用意して、グループみんなで土と水を混ぜ合わせましょう。泥んこあそびの延長ですね。園児のテンションもぜんぜんちがってきます。盛り上がったところで、ペットボトルに泥を入れて苗を植えましょう。

 そしてまた、大工仕事。四m×二mの大きさのプールをつくりました。少し密植ぎみですが、これで一五〇本栽培可能です(小郡上郷保育園)。ペットボトルは容器が小さいので、とにかく水やりがたいへん。プールでなくとも、左官用のバケットなどを用意すればよいのですが、今回は木の板を使って絵も描いたりして、園庭の中に楽しい田んぼの風景をつくりたいと考えました。もちろん園児たちも、二度目のDIYをおおいに楽しんでいました。

田植え。みんなでビニールシートを広げて、ペットボトル稲のプールづくり
プールに水をためる作業も、おおよろこび
泥んこあそびのあとに、マイ稲を植え替える

生き物いっぱい! ウンカ退治に片栗粉

 梅雨も終わり、イネも成長してその青さを増すころ、園庭の田んぼにいくつかの変化が現われました。その一つは、プールをつくったことでトンボやカエルなどの生き物がたくさんやってきたこと。なんと、ヘビも訪れました!

 二つ目は、ペットボトルが密に並んだ箇所で、ウンカという害虫が発生したことでした。ふだん園庭にやってこない虫や生き物に出会って、子どもたちの興味・関心はますます高まり、毎日のようにプール田んぼにやってきては、マイペットボトル稲を観察していたようです。

 ウンカの発生は予期していませんでしたが、子どもたちに配慮し、薬品ではなくデンプン(片栗粉)を使ってこのピンチを乗り切りました。水で薄く溶いて(霧吹きで目がつまらない程度)、発生箇所に吹きかけて窒息死させるのです。水田と同じで、できるだけ間隔をあけて栽培することが、病害虫対策にもつながるようです。

成育中。すくすく成長

中干し、追肥、出穂──途中の管理

 田植え後一ヵ月半ほど過ぎ、葉っぱが青々と育ち、茎がどんどん増えてきたころ、中干しを行ないます。二〜三日の間プールの外にだしてイネの根に酸素を送ります。その後、葉っぱの色が薄くなってきたら、追肥です。プールが大きいので、水で溶かして流し込みましたが、子どもたちにやらせるなら、園芸店などで尿素や化成肥料(8─8─8:チッソ─リン酸─カリの割合)を購入し、親指と人さし指でひとつまみ分ほど、キャップからつめこめばよいでしょう。

 八月の中旬過ぎにいよいよ出穂を迎えますが、残念なことに幼稚園は夏休み。幸い保育園では夏休みがありませんので、保護者の方々を交え、イネの花の観察会を行ないました。はじめて目にするイネの花に、子どもたちよりも保護者のほうが、驚きや感動を強くもたれたようでした。

 なお、出穂後はスズメ害にも注意が必要です。今回は行ないませんでしたが、かかしづくりなどもおもしろそうです。

脱穀・モミすり・精米・ポン菓子を二時間で一気に

 その後、穂も出そろい、いよいよイネ刈り・乾燥。そして脱穀・モミすり・精米作業と続きます。時間をかけて作業するのもよいですが、今回は園児相手のあきさせないプログラム。小型の機械を用意して、脱穀・モミすり・精米・ポン菓子づくりまでを、二時間で一気に行ないました。

 意外にも、子どもたちは機械の脱穀以上に、手でモミをとることに興味を示したり、モミすりしたあとの玄米よりも、モミすり機から勢いよく飛びだすモミガラに興味があったりと、私たちにとって新しい発見もありました。モミガラマルチや燻炭づくりをとおして、イネのまるごと活用や循環型農業の体験プログラムも企画できそうです。

 最後のポン菓子づくりは、子どもたちへのサプライズ。ド〜ン! という大きな音や、砂糖水と混ぜ合せた甘いお米のお菓子は、最高のごほうびになりました。

羽釜で飯炊き、おにぎりづくり

 プロジェクトのフィナーレはおにぎりづくり。後日、園庭の真ん中で、薪に火をつけて羽釜でご飯を炊きました。お米が少し足りなかったので、私たちが栽培したペットボトル稲のお米を足して炊飯し、一人ひとりがおにぎりをむすびました。

 お釜に残ったごはんを一粒ずつ愛おしそうに食べる姿を見て、今回のペットボトル稲栽培がイベント的な稲作体験に終わらなかったことを実感しました。園児たちが一つひとつの作業を完結させ、種モミから芽がでて、葉っぱが成長し、大きな穂を稔らせる。その一部始終を毎日間近で見るためのしかけが、このペットボトル稲栽培です。

 体験圃場をもたないみなさんも、ぜひチャレンジしてください。私たちがつくった栽培キットを一〇名の方にプレゼントさせていただきます(六四頁参照)。

羽釜体験。最後は、おにぎりづくりで締めくくった
プレゼント用栽培キット。タネまき後、パックを閉じればハウスの代わりになり、苗が伸びたら開けて、水をためて育苗


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2010年5月号(No74)

◆米づくり体験 コツのコツ◆発想転換! 給食メニューをシンプルに ほか。 [本を詳しく見る]

 写真でわかる ぼくらのイネつくり 学校田んぼのおもしろ授業』横浜市立下永谷小学校

校庭に32m²の田んぼをつくった横浜市立下永谷小学校の苗から育てる総合学習実践。イネの栽培法からミジンコ、オタマジャクシ、メダカ、トンボなど、田んぼの生き物を、を田んぼや教室の水槽で飼育・観察法を紹介。 [本を詳しく見る]

 写真でわかる ぼくらのイネつくり 料理とワラ加工』農文協

子供も大人も夢中になれる、おにぎり、もちつき、牛乳パックミニ箱寿司、きり餅から大福、炊飯器で甘酒、米ぬかパンケーキ、ワラリース、しめ縄、縄カゴ、ワラぞうり、ワラ細工、ワラで紙すきなど28作品を詳解 [本を詳しく見る]

 写真でわかる ぼくらのイネつくり プランターで苗つくり』農文協

塩水で種もみを選び、水に浸けて目覚めさせて種まきし、分げつも出た大きな丈夫な苗の育て方をオールカラーで。1個で100〜140本の苗ができるプランター苗や、観察しやすく愛着もわく使い捨てのコップ苗作り。 [本を詳しく見る]

 写真でわかる ぼくらのイネつくり 田植えと育ち』農文協

バケツと田んぼの田植えから穂が出るまでのイネの育て方・育ち方。バケツの大きさ、植付け苗数、用土、品種などのちがいによって、生育がどうかわるか、また短日処理するとどうなるかなど、おもしろ実験の方法を満載 [本を詳しく見る]

 写真でわかる ぼくらのイネつくり 稔りと穫り入れ』農文協

感動的な穂の開花から稔実、襲来するウンカやカメムシなどやハチ・トンボ・カエルなど天敵、恐るべしスズメ群団などなどの繰り広げられたドラマや、刈取り・脱穀・精米・堆肥作りなどの教室でできる作業手順 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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