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「いま注目のキノコ品種」より

松きのこを指差す筆者、世羅きのこ園の会長(写真はすべて小倉隆人撮影)
松きのこを指差す筆者、世羅きのこ園の会長(写真はすべて小倉隆人撮影)

マツタケによく似た松きのこがブーム

広島・東山 正

松きのこ誕生秘話

 松きのこは、(有)世羅きのこ園でマツタケの研究をするなかで生まれたシイタケの仲間のキノコです。

 世羅町は日本でも有数のマツタケ産地でした。しかし酸性雨や黄砂、マツクイムシなどの影響で、しだいに発生量が減り、年間100kg前後しかとれなくなっていました。マツタケだけでなく、一般的なキノコも姿が見えなくなってきていました。キノコが山から姿を消すと、倒木した木(セルロース)を分解する役目をする者がいなくなり、倒木したままの木が堆積し、大雨などによる土砂災害などの被害が起こりやすくなります。

 そんな山の現状を改善するために、私はいろいろなキノコを人工栽培し、山に帰してやれないかと考え、研究栽培を進めてきました。が、一部を山に帰しても獣害などを受けてキノコが育たないため、屋外栽培から屋内栽培へと移行しました。

 そして、さまざまな研究をするなかで、ある種菌の1年物、3年物、5年物、7年物、10年物、12年物のなかにシイタケ菌を少しだけ加える実験を繰り返しているとき、今まで見たことのないキノコが発生したのです。そこからさらに研究を重ね、形のよいものを培養し、優良選別を繰り返し、20年近い歳月を費やした結果、松きのこが誕生しました。

生で食べられる驚きの食感

 松きのこは、姿かたちがマツタケによく似ています。香りは山のキノコのような感じです。芳醇な風味があり、生食できるサクサクとした食感には驚かれる方が多いです。

 おいしく食べるコツは、火を通しすぎないこと。炭焼きやホイル焼きにすると、他のキノコにはない、ほんのりとした甘みと独特の香りを楽しめます。特に人気が高いのは天ぷらです。高温でさっと揚げ、天つゆでいただくと、シイタケなどにはないサクッとした食感にジューシーな旨みが口中に広がり、その味は絶品です。これが食べたくて世羅町まで何度も足を運んでくれるお客様がたくさんおられます。

 生食できるので、松きのこを割いてサラダに入れたり、和風カルパッチョ(白身魚の刺し身にスライスした松きのこを添え、ドレッシングで和える)にしてもおいしいです。特に若い方には人気です。

7回収穫するリサイクル栽培

 栽培にあたっては温度・湿度によって育ち方がぜんぜん違うので、菌床内の温度や湿度を適度(温度は培養中20〜22度、収穫中15〜20度、湿度75〜80%)に保つように心がけています。また、安全安心なキノコを生産するために、コバエ対策などの殺菌剤も使わない無農薬栽培です。そのために衛生管理は徹底しています。雑菌が入らないようハウスは密閉し、床はコンクリートにして毎日水洗いしています。

まず袋に入れて一定期間、菌を培養(松きのこは約120日、松なめこは約100日)
その後、袋から取り出して、下写真のようにキノコを発生させて7回ほど収穫する
菌床培地に植菌したら、上写真のようにまず袋に入れて一定期間、菌を培養(松きのこは約120日、松なめこは約100日)。その後、袋から取り出して、下写真のようにキノコを発生させて7回ほど収穫する

 菌床の培地は広葉樹のオガクズ2種に、栄養素として米ヌカやフスマほか3種類の有機物を混ぜて自家製造しています。そこに植菌し、120日ほど菌を培養してから収穫が始まります。

 シイタケなどの菌床は、通常3回収穫したら廃棄し、次々に新しいものに替えますが、世羅きのこ園では同じ菌床を6〜7回繰り返し使って収穫しています。ただし、これをやるには技術が必要です。収穫後毎回、まず菌床を7〜10日ほど休養させます。このときにカビ(18〜20度の乾燥状態でつく青カビ)がつかないように温度を20〜30度に上げると、松きのこの菌糸だけが元気になります。その後、浸水して吸水させると、温度差のショックで菌糸がさらに活発になります。こうすると、菌床内のセルロースがなくなるまで何度でも収穫できるのです。ひと手間かかりますが、同じ菌床を6〜7回使えば、木材の使用量を3分の1以下に抑えることができます。環境にやさしいリサイクル栽培です。

生産が間に合わない状態に

 松きのこが誕生して17年経ちました。最初はへんなキノコと言われたり、見向きもされなかったりで、販売にも苦労しました。しかしあきらめず、販売努力や生産を続けるなかで、少しずつ認知されるようになり、4〜5年前からは、おかげさまで生産が間に合わない状況になってきました。特に秋は3カ月先まで予約でいっぱいです。

 ここ世羅町はマツタケの産地ですので、秋にマツタケを買いに来るお客様が大勢おられます。そのときに松きのこのことを知り、リピーターになってくださる方が多いように思います。

「マツタケを買うと高いが、松きのこなら同じ値段で10倍くらいの量を買える。それで試しに買ってみて、料理に入れてみたら、食感はマツタケとあまり変わらなかった。味もいい。だから毎年これを買っています」

 お客様からよくこんな声を聞きます。

市販のナメコ(右)と松なめこ。大きさがまるで違う。松なめこは市販品のようにはヌルヌルしていない 松きのこの出荷調製作業。世羅きのこ園では、現在13人のスタッフでキノコを生産
市販のナメコ(右)と松なめこ。大きさがまるで違う。松なめこは市販品のようにはヌルヌルしていない 松きのこの出荷調製作業。世羅きのこ園では、現在13人のスタッフでキノコを生産

松なめこもおいしい

 世羅きのこ園では、ナメコの育種から誕生した松なめこの生産も行なっています。市販のナメコの20倍ほどの大きさで、とても香りが強いのが特徴です。これを洗わずに半分に裂き、フライパンで軽く乾煎りすると、ふたを開けたときの香りはもう最高です。早く大量生産し、多くの消費者の方々に食していただきたいものです。

生産者募集のお知らせ

 わが国のシイタケの消費量は1日4000tとも言われていますが、松きのこの生産量は現状1日にわずか0.1tほど。私たちは松きのこのおいしさを、全国にもっと広く知っていただきたいと思っています。このキノコの栽培に興味をお持ちの方は、私たちと一緒に全国に普及してみませんか。地域の活性化のために頑張ってみませんか。ご連絡をお待ちしております。

(広島県世羅町)

世羅きのこ園 担当:東山

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年2月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年2月号

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