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新連載 北の国から 力がわいてくる自給菜園

ジャガイモの超浅植えに挑戦

北海道・斎藤 昭

自給菜園の様子。背中を見せているのが筆者。NPO法人白老有機農業塾の講師も務めており、自給野菜づくりを周囲にも広めている(伽賀英彦撮影)

白老町で第二の人生

 1943年生まれの76歳です。教員として32年間勤務し、第二の人生は自給菜園でさまざまな野菜を育てる農的生活を楽しんでいます。

 生まれは北海道江別市。家は原始林に接していて自然豊かな環境で育ちました。戦中戦後の混乱期は家族全員で力を合わせて乗り越えてきました。兼業農家で、子どもの頃から畑で食べ物を自給できれば貧しくとも生きていけるという強い気持ちが育ちました。

 第二の人生の場所に選んだ白老町との付き合いは40年になります。以前から職場で行き詰まったときなど必ず白老町を訪れていました。この町の海や山がいつも私をリフレッシュさせてくれ、退職したらここで農的生活をしたいとずっと考えていて、19年前ついに実際に暮らし始めることになりました。

野菜は育たないと言われたが

 しかし白老町は、暖かくなるはずの5月から8月に濃霧がよく発生して低温と日照不足に見舞われるため、「畑作物の栽培が難しい」といわれてきた地域です。たしかに広大な土地があるのに畑や家庭菜園はほとんど見られませんでした。

 そこで最初に10年かけて下のとおり、環境整備など四つのことに取り組みました。その結果、苦労はありましたが、白老町でもほとんどの野菜を栽培できることがわかりました。それ以来、自給菜園でたくさんの野菜をつくってきました。

『農家が教える野菜づくりのコツと裏ワザ』(農文協発行、1500円+税)には高齢者でもラクにできる栽培術が満載。この本に出会えてさらに農業への意欲がわいてきた

高齢者の希望が詰まった1冊

 ただ、私も後期高齢者の仲間に入り、畑仕事がきつくなり、もっとラクして野菜づくりができないかといつも考えるようになりました。そんなときに出会ったのが『野菜づくりのコツと裏ワザ』という1冊の本でした。

 この本には「土寄せなし、収穫は掘らずに拾うだけ。80歳を超えてもジャガイモをラクにつくれる裏ワザ」「追肥・土寄せなしで太くて真っ白な1本ネギ」など、いろいろな野菜について、私が求めていた栽培法がたくさん紹介されていました。

 さっそくそれらを書かれているとおり実践してみました。成功するもの、失敗するものありましたが、どの栽培法もたいへんおもしろい工夫があってやりがいを感じるものでした。

ジャガイモの超浅植えに挑戦

 この連載では農家のすばらしい栽培法に学び、私自身が実践したことを毎回報告していきたいと思います。第1回は福井県の三上貞子さん(2013年当時、83歳)が実践されていた「ジャガイモの超浅植え」です。

 ジャガイモ栽培で大変なことは2度の土寄せと収穫作業です。この二つが簡単にできれば、もっと楽しいジャガイモづくりになると思います。

 その点、超浅植えはウネに種イモを置くような感じで植え付けたら、薄く土をかけて黒マルチで覆うだけ。その後は土寄せもせず、収穫もマルチをはいでイモを拾うだけととにかくラクな栽培法です。

筆者

超浅植えならずっと栽培できそうだ

 私はキタアカリ(小玉30個)と、さやあかね(中玉37個)の2品種で超浅植えを実践してみました。

 暖かくなってきた4月25日に種イモをウネに置くようにして植え付け、黒マルチを張りました。

 5月20日にカッターナイフで黒マルチを切って、伸びてきた芽を外に出しました。1個のジャガイモから6〜7本の芽が出ていました。

 5月30、31日には芽かきをしました。このとき、1株3〜5本残して芽かきをした列とまったく芽かきをしない列をつくり、生育を比べてみることにしました。

 8月7日にジャガイモの茎や葉が枯れ始めました。そこで日光がイモに届かないよう、黒マルチがむき出しになった部分に枯れ草を載せて覆いました。この作業は収穫まで継続しました。

