酢で卵の殻を溶かした酢酸カルシウム(田中康弘撮影)
2020年9月号の特集で、「知らなかった酢の実力」が明らかとなり、農家は沸いた。
「異常気象に本当に強かった」「雑草が本当に枯れた」など、
驚きの声が続々と寄せられている。
酢で光合成モドキ!? 曇天・大雨に本当に強かった
濃いめの酢でトマトが生き返った
山形・眞木勝徳
筆者。トマト部会長。栽培品目はトマト200坪、キュウリ400坪など。『現代農業』2021年6月号では、えひめAIを使った防除を紹介(田中康弘撮影、以下Tも)
豪雨で浸水、すべての株が萎れた
25年ほど前に祖父母の後を継いで、妻と2人で農業を始めました。春から夏にかけてはトマトやキュウリ、ピーマン、秋から冬にかけてはストックやホウレンソウ、アスパラ菜などを栽培しています。
昨年は日本各地で気象災害があり、東北地方も7月28日、ここ山形県を中心に、豪雨に見舞われました。最上川があちこちで氾濫し、家屋やビニールハウス、農機具、田んぼ、果樹などが浸水し、大きな被害が出ました。
そのとき、うちのトマトは収穫まっ最中。近くの水路があふれ、ハウスが浸かったのを知ったのは、翌29日の朝7時頃です。すでに水は引いていましたが、株元の茎にはまだ乾ききっていない泥が付いていて、マルチの10cmほど上まで浸水したことがわかりました。どのくらいの時間、浸かっていたのかは定かではありません。
とりあえず水は引いているし、トマトの株にも異常はないし、大丈夫かなと思っていたのですが、2日後からすべての樹が萎れ始めました。どうやら、湿害で根がやられたようです。葉の状態を見ると回復する気配はなく、このまま枯れてしまうのかなと半分諦めていました。まだまだこれから収穫する実がたくさんついていたので、とてもショックでした。
2020年8月上旬。水に浸かり、トマトの樹が萎れてしまった
酢50倍散布のビックリ効果
ちょうどそのとき届いた『現代農業』2020年9月号(8月1日発行)の「知らなかった酢の実力」特集に、湿害で根傷みを起こした作物に30〜50倍の濃いめの酢を葉面散布すると回復すると載っていたので、「これは」と思い、さっそく試してみました。使ったのはスーパーで売っている普通の穀物酢。これを50倍に薄め、200坪のハウスに40〜50l葉面散布したところ、数日はなんの変化もなく、萎れたままでした。やっぱりダメか……。でも、3〜4日してから、一部を除いて、だいたいの株の萎れが少しずつ回復してきたのです。記事に書いてあったのは本当だったんだとビックリしました。
樹勢回復をねらって、酸度4.2%の穀物酢を50倍で葉面散布(T)
*酸度とは、酢に含まれる酸の割合を表わしたもの(42ページ)
その後、やはり傷んだ根は完全には回復していないのか、トマトが玉伸びせず、小玉となり、予想していたよりも早めに収穫を切り上げました。ただ、味は濃くて、おいしかったです。
知り合いの農家は、露地ナスが水に浸かって、畑の半分がダメになったといっていました。うちのハウストマトは、収量こそ減ってしまいましたが、それでもあんなに萎れて、枯れそうだったのに、回復も意外に早くて、しっかり収穫を続けられたのは幸いでした。記事にある通り、濃いめの酢で地上部の生育がいったん止まり、エネルギーが根の修復に向けられたのかなと思います。
酢の普段使いで、葉に照り
『現代農業』を参考に、酢は以前から農薬散布や10日ごとのカルシウム剤の葉面散布のたびに200倍程度で混ぜて使っていました。栄養剤として、生長促進をねらっていたのです。実際、酢を散布すると、葉に照りが出て、硬くなる気がします。
2021年6月上旬のトマト。定期的に酢を200倍で散布した甲斐もあり、順調に生育
酢は100倍以上で生長促進、30〜50倍で弱った根の応急手当て、1〜5倍で除草と、濃さの違いによっていろいろな働きをするので、奥の深さを感じます。
これからも酢の実力をよく理解したうえで、作物の栽培に生かしていきたいと思います。うまく使いこなせば、高価な資材を買わなくても大きな効果を期待できます。
今年は豪雨などの自然災害がなく、おいしいトマトをたくさんつくって出荷したいものだと思い、日々、作業に汗を流しています。
(山形県寒河江市)