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1999年秋 6号より

新連載 それゆけケナフプロジェクト(1)

6種類のタネが手に入ったぞ

岡山・久米南町立誕生寺小学校六年担任 日野 秀


★あこがれのケナフと出会う★

 二酸化炭素をたくさん吸収して育ち、1年でパルプがとれるケナフ。「環境にやさしい一年草」として、脚光を浴びているケナフを私のクラスでも育てている。
 「正義の味方」(?)のようなケナフという作物を知って、あこがれにも似た気持ちで「ケナフってどうやって育てるんだろう」「どこで種を手に入れたらいいのかなあ」と思っていた昨年の5月、ある人からケナフ友の会の半田忠雄さん(京都府城陽市在住)という方を紹介していただいた。
 半田さんは、さっそく約100人分のケナフの種と、育て方やパルプの取り出し方などがわかる説明書をくださった。
 そして6年の担任に変わった今年。
 きっかけは私の名刺を見たクラスの子どもたちの言葉だった。
手漉き和紙に自作したその名刺は茶色ででこぼこして、子どもたちにとっては紙とは思えなかったようだ。
「これは紙???」「私らも作ってみたい!」「木から作るん?」「それじゃあ何十年もかかるで」「先生、なんかええもん知らんの?」 「それならケナフがええ!(日野)」・・・というわけだ。
 そこで、半田さんに電話をしたところ、「今年は6種類の種が手に入りました。育ててみませんか?」といううれしい言葉が返ってきた。素敵な予感が私をときめかせた。


★「したいこと別」グループで調べ学習★

 6年生の子どもたちもケナフについてまったく予備知識がなかった。さっそく図書室で植物関係の本を調べる。他にも環境の本を調べたりしたが、ケナフの本は見つからない。それではと、私の持っていた「ケナフの絵本」(農文協刊)と「夢ケナフ」(鶴留俊朗著 南方新社刊)を出して、調べ学習をした。ケナフの良いところをたくさん挙げてあり、子どもたちは改めてそのパワーに驚かされたようだ。
 つぎに、ケナフを利用して「したいこと別」に行動グループを作る。

・紙漉きをして卒業証書を作りたい−−じゅんいち まいこ ゆみ
・ボランティアや染め物をしたい−−ともみ かなえ かよこ
・大きく育てたい−−たかひこ ちえこ しゅん
・ケナフを食べたい−−けんじ りょうた
・たくさんの種を取りたい−−たかのぶ ひろみつ ゆうき

 インターネットのホームページを「ケナフ」で検索し、紙漉きの仕方やケナフの観察記録などを調べた。ボランティアとは何かをもう一度考えるためにNHKの「週間ボランティア」などのホームページを見た。
 グループごとに分かれて調べ学習をした後は、必ず文字や絵でまとめ、全員の前で発表し、教室に貼ることにしている。自分の属するグループだけでなく、他のグループの活動にも参加している感覚を持って進める必要があると考えるからだ。「友達のしたいこと」を大事にすることは「自分たちのしたいこと」を尊重することにもつながる。


★協力者のもとへ馳せ参じる★

 ケナフを利用した染め物について詳しい人がいると新聞で読み、電話をかけて、直接お会いした。神戸女子大学瀬戸短期大学生活科の十一(じゅういち)玲子先生と山田千恵先生だ。子どもたちの染め物に関する質問に電子メールやファックス等で答えていただけることになった。何ヶ月か先の、答えをもらえた子どもたちの笑顔が浮かぶ。帰りの車の中ではついつい鼻歌が・・・。
 5月には、2年続いて種を分けていただくのも何かの縁と、城陽市の半田さんを訪ねた。子どもたちと考えたケナフプロジェクトの説明し、協力をお願いするためもあった。
 半田さんにも子どもたちとの交流の快諾を得た。そして、6種類の種をいただいて帰った。種の名前を紹介し、それぞれ好きな種を栽培することになった。


