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農文協トップ主張 2017年3月号

農業と地域の跡継ぎづくりの新局面
「いえ」と「むら」が生まれ変わるとき

 目次
◆新規就農者が久々に6万人を超えた
◆第三者継承で若返る山奥のむら
◆酪農家のネットワークで第三者継承を支える
◆集落営農の跡継ぎをつくる工夫
◆集落営農で雇って独立を支援
◆たくましく育つレディースファーマーたち
◆「半農半X」「半林半X」という生き方
◆田園回帰を支援するJAの役割
◆田園回帰は世界の潮流

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新規就農者が久々に6万人を超えた

 農水省によれば、2015年の新規就農者は6万5030人と6年ぶりに6万人台を回復。なかでも49歳以下は2万3030人と、2007年の調査開始以降最多となった。

 農業界にとっては、ひさびさに明るいニュースである。

 ひと口に新規就農者というが、新規自営農業就業者、新規雇用労働者、新規参入者の三つに分けられる。新規自営農業就業者は農家の子弟で「親元就農」した人、新規雇用労働者は農業法人などに7カ月以上フルタイムで雇われた人、新規参入者は農地を取得して新たに農業経営を開始した人をさす。ここ5年ほどの傾向でみると、新規雇用労働者、新規参入者の増加が目立ち、39歳以下の新規就農者では、両者が占める割合が、2015年にはじめて5割を超えた。つまり、農家以外の出身者が、若い新規就農者の過半数を占めるまでになったのだ。

 こうした傾向は、若い世代のなかで強まる、都会から田舎に向かう動き=「田園回帰」と大いにつながっている。

 いまや田園回帰する農家以外の人をどう生かすかが、農業や地域社会の存続にとって避けて通れない課題になっている。田舎志向の「よそ者」をいかにして農業と地域の後継者に育て上げるかということだ。

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第三者継承で若返る山奥のむら

 本誌の姉妹誌である『季刊地域』編集部は、昨年京都府舞鶴市の谷の最奥にある西方寺平集落を取材した。西方寺は戸数11軒の小さなむらだが、15年間でそのうち6軒にUターン者またはIターン者が来た。現在は小学生以下の子供が9人。集落の平均年齢は40歳に若返った。

 養鶏と稲作を夫婦で営む泉清毅さん(75歳)は、血縁のない入澤祐樹さん(22歳)に養鶏経営を引き継いだ。体力的に養鶏がきつくなってきた泉さんだが、自家配合のエサで育てた卵を3軒で共同販売している関係で、自分だけやめては仲間に迷惑がかかる。そこで青年就農給付金(準備型)を活用して、入澤さんを2年間研修生として迎え入れた、2015年4月に2棟の鶏舎と採卵鶏1200羽を移譲した。養鶏部門を譲っても、米と自家用野菜があれば、暮らしには困らない。「第三者継承」でも農業者年金は受け取ることができる。泉さんは入澤さんが農業だけでなく、西方寺平の担い手となることを期待している。

 もともと、日本の家族経営の農業は家(いえ)によって代々引き継がれてきた。戦後の農地解放は広範な自作農を生み出したが、家を中心とした農業の継承という仕組みは変わらなかった。これからも、家族経営のかなりの部分は親から子へ継承されていくであろうが、地域農業・地域社会の存続のために、その継承の仕組みをもう少し柔軟に考えるべき時にきているのかもしれない。

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酪農家のネットワークで第三者継承を支える

 北海道では、このような第三者継承を酪農家のネットワークによって支援する動きが生まれている。中標津町の三友盛行さんら「マイペース酪農交流会」のメンバーは、研修に入った就農希望者が農場と牛をそのまま引き継ぐ第三者継承を、「リレー継承」と呼んで積極的にすすめようとしている(326ページの連載も参照)。「リレー継承」では、新規就農希望者が2年間ほどの実習を経て、その牧場をそのまま引き継ぐので、すぐに収入を得ることができる。5年分割で土地代を除く流動資産分(乳牛・機械・施設など)を返していき、5年後からはスーパーL資金などを活用して土地代を償還する。この仕組みなら自己資金の少ない新規就農希望者が無理なく経営をスタートすることができる。

