主張
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農文協トップ主張 1996年9月号
パソコンで情報検索の名人になる
農家は情報の発信者であると同時に編集者でもある

◆農家自らが作った情報を検索する

 この7月末、「現代農業記事検索CD-ROM」はすべての年版が完成した。1985年の1月号から1995年の12月号までの11年分のすべての記事(1万8000件余)の中から、瞬時に自分が知りたいことに応えてくれる記事を探し出し、パソコン上で読むことができる。
 一方、インターネットでは「農業・健康・食のルーラル電子図書館」が動き出した。この「ルーラル電子図書館」では、最近号までの「現代農業」の記事検索ができるだけではなく、この秋には、地域の健康な暮らしと食と遊びの原点を聞き書きした『日本の食生活全集』(各県版全50巻)や、農業技術研究の百科事典である『農業技術大系』(45巻)などを検索して、必要な情報を自分のパソコンに持ってくることができるようになる。
 「現代農業」「食全集」は日本の農家がその土地土地の自然と関わって暮らしを高め楽しむために作り出してきた経験の膨大な集積である。「農業技術大系」は農家と地域の技術的かつ地域形成的な必要に応えて研究者・専門家の膨大な成果が編成されたものである。いずれも、本質的には農家と地域が創造・発信・編集した出版物なのである。農家に必要な検索とは、本のページを片端からめくることではない。あるいは切り裂かれた断片的な科学的情報に偶然に行き当たることでもない。自らの全存在(欲求的、形成的、人間的)を反映して作られた情報の中から、自分の関心と必要に応じた情報を検索し編集し組み立てることである。発達したパソコンの機能と、農家が求める情報のデータベースが結合することではじめてそのことが可能になったのである。4月号の主張「パソコンで自分用の本をつくろう」に続いて、検索の持つ意味について考えてみたい。

◆検索の工夫がはじまった

 Sさんは愛知で花を作っている。パソコンは簿記と農業日誌くらいしか使っておらず、もっと毎日おもしろく自分が勉強できるように使いたいと思っていた。そこに「現代農業記事検索CD-ROM」がきた。ハダニとかスリップスが問題になるから、さっそく「ダニ」の防除に関する記事を探してみた。「ダニ」と「農薬」の両方の言葉を含む記事も調べたが、次のような方法でも検索してみた。すなわち、「ダニ」という言葉を必ず含んでいる記事で、「ポイント」か「タイミング」か「移動」という言葉を表題や見出しに含む記事を探したのである。すると左のような11件の記事があることがわかった。

掲載年月 表題
8806 100頁 農薬を最小限におさえる苗床時代の着眼と手の打ち方
9006 144頁 ミカンのハダニ防除 機械油乳剤で上手に抑える
9012 268頁 アスパラの宿敵 茎枯病は出さない
9101 204頁 イチゴに炭酸ガス高品質多収実現
9106 48頁 見えない気づかないハダニ被害 こんな錯覚が被害をふやす
9106 60頁 虫が見えない人、防除できない事情のある人のハダニ対策
9106 75頁 メロン 増殖が速いのは暖房機周辺
9106 91頁 イチジク 越冬場所をなくし、梅雨明けにたたけ
9106 154頁 リンゴ 機械油乳剤の発芽後散布 クエン酸加用で農薬大幅減
9106 163頁 なくせ秋ウンカ恐怖症
9301 208頁 ヨーロッパから天敵がさなぎでやってくる

 ダニは作物の周りの草刈りをしたときや、前作が終わって作物を抜いたときなどに隣の畑にぞろぞろ移動する性質がある。それで「移動」という言葉を入れてみたのだそうだ。また「ポイント」とか「タイミング」とかは「現代農業」がよく使っている言葉だから、これならズバリの記事が出てくるのではないかと考えたわけである。Sさんは「現代農業」がよく使っている言葉を入れるとおもしろいぞと、「この手」とか「決め手」とか「バッチリ」とかの言葉も使っていろいろ調べている。

