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とるぞ 稼ぐぞ 食べるぞ エダマメに乾杯!
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エダマメの旬が到来!
鮮度が命の野菜だが、大規模に作付けできて
米よりも、ダイズよりも儲かっちゃう
多収のワザには特に注目「エダマメ 多収のワザ」コーナーより
倒伏しない、莢が腐らない
ヒョロ苗は寝かせ植えせよ島根県浜田市・峠田 等さん
梅雨時期は、あっという間にヒョロ苗よ
連載「ハウスなし、トラクタなしで12a340万円稼ぐ」(220ページ)でお馴染みの峠田等さん(74歳)。売り上げのうち120万円は庭先でつくる直売苗で、春はエダマメ苗も販売している。鮮度が命のエダマメは、とってすぐが一番うまいということで、家庭菜園愛好家に人気がある。峠田さんの苗は、背が低くてガッチリした良苗なので、1ポット110円でよく売れるのだ。
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峠田等さんとエダマメ苗。子葉の上がヒョロ〜ンと伸びている
ところが6月上旬から、苗づくりは峠田さんをもってしても、いくぶん難しくなってくる。
「梅雨入りするじゃろ。日が差さない、ぬくい、ジメジメする……あっという間にヒョロ苗よ」
育苗中のエダマメは、ちょっとの油断で徒長してヒョロ苗になり、商品価値がなくなる。直売所に並べても、売れ残って数日たったらもれなくヒョロ苗だ。
畑に植えるにも、ヒョロ苗だとじつに厄介。そのまま植えると倒伏する。倒伏すると着莢率が下がるうえ、実入りも肥大も悪くなる。かといってヒョロッと伸びた部分が埋まるくらい深植えすると、根(種子根)が酸欠になって生育が悪くなってしまう。
でも峠田さんは実際には全然困っていない。ヒョロ苗でもちゃんと収量がとれる、とっておきの方法があるからだ。
寝かせて植えたら、倒れないんじゃなかろうか?
8年前、まだ直売所での苗販売をやっていなかった頃のことだ。6月中旬、峠田さんは足首を骨折した。地域の運動会で派手に転んでしまったのだ。農作業ができない日々が続き、ようやく動けるようになったのは7月に入ってから。庭先には、6月25日に植えるはずであった、自家用の丹波黒大豆のセル苗があり、背丈30cmを超えるヒョロ苗になっていた。
10月下旬頃にとれる丹波黒のエダマメは、甘みと香りがすばらしいうえ、粒が大きく、食べごたえがある。峠田さんも大好きで、植えるのを楽しみにしていたのだが。
晩生で、草丈が大きくなるこの品種は、ガッチリ苗を植えたとしても、3回ほど土寄せしなければ倒伏し、大減収する。ヒョロ苗ならなおさらだろう。植えるのを諦めかけていた峠田さん、はたと閃いた。
「ヒョロ苗を、浅く、寝かせて植えたら、倒れないんじゃなかろうか?」
倒伏なし、莢の腐れなしで増収!?
定植予定日より13日遅れた7月8日、双葉の次に出てくる初生葉の下の辺りまで土に埋まるようヒョロ苗を寝かせて植えた。すると、翌日には葉が上向きに立ち上がった。その後は、ガッチリ苗以上に節間が短く、草丈が低く育ち、生育は順調だった。草丈が低いおかげで、土寄せを一度もやらなくとも、倒伏は皆無だった。
そして迎えた収穫。各節にはびっしりと莢が付いていて、着莢数はガッチリ苗と同程度。莢は実入りがよく、しいなも少ない。さらに、いつもなら下に付く莢がなぜか腐りがちだったのだが、寝かせ植えだとそれもない。大増収、とまではいかないが、倒伏による減収も、莢が腐るロスもなかった。
以来、峠田さんはエダマメのヒョロ苗が怖くなくなった。6年前に直売所で苗を売り始めてからも、ガッチリ苗ができたときは苗で売ればいいし、ヒョロ苗になったら自分で寝かせ植えして青果で売ればいいからだ。
それにしても峠田さん、自分が転んだおかげで、土寄せなしでも転ばない丹波黒のつくり方を発見したというのだから、これぞ「怪我の功名」である。
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使う道具は竹ベラだけ。正月飾りの角松を削って作った(写真は赤松富仁撮影、以下も)
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竹ベラを植え穴に斜めに深く差し込んで持ち上げる。できた隙間に、苗を初生葉の下まで挿入し、竹ベラを抜く
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葉ボタン、タマネギの順に収穫したウネに植えた。株間は15cm、条間は30cm
土寄せ効果もある
5月1日、寝かせ植え1週間後のエダマメのヒョロ苗があると聞いたので、峠田さんのお宅にお邪魔した。
プランターに植えられたヒョロ苗は、地上部の本葉は天に向かってピンと立っている。地下部の様子はどうなっているのか? ちょっと掘って断面を出してみると……わずかだが、胚軸から白い根が出始めている。
「丹波黒に土寄せするんは、倒伏防止のほかに、新根を出す狙いもある。1枚目の本葉の下まで土寄せして発生した根が、実を肥大させるともいわれてるんよ。ヒョロ苗を寝かせ植えすると、土寄せと同じ効果があるんじゃろうね」
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ヒョロ苗を寝かせ植えした1週間後。見えにくいが、胚軸から新根が伸び始めている