 これに対して、行政がすすめている農場リース事業では、土地を農業公社がいったん買い上げ、乳牛も機械も施設もすべて新たに整備されるため、いくら補助制度を利用しても負債がふくらんでしまう。

 この農場リース事業では生乳の生産量確保の視点が強い。だから補助金に頼った大規模・高泌乳酪農が前提になってしまう。しかし、いま酪農に関心を寄せる若者のほとんどは、無理のない規模の家族経営による放牧酪農を志向している。三友さんたちはそこに大きなミスマッチを感じた。そこで行政とも連携しながら、全道的なネットワークによって、放牧酪農の「リレー継承」を支援する活動に乗り出したのである。新規に酪農を始めたい人と、引退を考えている酪農家を全道でマッチングしていく。仲介者が間に立つことで、研修生と里親の関係がぎくしゃくしたときも、調整することができる。

「リレー継承」のメリットは経営を移譲する側にもある。流動資産と土地代が少しずつ償還されれば、老後にゆとりある暮らしをおくることができる。そして長年にわたる土づくりで蓄積した地力や牛の性質、それに合った農法といったおカネに換算できない資産を含めて、トータルとしての農場が継承される。たとえ自分の子供が跡を継がなくても、自分が築き上げた農場と長年の営みや思いは次代に引き継がれ、地域が存続していく。

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集落営農の跡継ぎをつくる工夫

 一方小規模な農家が多いむらでは、集落営農という協同の力で跡継ぎをつくる動きが始まり、そこにさまざまな工夫が生まれている。

 たとえば、島根県奥出雲町の農事組合法人三森原、一集落一農場型の集落営農法人だが、ここでは組合員を一戸複数参加制にして、息子世代の参加意識を高めている(本誌2016年11月号)。

 三森原は16戸ほどのオール兼業の集落。息子世代7人はJAや森林組合、建設会社などにみな勤めているが、いまから法人の組合員になってもらえば、集落のことにも関心がもてるし、父親がポックリ逝ったときに急に組合員になれと言われるよりは世代交代もスムーズにいくと考えたのだ。7人全員から了承を得、面積割の出資金35万円ほどの半分を父親から息子に譲渡して迎え入れた。こうして組合員になれば、作業に出た時間に応じて従事分量配当(労賃)を支払える。それまでは頼まれて草刈りなどをしても、労賃は組合員である父親の口座に振り込まれていたが、これなら息子のものになるからモチベーションも上がる。

 長年法人の舵取りをしてきた佐伯徳明さん(75歳)は、法人立ち上げに当たって、「誰かがやってくれるだろう」という依存心が生まれ、集落に目を向けない人が増え、その雰囲気が子供たちに伝わるのが一番怖かったという。息子世代7人を組合員に迎え入れた2年後、佐伯さんたち世代は一斉に引退し、ひとまわり若い世代にバトンタッチした。その次の役員は7人のうちの誰かが担うだろうと佐伯さんは思っている。

 品目横断的経営安定対策の制定前後に集落営農法人が各地で誕生して10年以上がたち、中心メンバーが70〜80代になって、どこの法人も世代交代が悩みのタネになっている。こうしたなか、一戸複数参加制はむらの若手の自覚を高め、集落営農の跡継ぎとして育てる有効な手段として注目を集めている。

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集落営農で雇って独立を支援

 集落営農で新規就農希望者を雇いつつ、若い農業者が独立できるよう支援している組織も増えてきた。滋賀県甲良町の農事組合法人サンファーム法養寺では、2015年3月に滋賀県立農業大学校を卒業した山本志穂さんを雇い入れた。志穂さんは地元出身だが実家は非農家。農業が好きで、農業高校から農業大学校に進学したものの、卒業を控え、「農業をしてみたいが行くところがない」とのこと。

