『農村文化運動』 171号 2004年1月

「JAの直販」と「農家の直売」で営農復権――JAふくおか八女の実践


[目次]

はじめに

I 「農家手取り最優先」の直販事業

  1. 「預り金」制度の創設による直販事業の展開
  2. 直販事業における東京事務所の役割とパッケージセンターの意味
  3. JAふくおか八女の直販事業はこうして生まれた
  4. 直販事業の今後の展望――ベースとしての「地産地消」

II 合併のメリットを発揮できる体制づくりと「第2次広域農業振興計画」

  1. 市場対応力の強化とふくおか八女ブランドの確立
  2. 安全・安心・高品質の農産物供給システム
  3. 生産体制の充実と営農復権の経営的根拠

III JAふくおか八女のIT戦略

  1. ITは事務処理機ではない、新ビジネス立ち上げの道具だ
  2. IT活用によるJAふくおか八女の販売事業の展開
  3. 10のコンテンツから成る「農業情報システム」
  4. 地域の情報発信基地としてのホームページ「Wing8」

IV 地域の自然と文化が活きる「地域づくり農協」への展望

  1. 「自己完結型農協」をめざす合併基本構想は、なぜ生まれたか
  2. 中山間地域の振興と農産加工
  3. 「地域づくり農協」への展望――グリーンツーリズムも視野に入れて

はじめに

 本号では、JAふくおか八女における「営農復権」の取組みを特集した。

 JAふくおか八女は、合併により農産物販売高三〇〇億円を超す大型農協になった。

 その特徴は、多品目・大量生産、周年出荷の野菜、果樹、お茶の大産地でありながら、市場流通だけに依存せず、直販重視・自己完結型の営農販売事業の展開によって、「農家手取りの増大を最優先」しつつ、地域農業の振興と地域の活性化に取り組んできたことである。現在、全販売高約三〇〇億円の一割、三〇億円以上をJAの直販で売り上げている。

 そして、「二%強の市場出荷の手数料だけでは、信用事業や共済事業の収益に依存しない、営農中心のJAを確立することは極めて難しい」といわれているなかで、営農事業と販売事業を統一的にとらえて直販事業を展開し、加工等も導入することによって、営農販売部門独自の収益を生み出し、経営的自立をはかりつつ営農の復権をはかってきたのである。

 このような直販事業の展開の大本には、平成八年の合併にむけてまとめられた「合併基本構想」があった。

 そこでは、従来の市場流通中心の系統共販は、荷を市場に預けて価格を決めてもらうもので、単なる集出荷業務であったとの反省が加えられ、単協が自らの力で販売する直販事業を行ない、自己完結型の農協を確立するのだ、という基本方針が明快に打ち出されている。

 その「自己完結型」という言葉は、もちろん市場流通や系統の否定ではない。直販を中心に、単協でできることは単協でやっていこうということである。「他人まかせにせず、自分でできることは自分で責任を持ってする」。JAふくおか八女では、そのような考え方が思想として役職員に広く浸透し、「自己完結」という言葉は、連合会に対するJA単協の自己完結の意味だけでなく、営農販売部門や農業情報ネットワーク部門の独立採算といったように、各部門の経営的自立という意味にも拡張してつかわれているのだ。

 「合併基本構想」のもう一つの特徴は、物質文明の反省に立ち、地域の個性ある生活文化を尊重し、地域住民が共存共栄できる社会を形成することなどを「基本理念」の第一に置き、とりわけ中山間地の活性化を重視していることである。

 そこでは、農家の直売を含む地産地消の事業が大きな意味を持ってくる。少量多品目の地産地消を拠り所に、そこにしかない個性的な農産物や食文化を掘り起こし、それを販売していくことは、豊かな地域づくりに資するだけでなく、量販店などのレギュラー品の安売り競争に巻き込まれず、量販店が一方では求めている個性的な商品の開発・供給の源になる可能性を秘めているからだ。第I章で見るように、「JAの直販」では、マーケティングや、生協や量販店など実需者とのパートナーシップが重要になるが、そこで地産地消が、販売戦略上でも大きな意味をおびてくるのである。

 こうしてJAふくおか八女は、「市場流通」を強化しつつ、「JAの直販」「農家の直売も含む地産地消」の道を精力的に切り拓き、三つの販売チャンネルを持つに至った。その目的は、「新時代を展望し、豊かな地域の個性を生かし、共同の輪を大きく広げ、統合JAにしかできない事業機能を備えた、八女らしい自己完結型新JAを実現する」(「合併基本構想・基本理念」)というように、JAが地域の新しい生活文化を創造し、個性的で豊かな地域づくりを行なうことに置かれているのである。

農文協文化部

 なお、これまで本誌では、JAの「営農復権」の優良事例として、首都圏に比較的に近い畑作地帯であるJA甘楽富岡の実践をとりあげ、水田単作地帯での取組みとしては新潟県・JA越後さんとうの実践をとりあげてきたが(六四頁、バックナンバー参照)、このたび、特集したJAふくおか八女は、遠隔地の、もともとは市場流通への依存度が高かった大産地での営農復権の取組みとしてお読みいただきたい。

 JAふくおか八女の概況

 八女地域は福岡県の南部に位置し、東部は大分県・南部は熊本県と境を接している。管内は八女市、筑後市、八女郡の黒木町・立花町・広川町・上陽町・星野村・矢部村の2市4町2村からなっている。

 総面積は560km2、総人口は約144,000人、世帯数約45,000世帯、農家戸数は8,979戸、農業人口は32,867人。

 農業は、西部平坦地では水田を主体に稲・麦・大豆・い草及びいちご・トマト・花卉・ナス等の施設園芸が、また北部丘陵地や東部では果樹や茶、夏秋野菜等が生産され、多彩な農業が営まれている。

 JAふくおか八女は、平成8年4月に、市町村単位ごとにあった8JAが統合して誕生し、現在7年半を経過した。

 平成14年度末現在のJAの概況をみると、組合員数は正組合員13,554名(11,010戸)、准組合員13,054名(9,116戸)で、合計26,608名(20,126戸)。

 また役員数・職員数については、役員数は理事37名(常勤5名)、監事10名(常勤1名)。理事のうち3名は女性理事である。職員は、正職員748名(うち営農指導員51名)、パート等421名で、合計1,169名となっている。

 組合員組織は、AFC(アグリカルチャー・フロンティア・コミュニティ、旧集落座談会の単位)、415組合、青年部、女性部、作目別部会23部会などがある。

 各種事業の取扱高は、農産物販売高301億7971万円、購買品供給高191億1239万円(うち生産資材124億7334万円、生活資材16億9161万円、Aコープ49億4744万円)、貯金残高1791億248万円、貸出金残高48億3558万円(貯貸率27.0%)、長期共済保有高1兆1439億600万円(農産物販売高は全国で3番目、購買品供給高では4番目である)。


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