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巻頭特集

気持ち高ぶる オリジナル除草道具
畑 編

ホウレンソウの超初期もいける
ホウキング3号で痛快株間除草

福岡・古野隆雄

松葉ぼうき(熊手)の針金を使ったホウキング。針金の揺動で作物を傷つけず、株間の雑草をみごとに抜き取る。
*2017・18年5月号、19年6月号もご覧ください

ウルグアイの元大統領・ムヒカさん(右)と筆者

ムヒカさんとホウキング

 ご縁をいただき、昨年11月5日、アルゼンチン、ブエノスアイレス市で開かれた有機農業会議に招かれ、ホウキングとアイガモ水稲同時作の発表をする機会を得ました。

 出発前に、以前孫のモモに読み聞かせした絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』の主人公、ホセ・ムヒカさん(ウルグアイの元大統領)に手紙を書きました。

「11月6日の午前中、農場で待っています」。メールでの返信が届きました。

 会議の翌日、ラプラタ川を渡り、農場を訪問。台所にてウィスキーで乾杯。ホウキングを解説した後、畑で実演しました。この国の空は広く、ムヒカさんは大らかでした。

「1番草」がいちばん問題

 すでに本誌で書いたように、ホウキングはほとんどの作物の初期の中耕・株間除草に卓効を発揮します。例外はホウレンソウ、ニンジン、シュンギク、ゴボウなどの初期生育が極めて遅い作物たちです。

キンポウゲ(トゲミノキツネノボタン)。冬に出芽し、太い根を張る(赤松富仁撮影)

 一斉出芽の栽培作物と違い、雑草は一定期間にだらだらと出芽します。図1のようにホウレンソウは播種後約1週間で小さな双葉を出し、同じ頃、キンポウゲ(トゲミノキツネノボタン)の「1番草」も出芽します。その後1週間おきに「2番草」「3番草」が発生しますが、毎週のホウキングで一掃されます。

 問題は1番草です。初期段階(播種14日後)のホウレンソウは本葉を出し、根も丈夫になります。キンポウゲも本葉を出し、同時に驚くほど太くて長い根をしっかり伸ばします。第1回のホウキングでホウレンソウは抜けませんが、キンポウゲのなかにも抜けないものができます。そんな根性者の1番草が生育ステージを進めて大きくなり、ホウレンソウと競合するのです。

 どうすればいいのでしょうか。どうやらねらい目は初期ではなく、超初期にありそうです。

 

図1 ホウキングによる除草の模式図

*アルファベットは雑草の個体区分、数字は生育ステージを表わす。青文字はホウキングで抜けた個体

ホウレンソウは生育が遅く、従来は播種後14日ほど経たないとホウキングできなかった。しかし、1番草(A〜D)の生育ステージが2に進んでおり、そこでとりこぼした草(A2、C2) は、次のステージ(A3、C3)に進んでしまう。ここまでくると根張りが強くなり、ホウキングでは抜けなくなる。一方、超初期の段階で1番草(A〜D)の密度を減らせば、3〜4のステージに上がる草はほとんどなくなる

 

揺動の大きさをコントロール

 図1のように超初期のホウレンソウの根は雑草に比べて深い位置にあり、比較的丈夫です。そこで、私はより浅いホウキングを試しました。

 まず通常のホウキング2号を持ち上げ気味にして走らせると、双葉のキンポウゲはどんどん抜けました。しかし、ホウレンソウもときどき抜けました。

従来のホウキング2号。針金の径は3mmで、4連構造。初期の除草はこれでいける(筆者撮影)

 次に、従来より針金の径を0・5mm小さくした2・5mmの4連の軽いホウキングを作製。試してみると除草効果はやや落ちますが、ホウレンソウはほとんど抜けません。ただ針金の揺動が大きくときどき跳ねてホウレンソウの双葉を切るトラブルが発生しました。

 そこで私は2・5mmの針金で8連のホウキングを作製。さらに細いアルミパイプに穴をあけ、写真のように各連の針金を連結することで、揺動の大きさをコントロールすることを考えました。スタビライザー(安定化装置)です。