 そこでサンファーム法養寺では志穂さんを2年間の「農の雇用事業」を活用して雇った。さらに果樹経営を目指したいという願いをかなえるために、「人・農地プラン」で認定新規就農者として位置づけるとともに、ブドウの植栽を始めるなど、着々と準備をすすめてきた。集落営農が若い戦力を得て活性化したばかりでなく、新規就農希望者である若手も農業の技術を身につけながら、農地の確保や資金に悩むことなく、独立就農に向けての準備をすすめることができるのである。

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たくましく育つレディースファーマーたち

 田園回帰と結びついた新規就農では、こうした女性の動きもめざましい。女性就農支援の先進地、北海道新得町にはレディースファーマーズスクールという独身女性の新規就農者を育成する町立の施設がある。20年前の1998年に開設。以来、毎年10人ほどの研修生を受け入れ続けてきた。研修期間は1年が基本だが、短期研修も受け入れる。研修生はスクール内に個室が与えられ、食事も支給される。1年間で3カ月ずつ、経営内容の異なる4カ所の農家で実習する。たとえば酪農家で実習する場合、朝は酪農家で乳搾りをしたあと実習先の農家で朝食をとり、昼食と夕食はスクールでとる。受け入れ側にも研修生にもなるべく負担が軽くなる配慮がなされている。

 スクール立ち上げ当時は、農家の嫁さん探しという側面もあり、それはそれで大事なことだが、修了生たちはさらにアクティブだった。単身で酪農をはじめたり、修了生同士で農業の新会社を立ち上げたり。

 地元の酪農家で研修生を受け入れてきた湯浅優子さんは、「若い女性たちが農村で暮らし、農業を学びながら地域に溶け込んでいく様子は、地域に新しい風を起こし、受け入れた農家や地域の人も刺激を受けた」という。

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「半農半X」「半林半X」という生き方

 いま都会から農村に向かう若者には農的暮らしにあこがれはあっても、農業だけで生計を立てようとは思っていない人が多い。農業とさまざまな副業を組み合わせた半農半Xこそ彼らの理想なのだ。

 島根県の「半農半X支援事業」では県外からのU・Iターンの応募者のなかから「半農半X実践者」を認定。最長1年間、月12万円を支給し、農業に必要な施設整備の経費も助成している。そうした「実践者」のなかから、同じ町内の集落営農法人と酒造会社で働く「半農半蔵人」など、多様な就業スタイルで若者が定住している。それは人出不足に悩む地元企業と農業が手を携える道でもある。

 一方、林業では、Uターンした孫が祖父母の持ち山で施業をはじめたり、山を持たないU・Iターンの若者が山主に代わって山林経営をする「自伐型林業」が脚光を浴びている。そこでも注目されるのは、春から秋はカヌーのインストラクターを務め、冬場は山に入るというような「半林半X」スタイルだ。

 これから自伐型林業を始めようという個人やグループを支援する「NPO法人自伐型林業推進協会」もでき、各地で研修会も開かれている。

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田園回帰を支援するJAの役割

 JAの取り組みもさまざまに進められている。

 茨城県のJAやさと(石岡市)は、1997年に有機栽培部会を立ち上げるとともに、桑畑跡地を利用した研修農場で毎年1夫婦を受け入れ、2年間の研修を行なってきた。研修の内容は実際に野菜をつくって販売するというもの。農機具はJAが支給する。研修生は研修期間中に有機JAS認証を取得し、部会活動に参加。新規就農者であると同時にJAの有機栽培部会員として育っていく。

 こうした取り組みを18年続けた結果、JAやさとの有機栽培部会の3分の2を移住者が占めるまでになった。

 いま田園回帰する若者たちの多くは、単に生活の手段として農業に就こうとしているのではなく、田舎ならではの暮らしを求め、地域の一員として根を下ろそうとしている。

 農業や農協の改革を求める声がかまびすしい。しかしその改革の方向とは、市場経済のもとで競争力を高めることではなく、「いえ」や「むら」にあった共助の精神を現代に生かし、そこに田園回帰する人々をも包み込んでいくことではないか。

