日本農業は、少量多品目生産の直売型農業には活気があるものの、年々増える輸入農産物などの影響によって、米や野菜等の農産物価格が低迷、下落。とくに日本農業の土台である米については、自主的減反などを骨子とする米政策改革大綱が決定されるにおよんで、いっそう厳しい事態への対応を考えなければならない状況になっている。
一方、日本経済に目をやると、長期不況克服の展望はなかなか見えてこない。グローバリゼーションの広がりのなかで、生産性の高い先進国や労賃の安い発展途上国とのきびしい競争にさらされて、産業空洞化がすすみ、輸出も低迷。デフレ下で人件費の圧縮・リストラがすすめられ、失業率は五・五%と最悪の状態である。兼業化が深まった今、農家経済も景気の動向と無関係ではありえない。
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このような農業や経済の動向について、マスコミでは現状や各種政策のあれこれについての報道はなされても、明確な展望が示されることはなく、閉塞感だけがつのっている。そこで本号では、現代社会の何が、どう行き詰まっているのかを明らかにし、経済や農業の進路と、来るべき社会の近未来像を明らかにすることを目的に、第T部「問題提起」では、茨城大学農学部の中島紀一教授に、農業をとりまく環境の大きな変化にどう対処すべきかを論じていただき、第U部では、さまざまな専門の三人の研究者に、二十一世紀の農業像・社会経済像を考える基本視点を提起していただいた。
そこで、茨城大学の中島紀一教授は、経済成長と生活の豊かさはイコールではないとして、自給を基本にすえた生活型農業の見直しと地域の自立を提起し、文化経済学の池上惇教授(京都橘女子大学)は、人々の豊かな情報ネットワークの形成によるノウハウの継承・創造と、地域の固有性にもとづく創造型産業の振興を提起。大量生産・大量消費社会から脱却と、生活の質が重視され、それぞれの人間が自分らしさを発揮できる社会への展望を示している。
また、歴史学の立場から玉真之介教授(岩手大学)は、グローバリゼーションの波が日本に何をもたらしつつあるのかを押さえたうえで、デフレ時代に農家や農村はどう対応すべきかを過去の歴史から提起し、歴史的転換点としての現代をどのように超えていくべきかを、農の原理を基に提起。そして最後に、よりいっそう長い人類の歴史をふまえた文明論的視点から、古沢広祐教授(國學院大學)が、環境と食・農を基軸にパラダイムを転換し、大地・自然と人間との関係を結び直すことを、一人ひとりの生き方や社会システムのあり方も含めて提起されている。
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大量生産・大量消費にもとづく経済成長の時代は終わった。日本農業の進路は、農家・農村だけでなく、地域や社会の暮らし全体が豊かになる方向で展望されねばならない。農業・農村がもつ根源的な力に自信をもち、自然と人間が調和した新しい社会の創造に取り組むことができれば幸いである。
文化部