月刊 現代農業
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野菜を見る、測る、対話する 最終回

月のリズムと生育診断

高橋広樹

 本連載では、硝酸イオンメーターや糖度計を利用した生育診断と、それに基づく管理のポイントを押さえることにより、低硝酸で品質のよい野菜を栽培することを趣旨としてきました。

 連載の最終回として、これまでほとんど触れてこなかった月のリズムの植物生理への影響について紹介します。

植物の生長と月のリズム

▼新月に栄養生長、満月に生殖生長

 硝酸過剰でジベレリン活性が強いと栄養生長傾向になり、硝酸がうまく同化されサイトカイニン活性が強いと生殖生長傾向になることは、これまでも紹介してきました。一般的にトマト・キュウリ・ピーマン・ナスなど長期にわたり栽培する作物は栄養生長と生殖生長の周期があります。これまで多くの作物を測定する中で、新月の頃に栄養生長傾向に、満月の頃に生殖生長傾向になることがわかってきました。

 新月の頃に糖度計を使って生長点に近い葉の糖度と最下葉の糖度を比較すると、その差が開き気味になり、花の糖度も低い傾向です。硝酸イオンメーターで測定すると高めの硝酸値を示し、栄養生長傾向であることがわかります。逆に満月の頃は、生長点と最下葉の糖度差が縮まり、花の糖度は高めになります。硝酸イオンは低めの値を示し、生殖生長傾向なのがわかります。

夏秋ミニトマト硝酸値の変動と月のリズム

今年のわが家のミニトマトの測定値。追肥や葉面散布でコントロールしているので、生育前半は新月のほうが硝酸が下がっており、理論どおりではない。後半は新月後の追肥の対応が遅れて満月の頃に硝酸が下がり過ぎ、生長点が弱くなり過ぎた

▼潮汐力が影響か

 新月と満月でなぜこう変わるのでしょうか? 月の引力が潮の満ち引き(潮汐ちょうせき)や生命に影響を与えているのは事実です。月や太陽の引力により、潮汐を引き起こす力のことを潮汐力といいます。地球から見て、新月は月が太陽側に位置し、潮汐力は大きく、満月は太陽の反対側になり、潮汐力は新月より若干弱くなるため、植物の生長にも影響しているようです。

 例えば、重力に関係するホルモンとしてオーキシンがあります。植物が重力に対して反対方向に伸びるのも、根が重力方向に伸びるのも、オーキシン濃度によります。この性質を重力屈性と呼びます。科学的に解明されているわけではありませんが、新月のときはオーキシンやジベレリンの活性が高まり細胞を大きく長く伸ばす方向に働いて栄養生長傾向になり、満月のときにはサイトカイニン活性が高まり細胞分裂を促進し、花芽分化や着果促進方向に働いて生殖生長傾向になるのかもしれません。また新月の闇夜と満月の光も影響しているかもしれません。まだ未解明な部分が多いですが、経験的には月の影響は大きいといえます。

新月・満月と植物の生長

月のリズムを栽培に生かす

▼新月にミネラル、満月前はチッソも

 新月と満月での生長の違いは、栽培管理に応用することができます。

 新月の頃は栄養生長傾向になるので、硝酸過剰になりやすくなります。そこで硝酸を同化させるための葉面散布を新月の前に行ないます。また、リン酸・カリ・ミネラル類を追肥や葉面散布で効かせて生殖生長の方向へ矯正します。硝酸過剰でエチレン活性が弱くなり、病気になりやすくなっているので、ボルドー液の散布によりエチレン活性を高める方法もあります。

 一方、満月の頃は生殖生長傾向で、花が多くなり、生長点の生育が弱く、芯どまりになることもあるので、満月の前にはミネラル以外にチッソも追肥や葉面散布を行なうと収穫の波ができにくくなります。

新月に向かう時期で花が少ないピーマン。葉面散布(カリ「K-40」と硝酸同化促進剤「シャングー」、いずれも土微研)により体内硝酸もカリも適正値で病気も発生していない

このピーマンの中心葉の測定値(ppm)。硝酸5000(基準値6800以下)、カリ9000(基準値7000以上)で適正

▼播種は満月の前、定植は新月の前

 また、播種は満月に向かう時期のほうが発芽はゆっくりで、発根量が増えます。新月前に播くと勢いのいい発芽になりますが、根量は減ります。移植や定植は新月に向かう時期のほうが、活着がよくなります。実際の栽培では、満月と新月は29・53日に1回ずつしか来ないので、満月に合わせて播種したり、新月に合わせて定植したりできないことも多いです。

新月に向かう時期に根が徒長したピーマンの苗。根がポットの底でとぐろを巻いている。この時期は根が徒長しやすいので、かん水を控えめにする

 新月頃の播種では以前にも紹介した低温発芽や浸種をしっかり行ない、発根量を増やすようにします。移植や定植が満月頃になってしまう場合は、発根剤を入れたドブ漬けと、移植後の根じめの水をしっかり行ない、株元かん水を数回やって、活着を促進します。

▼害虫防除は満月から4〜5日後

 害虫の発生についても月の周期が影響しているようです。満月頃のサンゴの産卵は有名ですが、虫についても特に有翅昆虫は満月の頃に産卵し、3〜4日後に孵化して食害を始めることが多いようです。そこで、防除は満月から4〜5日後に行なうと効果が高いです。この時期にうまく防除ができない場合、新月に向けて葉の硝酸が増えると食害も多くなってしまいます。

 1カ月かからないで卵から成虫になる害虫に関しては月の周期に当てはまらない場合もありますが、やはり満月前後に増えることが多いようです。

自然の法則に学ぶ

 連載の最後に、月と作物の関係を説明してきましたが、光の波長との関係、気圧との関係など、自然の法則から応用できることはたくさんあります。

 また、植物生理にはまだまだ未解明なことがあります。最新の研究では、植物は動物と同様の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)すべてが備わっているどころか、他に15もの感覚を持っていることがわかってきました。植物はさまざまな揮発性有機物(BVOC)を放出し、植物どうしや昆虫とのコミュニケーションを図っています。

 例えば、害虫に食べられるとジャスモン酸メチルを発生し、周りの植物にも警報を発します。そうすると食害昆虫への毒(消化酵素阻害剤)を体内で生み出したりして防御しています。また、根の先端には多くのセンサーがあり、必要な栄養素に向けて伸びたり、毒物があると避けていきます。

 農事気象学会の気象予測の理論を築いた故・斎藤善三郎先生曰く、「農業は、人為1割、地4割、天5割」。自然の声に謙虚に耳を傾けたいです。

 一緒に学んでいきたい方は、植物対話農法学会にご入会いただきたいと思います(会のホームページから入会可)。農事気象予測に関しては農事気象学会があります。

(茨城県つくば市・みずほの村市場・ 植物対話農法学会)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年12月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年12月号

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