看板
種類がわかるように看板を立てた
★芽が出ない! なぜだ★

 6種類あると、植えるまでが一苦労。種類が混ざってはいけないので、1人ずつ給食の牛乳パックを洗い、出席番号を書き、そこに種5粒と水を入れ、一晩吸水させた。
 それから農園で種まきだ。ここでは、「大きく育てたい」グループが活躍する。元肥に、学校で飼育しているウサギのフンとウサギ小屋に敷いてあった切りわらを入れた。情報を集めるのはグループの子どもたちだが、行動はクラス全員で行う。
 ところが種をまいて2週間経っても、土の上に芽が出ないグループがあった。アメリカ合衆国産エバーグレイズ41だ。これは大変。せっかく活動に燃えているのにケナフが育たなければ元も子もない。予備として、プランターと植木鉢にもそれぞれ、1人5粒ずつ農園にまいた時と同様の準備をしておいたのだが、プランターにまいた方もエバーグレイズ41だけが発芽しない。
 どうしたエバーグレイス41!
 それでも植木鉢に植えて方は何とか発芽していたので農園に移植した。
 「なぜ、ぼくたちのケナフは芽がでなかったのか」と半田さんにビデオレターにして送った。半田さんの経験でも同じ条件で種をまいても全く発芽しなかったことがあるということだった。原因は不明。こうして栽培のスタートは大いにあわてさせられた。その後、エバーグレイズ41は他の種類のものよりも少し短いものの、8月末には1m50cmを超えてほっと一安心。


パソコン
ほとんどの子どもはパソコン初心者。練習用ソフトを購入し、休み時間に自由に練習させたら、みるみる上達した。
★デジタルカメラで撮影し、ホームページを自分でつくる★

 5月のある日、インターネットでよその学校のホームページを見ていた時のこと。「先生、ホームページをつくってみたいわぁ」という声があがった。パソコンを始めて2年ほどの私が学級のホームページをつくってきた。今年は3作目になる。「6年生だから、子どもたちができるようになるとすごいな」とは考えていたが、実際に意欲的な子どもたちの様子がうれしかった。
 毎年、私は最初の参観日に学級のホームページを作成する旨を保護者に説明している。子どもたちの写真等の「肖像権」、文章や作品等の「著作権」、ネット犯罪といわれるものについても話をして、掲載の了解を得る。写真を撮る時や活動の感想を書くときなどにも子どもたちに「ホームページに載せるけんな」と言葉を添えている。写真については加工して画像を小さくしたり、ぼかしたりしている。名前はひらがなで表記している。良識ある制作者、ネット利用者であるように指導も合わせて行なう。
 写真はデジタルカメラで撮影し、画像処理ソフトを使って小さくする。そして、ホームページ作成ソフトでページを作り、種グループごとにフロッピーに保存するという方法で作成中である。子どもたちは上達が実に速い。4月にはゲームもあまりできなかったのに、1学期の終わりには14人全員がデジタルカメラを使い、パソコンでホームページを作っている。ただ、これまではただの「観察の報告」に過ぎない。
 インターネットの使い方はたくさんあるが、自分たちが発信するのは必ず血の通った生きた声でありたい。体験したことでないと「伝えたい」とは思えないからである。電話、ファックス、電子メール、ビデオレター、手紙、直接会うなど、いろいろな方法で交流はできるがそれぞれのよさを活かしながら、ケナフプロジェクトを進めていきたい。
 ケナフは環境教育の素材として実にわかりやすく周囲の人にケナフを栽培することの理解を得やすい。しかし、その分、地域性がうすくなってしまう。誕生寺地区や久米南町には地場産業としての製紙はないのである。
 地域の人たちとどうかかわっていくか。そして、「なぁ、聞いて!聞いて!」と言いたくなる体験。これが今後の課題である。



日野学級はたからばこ http://paoprj.lucksnet.or.jp/member/hino/98hhp/

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