年をとっても作業快適 モモ・スモモのラクラク仕立て
大玉、味よし、作業スイスイ
ふかさわ流 スモモ自然形Y字仕立て 摘心で結果枝を小枝に
山梨県南アルプス市・深澤 渉さん
◆マークは本誌200ページに用語解説あり
深澤さんのスモモ樹。自身が作出した品種「ふかさわ」を高接ぎして8年の樹
(写真は断りのない限り、すべて赤松富仁撮影)
深澤渉さん。1.5haでサクランボ、スモモ、ブドウ、ナシ、カキの観光農園を経営
ラクしていいものをとる
左右2本の◆主枝がYの字に伸びて、◆亜主枝が真横に何本も伸びる。魚の骨のようにシンプルな形で、素人目にも作業性のよさが想像できる。
「管理作業は高所作業車を使ってます。受粉、◆摘果、◆摘心、収穫と、亜主枝に沿って真横にずらしながら作業していくだけ。うんとラクですよ」
山梨県南アルプス市の深澤渉さん(80歳)が、試行錯誤のうえにたどりついたスモモの樹形だ。深澤さんといえば、2007年3月号や2008年7月号でわい化リンゴのトレリスを活用したスモモやナシの「垣根仕立て」を紹介してくれて、大きな反響を呼んだ。現在は、その作業性のよさを引き継ぎつつ、トレリスなしで仕立てる「ふかさわ流 自然形Y字仕立て」に進化しているというのだ。
2007年に紹介した、リンゴのトレリスを利用した垣根仕立て。せん定前のようす。現在の仕立ては立体的で当時より枝数が多いので樹勢が落ち着きやすく、摘心もまめにするので、ここまで枝が徒長しない(編)
「親父から引き継いだときは、周りの農家と同じ◆開心自然形。10尺の脚立でも届かないような大木でした。樹のふところは暗くて太い枝が伸び、結果枝ははるか上のほう。脚立から落ちて背骨を圧迫骨折したこともありましたよ。
昔はこんな樹形だった。結果枝は光を求めて上に伸び、樹のふところ(樹冠の内側)は暗くて太い材木しか生産できていない
50、60代の頃は山梨の果樹園芸会などの役をやっていたんで、月の半分くらいは会合に出てました。あの頃は女房と2人で2町歩の観光農園を切り盛りしてたから、なんとかラクしていいものとりたい。そればっかり考えて、試行錯誤してきたんです」
こうしてたどりついたのが、現在の仕立て。脚立で収穫する観光農園のお客さんからも「あちこち向かなくていいから、とるのがラクだし、安全」と好評だ。
樹形も家庭も「オヤジを立てよ」
深澤さんは◆骨格枝の仕立て方を、こんなふうに説明する。
「主幹の延長が第1主枝、その脇から1、2年遅れて伸ばしたのが第2主枝。第1と第2は差をつけないといけません。家庭でいうとオヤジと女房。女房が出過ぎてオヤジを負かしてしまうと樹はおしまい」
つまり、第1主枝の先端が力を損なわないように樹勢を保ち、つねに「オヤジを立てる」のが大事だという。
また、「主枝から出る徒長枝は不良の『悪たれ息子』」ともいう。威勢ばかりよくて働きが悪い(実がつかない)からだ。これを勢いづかせると、一家離散の憂き目にあう(樹勢バランスが崩れてしまう)。だから、「悪たれは指導しましょう」と摘心(後述)や◆夏季せん定で短く切り戻す。
一方、亜主枝として家族を支える「孝行息子」は、主枝の真横から少し下の位置から出た枝たちだ。これを主枝に対して90度の角度(地面と水平)に誘引する。この角度が鋭角になると「強くなりすぎて親の邪魔をする」。竹で水平に誘引することで家族のバランスが整うし、作業者にとっても働きやすい樹形となるわけだ。
育成中の4年生の幼木(定植2年目)。竹とマイカー線で誘引。主幹延長枝であるオヤジ(第1主枝)は南向きで、女房(第2主枝)は北向き。樹勢の弱い女房(オヤジより1〜2年遅れの枝)に南からの光がたくさん当たるようにする
主枝の断面図。真横から少し下の位置から出た枝を亜主枝に使う
ブドウの摘心と同じ
この樹形を維持するために必要なのが摘心である。スモモの開花はモモより10日ほど早い3月20日頃。花が咲いたあとに新梢が伸び出し、5月中旬(摘果作業の前後)には10芽くらいに伸びる。そこで、5芽残して指でつまんで切る。すると、枝の伸長に使われる養分が果実肥大へと振り向けられるようになる。
