本号では、子どもの教育のあり方を論じた「掛川哲学塾」第五回夏のセミナーを特集した。
冒頭の「司会者挨拶」で内山節氏は、「教育」という第五回セミナーのテーマについて、〈そもそも教育とは何だったのだろうか〉〈日本の近代の教育を根本的なところに遡って考えてみたい〉と述べておられるが、その言葉どおり本セミナーでは、近年の子どもたちの変容が、根底をなすわれわれの暮らし自体の変容や、日本の近代教育のあり方との関連で検討され、子どもの育ちをささえる場について、未来社会形成の方向と重ね合わせて論議されている。
たとえば、基調報告「江戸時代の民衆教育から日本の教育のあり方を考える――『非文字文化』を手がかりに――」で、講師の高橋敏氏は、共同体総がかりの日本の伝統的な子育てや、「子ども仲間」「若者組」など子どもたちの自治的組織についての興味深い話の後、これらの「非文字の文化」「非文字の教育」の衰退が現代の子どもたちの自立をむずかしくしており、「文字の教育」のベースに共同体による「非文字の教育」が据えられなければならないと、主張されている。
他の報告者からは、〈地域のビジョンづくりと子どもたちの教育の統一的把握の必要〉(榛村純一氏)、〈素人も参画し職人技を重視した工学の再構築〉(大熊孝氏)、〈普遍的な知識の支配からの脱却と、「生業」的世界の再生による教育の立て直し〉(鬼頭秀一氏)、〈国家的視点からではなく、ローカルな地域的視点から、子どもたちの教育を考えることの重要性〉(内山節氏)などが提起され、われわれの暮らしや地域のあり方の変革と子どもの教育の再構築が、同じ地平で、根源から論じられている。
私たち農文協は、「企まない教育」の場としての農村の教育力に早くから注目し、教育雑誌『食農教育』を発刊し普及することをとおして、地域と結んだ「食農教育」の推進をはかってきた。共同体の力が弱まっているなかで「むら」コミュニティを小学校の「校区コミュニティ」として再編し、農村空間がもつ力を強化して、社会全体を変革することが目的である。
この数年、「学校の地域への開放」「総合的な学習の時間の新設」などを特徴とする教育改革が、子どもの学力問題などから問題視され、論争もおこって、マスコミをにぎわしてきたが、暮らしの根源からの議論はほとんどない。いま一度、根源にたちかえってこの問題をとらえなおし、地域での取り組みに活かしていただければ幸いである。
なお、「掛川哲学塾」第五回セミナーの原題は、「社会を変える教育、未来を創る教育――二十一世紀の教育のあり方を問う――」である。二泊三日にわたるセミナーの膨大な記録に、大幅に手を入れて本特集とすることにご同意をいただき、心から感謝申し上げる次第である。
文化部