◆世界が広がる「リレー検索」

 「現代農業記事検索CD-ROM」や「ルーラル電子図書館」の検索結果は、知りたいことの回答が1通りではなく、複数で出てくるのが特徴である。たとえば「ヨトウ」で検索してみる。すると、「ヨトウは幼虫が分散する直前までガマンガマン」「ヨトウムシ・コナガは初発生を見てすぐ薬をかけるな!」というように防除タイミングに関する記事があるかと思えば、「ミツバチも安心、ヨトウムシ退治法 農薬散布後にリフレッシュ」と防除後のミツバチ対策を述べた記事もある。「無農薬にしたときの最大の敵ヨトウムシ」「難防除の虫や病気もこの自然農薬で防ぐ」「コナガ、ヨトウ虫退治のための(黒砂糖+米酢)配合」のように農薬を使いたくない人のための記事も見つかる。また、「意外と効くゾ、フェロモンと黄色い蛍光灯」など最新の防除法を紹介する記事もあれば、逆に「捨てた技術に宝があった 昔の駆除は成虫をねらったもんだ◎糖蜜誘殺法◎枯葉誘殺法」というように昭和20年代の防除について書いた記事もある。
 回答が複数あるということは、農家が対面している事柄というのはどんな一つのことをとっても、いろいろなことの組合せであるということなのである。イモチ対策も、どんな農薬で効かせるといいかという記事もあれば、米酢で防除するにはどうしたらいいという記事もある。過石も使えるとか、窒素は多すぎてもだめだが切れていても大問題とか、防除しやすいように田んぼの中に条をあけると便利だとか、不耕起はイモチに強いなど……資材情報また作業とからんだ情報などさまざまな角度の記事が見つかる。そのすべてを考えに入れて農家はイモチと対しているのであって、イモチは何度で発生しやすいかとか、効く農薬はこれだなどの断片的な情報を必要としているのではない。
 さて、こうして検索を開始して、さらに自分に必要な世界を切り開いていくのが〈リレー検索〉という手法である。それには「見出しの詳細情報」の中から、もっとこれを調べてみようという言葉をなぞるだけで、それが自動的に次の検索をするための用語になってしまうのである。たとえば、右の「ヨトウムシ・コナガは初発生を見てすぐ薬をかけるな!」の記事の見出しの詳細情報を見ると次のように出てくる。

[号] 1989年6月号 [ページ] 98〜101
[記事区分] 防除特集
[執筆者] 水口文夫 [地域] 愛知県豊橋市
[タイトル] ヨトウムシ・コナガは初発生を見てすぐ薬をかけるな!
[サブタイトル] 「安いクスリで確実な防除」は第1回目の防除実施日の決め方にあり
[見出し] ●早期防除したのに防除に失敗?
●ヨトウムシの1回目の防除適期は幼虫が「分散」する直前
●畑ごとに防除適期日はちがう
●1斉防除は時代おくれ
●コナガの初回の薬かけは、ウネ間を歩いて蛾が飛びたつときから1週間目くらい
[キャプション] 図1 ヨトウムシの必殺防除法/図2 コナガの必殺防除法

 この記事を書いたのは愛知県の水口文夫さんであることがわかる。水口さんの発想に興味を持って「どんな人だろう?」と思ったら、キーボードなどさわらずに「水口文夫」という名前をパソコン上でなぞるだけでよい。直ちに、水口さんがこの11年間に書いた記事が検索できる。実に153本もある。この中から単行本が3冊も生まれたくらいだから、この全部を見るのは大変である。さらに「スイカ」という言葉を含む記事で絞れば、水口さんがスイカに関連させて書いた記事が29本あることが検索できる。
 こうして自分の関心があるところを次々とリレーしながら検索して世界を広げていけるのである。もちろんリレー検索は著者名だけではない。たとえばヨトウムシと1緒に出てくる「コナガ」の言葉を選べば、今度はコナガについての記事が36本並んでくる。
 「現代農業記事検索CD-ROM」では今流通しているすべての農業書についても検索できるから、水口文夫と入れて農業書検索をすれば、今度は著書名がわかる。

◆記事もカラー写真も拡大して見られる

 検索の結果、この記事を読んでみたいとなったら「現代農業記事検索CD-ROM」でも「ルーラル電子図書館」でも「画像表示ボタン」を押すと記事が出てくる。
 CD-ROMのほうでは、その記事を拡大したり切り取って自分のパソコン上のノート(ワープロ文書)に貼り付けることができる。ある99歳になる研究者は、「現代農業」そのものではもう字がかすんで読めないのであったが、「現代農業」の1段がパソコン画面いっぱいにも拡大できるので、これなら自分にも読めると喜んでおられた。
 カラー写真はカラーで出てくるが、これも拡大してみると、今までと全然違う世界が見えてくるから不思議である。カラー口絵に載っている、たくさん採る人のイチゴのパック詰めの写真を拡大してパソコン画面いっぱいにすると、イチゴ一つ一つの顔が見えてくる。種子(そう果)の一つ一つの色づきもわかるから、その人の技術がよりじっくりと眺められるのである。果樹も枝振りのカラーを拡大することで、玉と果そう葉の関係をじっくり見られる。拡大することで不耕起栽培の根の張りぐあいも一層わかる。
 記事の中の、これは興味あるという図表を拡大して見ると、これまた全然違う印象である。一つ一つの数字がなにやら光りを放ってアピールを始める。図も大きくすることで存在感を強めてアピールしてくる。その拡大したところで切り取ってノートに貼り付けることもできる。もちろんそのまま印刷することもできる。料理の記事を切り取る人もいれば、技術の記事から切り取る人もいる。こうして、自分用のメモ帳がどんどんできていくのである。最近のパソコンはこういうことをかなりおもしろくできるようになってもいる。
(注)「現代農業」は日本複写権センターで特別扱いになっている白抜きR出版物である(「現代農業」の毎号の目次ページ参照)。個人のためにコピーしたりパソコンからの印刷を出したりすることは著作権法上許されているが、複数人数のためのコピーは複写権センターか農文協の許可と利用料の支払いが必要である(一部1ページ20円となっている)。生産部会等の資料を作るときなど、記事そのものをコピーするときは許可がいるわけである。しかし、自分や生産部会の意見とか考えを述べ、それに必要な引用を「現代農業」から切り取って自分の資料を作るというのであれば、それは自分の著作物である。当然コピーしてもよい。

