私たち農文協は、「たくらまない教育」の場としての農村に早くから注目し、教育雑誌『食農教育』を発刊し普及することをとおして、地域と結んだ「食農教育」の推進をはかってきた。そのねらいは、学校を核に「校区コミュニティー」として地域を再建し、そのような場のなかで子どもたちの生きる力を育むとともに、農村空間がもつ力を強化して社会全体を変革することにある。そこで本号では、地域と学校の関係について理論的に整理をし、個性豊かな地域を形成し、場をもった子どもの育ちを保証することの意味を考えてみることにした。
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第I章で、福島大学行政社会学部の境野健兒教授は、なぜ子どもの成長に地域の共同が必要なのかを論じ、「総合的な学習の時間」の新設や学校の地域への開放などを内容とする今日の教育改革の可能性にふれるとともに、校区コミュニティーを基礎に個性豊かな地域づくりと子育ての場づくりを統一的な視点で進めることを提起しておられる。
第II章は、そのような実践の先駆的事例である。むらをあげての地場産給食の取組みや、伝統文化の継承によるむらづくり、公民館を核にした高校生も含む集落づくりの実践など農村部の事例のほか、東京町田市の新興住宅街で、小学校がはじめた稲づくりが親たちも巻き込んでしまい、田んぼが仲立ちになって新しい地域形成がはじまった都市部の事例を取り上げた(執筆:境野教授、愛知大学経済学部・岩崎正弥助教授)。
第III章では、日本の小学校が国の予算によってではなく、むらびとの力で建てられ維持されてきた歴史や、学校統廃合をめぐる紛争の歴史から、学校はもともと地域のものなのだということを明らかにし(執筆:境野教授)、第IV章では、「物」の豊かさではなく「場」の豊かさを重視する愛知大学経済学部の岩崎正弥助教授に、今日のグローバリズムの広がりのもとで、なぜ地域が重要なのか、そこでどのような教育が必要なのかを根源から論じていただき、「地域アイデンティティの形成」や「場をもつ主体の育成」への戦略を示していただいた。
そして第V章が、校区コミュニティー形成についての、農文協の訴えである。
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第I章で境野教授は「最も重要なことは、地域の自然や文化の価値を地域の人々自身が見直すことである」と言い、第W章で岩崎助教授は「ローカルに考え、ローカルに行動することで、ユニバーサリティ(普遍性)を見出すこと」の重要性を提起し、近代化やグローバリズムの論理を克服した、多様な地域が共存する豊かな世界を展望しておられる。これらの問題は、極めて現代的な課題なのだ。
なお本誌一六六号「特集・二十一世紀の教育を地域から問う」(二〇〇二年十月発行)では、共同体総がかりの江戸時代の民衆教育のあり方を示し、国家的視点からではなくローカルな地域的視点から子どもたちの教育を考えることの重要性を指摘している。合わせてお読みいただければ幸いである。
農文協文化部