本号では、二〇〇〇年十月、つくば市で開催された第三回国際大豆加工利用会議公開講座における報告を特集した。
米食が中心のアジアでは、大豆と米を組み合わせて食べる食文化が共通して成立した。大豆は良質のタンパク質や脂肪を大量に含み、炭水化物を多く含む米と一緒に食べれば、必要な栄養素がほぼそろうからである。
このような風土に根ざした食文化における大豆の栄養的合理性に加えて、最近では生活習慣病の予防などの機能性が評価され、健康食品として注目されている。
また大豆は空中窒素固定作物であるために、人口爆発と食糧の需給逼迫が予想される二十一世紀において食糧資源の側面から評価されるとともに、地下水汚染の防止など環境負荷の少ない作物としても注目される。
このように大豆は、先進国、開発途上国の別を問わず、人口・食糧・健康・環境など、二十一世紀の全人類的課題の解決に大きな役割を果たすことが期待されている。その大豆の加工利用をめぐる国際会議が、二十世紀の最後の年に日本で開催されたことの意義は大きい。
公開講座では、吉田集而氏の基調講演に続いて、中国、インド、インドネシア、タイの研究者がそれぞれの国の風土に根ざした伝統的な大豆発酵食品について報告した。そして、それぞれの地域の微生物を巧みに利用した大豆発酵食品の歴史や、その共通性と異質性、現代的な価値などについて、各国の研究者が活発に議論した。この画期的な交流を契機に、歴史的になされてきた発酵技術の伝播と土着化が現代の一層高いレベルで双方的に進み、人々の健康増進と世界的な食糧需給の安定に貢献することを期待したい。
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現在、日本では米の生産過剰を克服するために、水田転作大豆の振興がはかられているが、大豆転作を本当に定着させるには、大豆の健康食品としての側面など、大豆の価値についての認識を新たにし、大豆の加工利用を日常生活のなかで盛んにするとともに、大豆栽培を組み込んだ水田の農法を、地域に構築していくことが必要であろう。
いま日本の各地で、大豆の生産や加工の過程で生じるくず大豆やおから、大豆の煮汁などを有機肥料として生かし、化学肥料をほとんど使わない循環的農法が、農家の力で生まれつつある。
そして加工と消費の側に目を転じると、こうして生産された大豆を原料にして、凝固剤や食品添加物などを一切含まない、安全でおいしい大豆加工品を作る運動が家庭や地域に広がりつつある。なかには地元の食品会社と提携して、地元産大豆を原料に大豆加工品を作ってもらい、それを地元の人が食べ、さらに都会に供給していく動きも出てきている。
このように、循環的農法と質のよい大豆加工品の消費が結合していく流れのなかで、転作大豆の本作化の展望が生まれつつある。大陸との交流のなかで日本に伝播した大豆発酵食品の、現代的土着化をここに望見したい。
文化部