◆農業高校での「かぐや姫パン」の誕生と
CD-ROM 検索

 最後に農業高校での経験を紹介しよう。9月に出る「農村文化運動」で詳しく紹介される予定だが、岩手県立1関農業高校の伊勢勤子先生の話である。
 最近の農業高校では課題研究という科目があり、生徒は課題テーマを徹底的に研究して卒業論文にまとめていく。伊勢先生は微生物コースの指導を担当。今年のメインテーマは「竹林からかぐや姫パンを作ろう!」なのだそうである。1関市は岩手県で孟宗竹が生息できる数少ない土地の一つ。その竹林から土着の天然酵母を採集し、香りの強い古くからの南部小麦を使って、竹の葉の養分も取り込んで、しかも最後は竹筒を使って焼き上げようという、徹底的に「土着」にこだわったテーマである。土着菌にこだわっている当編集部としては、まさにわくわくするようなユニーク発想に目を見張る思いである。
 ところが、である。先生によると「すばらしいアイデアだと自負していたが、生徒たちの取組みはいま1歩であった」のだそうだ。ところがところが、である。生徒に「現代農業記事検索CD-ROM」を使って「かぐや姫パン」に関係しそうな記事を検索するよう指導したところ、生徒たちは目の色が変わった。伊勢先生が提案したことのおもしろさ、このテーマの研究の意義の深さを「しっかりと把握して実験を始めることができた」という。
 生徒が検索した言葉は、〈天然酵母〉〈土着微生物〉〈土着菌〉〈竹〉〈国産小麦〉等々。これらのキーワードを含む記事を調べるとそれぞれ10件、7件、43件、200件、100件の記事がある。たとえば〈天然酵母〉を検索すると次のような表題一覧が出てくる。

8607104頁パン酵母を自分でつくる
8610360頁国産小麦で天然酵母、自然海塩でパンつくりを楽しんでいます
870474頁かーんたん 天然酵母のパンつくり
880492頁自動パン焼き器で天然酵母の国産小麦パン
8806286頁農家と消費者が守り続ける「ハチマン小麦」(1)
881272頁梅ジュース酵母、ブドウ酵母で国産小麦パンを焼く
890962頁「アトピッ子民宿」大反響
9001100頁地元の小麦をミキサーで粉に 自家製ブドウ酵母で楽しんでます
9003276頁グツドモーニング、エブリボディの直売所 白菜祭りも大成功
900788頁ユメの国産小麦100%天然酵母パン

 伊勢先生は次のようにコメントしておられる。
 「『現代農業記事検索CD-ROM』の操作は簡単で、『コンピュータはどうも……』という生徒でも使いこなせることがわかった。現在生徒たちは基本的なパンの作り方を身につけているところである。さらに文献を参考に市販の乾燥酵母と天然酵母の違いを調べたり、竹の葉の有効成分を抽出したり、竹林やフルーツから天然酵母を殖やしたりと、大忙しである。かぐや姫パンは案外はやく完成しそうな予感がする。いままで講義と実験というかたちで授業を展開してきたが、『現代農業記事検索CD-ROM』などのような教材による情報検索によって、生徒は研究の意義を理解し、積極的に実験に取り組んでいけるのではないか」
 「現代農業」は先にも述べたように、基本的には農家が作ってきた雑誌である。農家が発信・編集して作ってきた「現代農業」の記事は検索という方法によって若き農業高校の生徒たちの気持ちに響いたわけである。


 21世紀は農業、食糧、健康、環境、教育など人間の暮らしの根本に関わることが最大のテーマとなる世紀と言われている。そういう時代にあって、「現代農業記事検索CD-ROM」と「ルーラル電子図書館」は、情報とは上意下達で断片的なものが流されるものという情報観に対抗する。情報は農林漁家でこそ作られており、それを編集活用する主体も農林漁家であるという時代になったのである。農林漁家こそが21世紀を生きるにふさわしい情報を日々作っている。その農林漁家が全国の多様な地域で創造した自らの情報を活用できるとき、21世紀は人間的な世紀として切り開かれていくだろう。
(農文協論説委員会)
「現代農業記事検索CD-ROM」85〜95年の記事検索と画像表示。定価:11枚セットで90000円(消費税込み、送料サービス)。
「農業・健康・食のルーラル電子図書館」インターネットの農文協のホームページから入れます。ただし、図書館は入館有料の会員制。月額2000円。グループ割引他、読者優待制度あり。URLは、http : //www. ruralnet. or. jp/
「農村文化運動」年4回発行の農文協の雑誌の一つ。A5版64ページ。1年予約1040円。


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