本号では、新潟県・JA越後さんとうの実践を特集した。
JA越後さんとうは、平成十三年二月、六町村をエリアに、JAこしじ、JA三島中部、JA三島北部の三JAが合併して発足した。合併論議のなかで、JA越後さんとうの関誉隆組合長(旧JAこしじ組合長)は、「体格を大きく変えるのではなく、JAの事業の中身を大きく変えよう。そして、おらが農協の原点に帰ろう」と訴え、「環境にやさしい未来農業」と「地域社会との共生」を意思統一して合併したというが、合併農協としての実績はこれからである。そこで本号では、農業振興を先導的に取り組んできた合併前の旧JAこしじの取組みや考え方を中心とし、必要に応じてJA越後さんとうにも触れるかたちで報告することにしたい。
旧JAこしじがあった越路町は、総人口が一万四六〇〇人、農家戸数は約一〇〇〇戸。総面積五八四四haの八二・三%が水田という米の単作地帯で、平均耕作面積は一・七ha。農業総生産額約二二億円のうち、米が七二%を占めている。そのような水田単作地帯にあって、旧JAこしじは、@農家手取りを増やすべく、「安全・安心な健康米」づくりと米の有利販売に取り組み、A稲作や転作などの土地利用型農業の法人化をすすめるとともに、女性や高齢者の力も引き出して水田単作からの脱却=総合産地化をはかってきた。そのような取組みのうえに、旧JAこしじは、平成十二年、合併を念頭に置いて農業振興の方針策定を行ない、合併前の考え方を整理している。その方針は、JAは地域司令塔の役割を担うべきだという考えのもとに、前述の「環境にやさしい未来農業をめざして」「地域とともに地域社会との共生」という二つの経営理念を確立し、この理念に基づき地域農業や農村生活ビジョンの目標を設定して、事業の推進に取り組もうというものであった。冒頭の関組合長の話はここから来ている。
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そこで本誌の第T章では、九五%という旧JAこしじの高い米の集荷率がどのように可能になったかも含めて、米のブランド確立の取組みを詳述した。旧JAこしじでは完全有機栽培の確立を視野に入れながら組織をあげて土づくりに取り組み、二種類の減農薬・減化学肥料栽培や魚沼コシヒカリ、一般コシヒカリなど、コシヒカリだけでも四種類の米に分別管理して、それぞれの消費者や実需者に対し付加価値をつけて供給しているのである。そこでは、トレーサビリティの確立への先駆的取組みもなされている。また第U章では、稲作や転作など土地利用型農業について行なわれている「法人による集落農業」を取り上げ、そのうえに立体的に展開する直売所や園芸の導入など、総合産地化の動きをトレースした。
「地産地消」の動きは活発である。女性や高齢者の力に依拠して少量多品目生産を起こし、加工業を起こし、野菜や果樹などの導入もはかり、合併後の多様な地域性を生かして補完関係を築き、地域自給をはかろうとしているのだ。足りないものは、全国的なJA間連携で補完するという。そして、その地域自給のベースのうえに、都市部の量販店などとも提携して店内にしつらえた直売所インショップでの展開などもしていこうというのである。そこでは生産と生活が同一次元でとらえられており、生活・福祉活動がJAの営農部の管轄下におかれているのもユニークである。
このように、旧JAこしじにあって法人は、兼業の深化で多様化した農家の集落農業の下支えであり、大小相補のむら的共同の刻印を帯びている。そして他方では総合産地化がすすめられ、少量多品目生産の農業や高齢者の恊カ産的福祉掾i=生涯現役の生きがい農業)もきちんと位置づけられて、生活視点に立って農業の担い手が重層的に創出されてきた。ここでJAは「地域づくり農協」として把握することができるのである。
JAの取組みをこのように押さえた上で、第V章では、これらの取組みを参考に他のJAが同様の実践を行なおうとしたばあいに何が必要なのかを明らかにするために、旧JAこしじや合併後のJA越後さんとうの取組みがどのようにして成立しているのか、主として組織の運営の側面を中心に五つのポイントをまとめてみた。農業振興計画を立てても実行に移されないというJA職員の嘆きをよく耳にするが、旧JAこしじには、「すぐやる 必らずやる出来るまでやる」という行動理念が組織に浸透するためのさまざまの方策があった。
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本誌では近年JAの実践を積極的に取り上げてきた。一五七号と一六一号では、JA甘楽富岡の実践をまとめ、大きな反響を得た。JA甘楽富岡では管内農業の二大支柱であった養蚕とコンニャクが凋落するなかで、子育てが終わった女性や高齢者たちを新たな担い手として少量多品目生産を組織し、インショップ・総合相対複合取引きなど、直売型・提携型の販売をつうじて、「営農の復権」を果たしている。そのJA甘楽富岡は畑作地帯のJAであったが、本号で取り上げるJA越後さんとうは日本に広範に見られる水田単作地帯のJAである。
食管制度のもとに長い間おかれてきた米は、自ら販売をするということにうとかった。米価低迷の時代にあって、本号で取り上げたJA越後さんとうの事例を参考に、営農の復権で、米単作地帯の元気を盛り上げていただきたい。
なお、本号の特集と相前後して、JA越後さんとうの取組みのビデオ「(仮)水田地帯の営農改革をどうするか」全二巻が発売になる(平成十五年一月完成予定)。JAの事業改革に手をつけるには、JAの役職員がいっしょになって改革の先駆的事例を検討することからはじめることが重要である。ビデオで事業改革のイメージを共有し、本誌を深く読み込んで共通認識を形成し、それぞれのJAの独自性を織り込んだ改革案づくりとその実現に取り組んでいただければ幸いである。