本号では、子育てを終えた女性や高齢者を中心的な担い手として食べものの自給圏をつくり、その延長線上に都市の量販店にも直売所を次々と出して生産を飛躍的に伸ばしている群馬県のJA甘楽富岡の取組みを特集した。
養蚕とコンニャクの大産地だったこの地域は輸入自由化によって壊滅的な打撃を受けたが、今、少量多品目の総合的な産地として見事に蘇った。JA甘楽富岡が一九九四年に合併したときの販売高が八四億七八五〇万円だったのに対し、一九九九年度は実に一〇〇億円を突破した。いまどき農業生産を飛躍的に伸ばしている農協ということだけでも注目に値するが、そこで重要なことは、自給をベースにした直売農家が女性や高齢者・定年帰農者を中心に九〇一名に達し、充実したライフスタイルを実現していること、そして直売によって都市の消費者にJA甘楽富岡ファンがどんどん増えていることだ。JA甘楽富岡は農業の担い手観を革命的に変え、生涯現役の豊かな地域社会に向けて、「農をベースにした地域づくり」に取り組んでいるのである。
*
農協の活動の報告ということでは、本誌で一九六一年(昭和三十六年)、「再編期にどう対応すべきか――茨城県玉川農協の経営確立運動の調査報告――」という特集を組み、玉川農協(現・茨城玉川農協)の「水田プラスアルファ」経営をとり上げた。「水田プラスアルファ」経営とは、それまでの水田を基盤にした自給的な経営に、現金収入を生む養豚、酪農、養鶏、園芸のプラスアルファ部門を付加することによって、耕作面積の小さい農家でも農業で暮らしていけるように玉川農協が推進した経営方式だ。
農業基本法が、農工間の所得均衡を図るために大きい農家に農地を集中させる選別的な外延的規模拡大路線をとったのに対し、「水田プラスアルファ」路線は、内包的規模拡大による所得拡大をめざした。玉川農協では、無担保無保証人の営農資金貸付けや長期平均払い制度を設けて「水田プラスアルファ」経営を支え、大きな農家も小さな農家もむらのなかで共存できる道を示すことによって、全国の農協に大きな影響を与えたのである。
*
高度な産業社会のなかで自然と人間との敵対的な矛盾が極限に達し、人びとが自然な暮らしを求めている現代にあって、JA甘楽富岡の実践が持っている今日的意味の大きさは、「貧しさからの解放」をめざした時代に玉川農協の実践が持っていた意味の大きさに比肩する。
充実したライフスタイルが農村に横溢して女性・高齢者が生き生きと輝き、地産地消の豊かな自給圏がつくられる。そして農村に魅せられた都市の住民は、農村を訪れ、移り住む。こういう農都両棲のライフスタイルを選ぶ人が二十一世紀にはますます増えるなかで、JA甘楽富岡は、IT革命によって農都両棲の地域づくりをリードする二十一世紀型農協のあり方を示している。
文化部