 実際に畑で使用してみると、針金の動きは落ち着き、双葉のホウレンソウが抜けたり切れたりするトラブルが激減。8連ゆえに安定した除草効果があり、双葉のキンポウゲがかなりきれいに抜けました。こうして、2・5mmスタビライザー付きの「ホウキング3号」が完成しました。

8連構造のホウキング3号。超初期の作物を傷つけないよう、針金の径を2.5mmに細め(新日本バネ工業提供)、穴をあけたアルミパイプに4本ずつ通して連結(スタビライザー、40ページも参照)。これを上下させれば揺動の大きさが調節できる(依田賢吾撮影、以下Y)

 この3号なら、ホウレンソウが根だけ出し、雑草が地中で発芽している状態での出芽前除草も容易です。

ダブルぼうきで泥を除ける

 ホウキングの直接的除草の仕組みは「抜く」「切る」「埋める」の三つに分けられます。ホウキング3号でホウレンソウに対する「抜く」「切る」のトラブルは激減しましたが、双葉に土が被るトラブルは少し残りました。

 解決法を探りましたが、土が被らない工夫より、被った土を取り除く工夫のほうが簡単でした。写真のように軟らかなほうきで掃けばいいのです(ダブルぼうき)。泥臭い方法のようですが、手間がかからず確実な方法です。

超初期除草のあと、作物に土が被ることがある。ほうきで優しく掃いていく(Y)

超初期での除草率87%!

 本日2月29日に、播種後10日目の超初期の双葉のホウレンソウでホウキング3号の試験をしました。

 幅10cmに長さ50cmの区画の試験区で、ホウキングの前後でホウレンソウと雑草の数を調査。図2のように、ホウレンソウの生存率は100%。雑草の優占種はアカザでキンポウゲとナズナが混じっており、150本が20本になりました。除草率は87%でした。ホウキング3号とダブルぼうきの併用により、超初期の選択除草の技術が一気に安定してきました。

 この春、ニンジンやシュンギクを含め、多種多様な作物で試します。

カチカチの土には雨中ホウキング

 南米の旅から帰国。翌日、畑に行くとニンニクのウネの土がカチカチでした。三角鍬で中耕するしかないと諦めかけたのですが、翌朝は雨。畑の土の表面が雨で湿ってやわらかくなりました。私は雨の中を思い切ってホウキング(2号を使用)。表層のやわらかい土に根を広げている雑草が容易に抜けました。下層の硬い土に丈夫な根を下ろしているニンニクはビクともしません。土はふかふか、晴れると白く乾いたので、再度ホウキングしました。

 ニンニクはホウキング向きの作物。種球を植えたその日から、ホウキング可能です。1〜2週間おきにホウキングすれば、雑草はほとんど生えず、土はふかふか。そのうえ接触刺激効果でニンニクはずんぐり、太茎になります。苦役だった株間除草は楽しみに変わります。

雨後ホウキングでふかふかになったニンニクのウネ。接触刺激効果で葉は青々として太茎に育っている(Y)

 なお、雨中・雨後のホウキングはすべての作物でできます。土が硬くなりやすい畑でトライしてください。

株間除草、待望の機械化

 昨年末は、北米・南米3カ国に、フィリピンを訪問。ブエノスアイレス大学を含め、どの地で尋ねても答えは同じ。「株間除草は鍬と鎌と手でしている」でした。世界の農業の歴史のなかで、手軽な株間除草の道具の発達と普及はなかったのでしょうか。

 私は2007年から農機メーカーオーレックの開発部と協同で試行錯誤し、乾田の株間除草技術を考えてきました。おかげさまでこの薫風5月、オーレックが自走式ホウキングを発売予定。ホウキングの原理を凝縮したおもしろい機械の誕生です。

(福岡県桂川町)


取材時の動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。
「編集部取材ビデオ」から。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/

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現代農業 2020年5月号
この記事の掲載号
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