 1970年代に群馬県上野村に移り住んだ哲学者の内山節さんは、新年早々、農協人に向けて、こんなメッセージを送っている。

「市場経済が暴走し、それが社会や文化などを破壊する時代を発生させた。経済成長だけをめざして、社会や地域が破壊されていく時代が発生してしまったのである。今日の課題は、この問題とどう向き合うかだといってもよい。それはみんなが安心して生きていける場としての社会や地域をどうつくるかということであり、生きる世界の諸要素の結びつきを再創造していくことである」(農業協同組合新聞2017年1月3日付)と。

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田園回帰は世界の潮流

 こうしたグローバル経済に抗する動きや田園回帰は、世界的な潮流となっている。農文協が発行する「シリーズ田園回帰」は、3月発行の『世界に学ぶ田園回帰』(仮題)で全8巻が完結するが、そこに寄せられた各国のレポートから、かいつまんで見てみよう。

 先進国では都市化が早い段階で終焉し、田園回帰(脱都市化)傾向が進行ないし、定着している。フランスでは1975年から、農村人口が長期にわたる減少から脱して増加に転じている。ドイツでも1980年代からの脱都市化が進んできた。いまは一段落し、再都市化の兆しも見られるというが、農村地域の減少予測も5%程度で安定している。第二次大戦後に農業・農村の衰退したイタリアでは、1990年代後半からアグリ・ツーリズモ(グリーンツーリズム)やスローフード、スローシティといった食と農による地域づくりがネットワーク型ですすめられている。

 そこには田園回帰に伴う新たな課題もある。フランスでは農業の規模拡大が進められた結果、農村における農業従事者が激減し、移住者に対する農業での受け皿が少なくなった。イギリス(イングランド)では田園地域での安価な住宅建設により、田園らしい景観の喪失が問題になっている。このように見るとき、日本の農村はまだまだ田園回帰の受け皿があるとみていいのではないか。

 日本では高度経済成長期、次、三男が「金の卵」として東京へ出ていくなど大都市への人口集中が進み、これに対して地方は企業誘致などによって仕事をつくり、大都市との格差を是正しようとしてきた。その後、企業誘致のような地方振興策は難しくなっていったが、家と村は維持され、1980年代から小さな仕事場づくりが進められた。直売所や農産加工をにぎやかに展開し、集落営農で農業と村を守り、そして最近の自伐型林業まで……。こうした営々とした努力の積み重ねの結果、「半農半X」「半林半X」のような暮らしが成り立つまでになった。それは日本社会の健全さの証であり、優れた資質といえる。各国のレポートはこうした日本社会の特質にも気づかせてくれる。

 もうひとつ注目したいことは、フランスでもドイツでもイタリアでも、暮らしのベースを支える地域自治はごく小さな単位(基礎自治体)で住民主体で行なわれ、それが田園回帰を受け止めているということだ。たとえば、フランスのコミューンは全国で3万6565もある。日本で明治21年に町村制がしかれたとき、江戸時代から続くむら(自然村)は7万1314あった。フランスの人口が約6000万人で日本の半分であることから、フランスのコミューンと日本の自然村の人口規模はほぼ等しいといえる。平成の大合併で地域の活力がそがれるなか、自然村(江戸時代のむら)や旧村(昭和の合併以前の村)といった小さな単位から地域を設計し、運営することが求められている。

 いま、新規就農とその支援をめぐり、全国各地でこれまでになかったような様々な工夫が生まれている。1月発行の『新規就農・就林の道』(「シリーズ田園回帰」第6巻)では先に紹介した事例を含め、多様な新規就農・就林のかたちと支援の工夫を一冊に結集した。多彩な取り組みに元気とヒントをもらいながら、それぞれの地域の事情に合わせて、農業と地域の引き継ぎ方に知恵をしぼっていただきたい、と思う。

(農文協論説委員会)

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この記事の掲載号
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