 8月30日に収穫作業を行ないました。2品種合わせて37kgのイモがとれました。比較用に土寄せで育てたさやあかね(種イモ60個)の収穫量は25.2kgだったので、それに劣らぬ成績だといえます。

 また、芽かきでは、芽を3本にしたときが最も子イモが少なく、一つ一つのイモが大きく育ちました。さらに、黒マルチがむき出しになってもすぐに掘り出さずに、茎や葉が完全に枯れるまで収穫を待ったことで長期貯蔵もできました。

「家族農業の10年」に役立つ連載に

ジャガイモの超浅植え

三上貞子さんの植え付けの様子。種イモをウネに置くように植え付けたら、2cmくらい土をかけて黒マルチで覆う。イモは種イモの上にできるが、黒マルチで暗くしておけば地表面でもちゃんと育つ

筆者の畑。黒マルチをカッターで切って芽を外に出す

すくすくと育つ超浅植えのジャガイモ

収穫の様子。マルチをはがして下にできたイモを拾うだけ。上がさやあかね、下がキタアカリで合計37kgのイモがとれた。土寄せした畑よりも多かった

 超浅植えで、白老町でもほくほくとおいしいジャガイモが重労働なしでとれました。この栽培法を考え出した三上さんにはお礼を申し上げたい。「疲れきってもう畑仕事はしたくないと思っていた私でしたが、三上さんの実践を知ってやる気が出てきました。ありがとうございました。この栽培法をもっと多くの人に知らせ、農の楽しさを感じてもらいたいと思っています」。

 最後に、2019年は国連が定めた「家族農業の10年」の1年目です。『野菜づくりのコツと裏ワザ』で紹介された栽培法はどれも、高齢化社会でも小規模家族農業を持続するために役立つと私は考えます。連載を通じて、高齢者でも楽しめる農的生活についても、みなさんと考えてみたいと思っています。

(北海道白老町)

移住後、最初の10年間にやったこと

(1)排水性の改善

約20aの畑に深さ80cm、幅50cmの暗渠を縦横10m間隔で設置した。

(2)土づくり

毎年、米ヌカや落ち葉、ススキなどを原料とした堆肥を5t/10a投入した。畑表面には落ち葉も敷いた。冬季の寒さを防げて土壌微生物も殖えた。

(3)海からの冷たい風を防ぐ対策

畑のまわりにチシマザクラを5mおきに植えて防風林とした。

(4)日照不足を補う対策

日当たりがよくなるよう南北に広めのウネを立てたり、果菜類で葉が混みあってきたら全体の2割ほどカットするなど、採光性を考えた誘引や整枝を意識した。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年1月号

特集:農家は菌と仲良しだ
オレたちのブランド米づくり大作戦/ネギ・タマネギの収穫調製術/私のナシづくりを伝えたい/国産染料に需要あり/クヌギ山に牛を放して1年1産を実現/小型の乗用麦踏み機/イノシシ肉を軟らかく風味よくいただく/農家の農産物輸出 ほか。 [本を詳しく見る]

農家が教える 野菜づくりのコツと裏ワザ 農家が教える 野菜づくりのコツと裏ワザ』農文協 編

 えっ、そんなのあり? でもやってみると納得。農家が思いついた野菜づくりの裏ワザ大集合。土寄せなしで白ネギがとれる「穴底植え」、種イモ不要の「ジャガ芽挿し」など、常識破りのやり方で野菜づくりがもっと楽しくなる。すべての記事に共通項目として「発想の着眼点」「作物の特性」「栽培カレンダーと品種」「栽培の実際」「病害虫対策」「収穫と利用の工夫」などを載せているからわかりやすい。オールカラーの手順写真ですぐやれる。 [本を詳しく見る]

DVD 直売所名人が教える 野菜づくりのコツと裏ワザ

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