「以前は『光合成に必要な葉がせっかく出たのに、なぜ摘むの?』と周囲になかなかわかってもらえなかったのですが、近頃はブドウの新短梢栽培(本誌188ページ)をやる人が増えて、ずいぶん理解が進みました」と深澤さん。
理屈はブドウの摘心と同じ。枝先を切った刺激によって、いち早く果実に栄養を回す。枝の勢いを樹づくりから実づくりに向かわせるのだ。
それでも、20日ほどすると、勢いのある枝は、先端から強い芽がまた伸び出す。そこで、前回の摘心位置のあたりでまたつまむ。摘果や収穫などの作業のときも、主枝や亜主枝を邪魔しそうな新梢は、気づいたときに摘心していく。こうして栄養生長ではなく、生殖生長へと樹勢を調節していくのだ。
また、摘心によって結果枝は常に短く保たれる。樹冠の内側にも光が届くようになり、亜主枝の付け根付近にも果実が並ぶ。「実にとって一番必要なのは、肥料より日の光」。だから、大玉でおいしい、お客さんが喜ぶ果実になる。
3年枝から出た結果枝。摘心とせん定でつねに小枝に仕立てる
枝が勘違い、1年枝が2年枝に!?
スモモはふつう前年に伸びた枝(1年枝)には、花は咲いても実がつきにくい。でも、おもしろいことに摘心すると枝が「勘違い」して、2年枝と同じように結実するそうだ(摘心後に伸びた部分の花芽は結実しにくい)。
亜主枝を下から見たところ。受光態勢がよいので、樹のふところにまで結果枝がずらりと並ぶ。結果枝は摘心とせん定で下へ下へ切り戻すので、4年枝から出る枝もごく短い。ただし、5年枝頃になると結果枝も長くなってくるので、根元から出た新しい小枝に更新していく
上の写真は3月3日、亜主枝にできた短い結果枝にずらりと花芽が膨らんだようすだ。
「これ全部、しっかりと花芽をつけてる。こんなにたくさんの結果枝がある樹もないと思います」
太い骨格枝のすぐそばに短い結果枝が並び、そこに実がなる。骨格枝の近くにあるから、風による「すれ果」のリスクも激減。いいことずくめなのだ。
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樹形がシンプルで、枝の役割が単純明快。80代になっても現役バリバリの深澤さんだが、これなら勤め人の息子さんに、いつでもラクに引き継げる。
現在は、深澤さん夫婦に加えて、土日は息子さんや娘さんが手伝ってくれて、1.5haの観光農園を余裕をもってやりくりしている。「オヤジを立てる」農業で、家庭バランスも大変良好のようだ。(編)
6月1日、深澤さんの樹の亜主枝を下から見たところ。1回目の摘心の約2週間後。摘心しているので、亜主枝の近くに葉っぱがわっさわっさとついている(品種:ふかさわ)
7月10日、収穫20日前頃のようす。亜主枝の近くに実がなっている
8月1日、深澤さんが育種した品種「ふかさわ」。大玉で雨に強い。今年は収穫時期の雨で他品種で裂果が多発したが、ふかさわはほとんどなかった(編)
隣の園の樹。昨年から「ふかさわ流」への仕立て直しを指導中。もともとの骨格枝を生かしながら、結果枝が小枝で構成されるような樹形に変える。矢印の位置にある枝のようすを観察してみた(品種:太陽)
摘心していないので、花芽がつかずにハゲ上がった部分がある。Aの位置で切って小枝にしたいが、いっぺんに切ると反発が大きいので、今年はBの位置に実をならせて、C、D、Eなどの小枝を落とさずに育成する
収穫20日前頃、よいなりっぷり。結果枝を小枝にしても収量は変わらない。日当たりがよくなり品質が上がる
C、D、Eにも結実したが、今年は我慢してすべて落として、枝を充実させる。上に見える3果を今年収穫したあと、冬のせん定でAを切る。C、D、Eの枝は弱くて細い新梢しか伸びなかったので、摘心していない(冬のせん定で切り戻す)
取材時に撮影した動画がルーラル電子図書館でご覧になれます。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/
この記事の掲載号
『現代農業 2021年11月号』
特集:金をかけずに頑丈ハウス |