千葉大学園芸学部園芸経済学科教授 斎藤 修
千葉大学園芸学部園芸経済学科助手 西山未真
- 1 いま、なぜ、農業と食品産業との連携が問われているのか
- 2 地域に根ざした地域内発型アグリビジネスのすすめ
- 3 農業と食品産業の連携
- 4 農業と食品産業の提携と食料産業クラスターの形成
- 5 産業クラスターの可能性と論点
一、JAと生協の提携による資源管理と交流事業―JAささかみと首都圏コープ事業連合
- 1 商品政策から環境、そして地域政策へ
- 2 ささかみ産直システムの特徴
- 3 堆肥センターを中心に環境保全型農業がひろがる
- 4 大豆加工施設の設置と事業展開
- 5 生産者と消費者が共につくりあげる交流事業の展開
- 6 地域政策を視野に入れた農業と食品産業の連携が課題
二、紀州南高梅における食品産業と農業の連携とクラスターの形成条件
- 1 南高梅クラスターの特徴
- 2 紀州南高梅のクラスターにおける競争と協調
- 3 南高梅クラスターの展望―「日本でもっとも裕福な村」の課題
一、農業生産法人のネットワーク組織の新展開――和郷園における経営戦略
- 1 地域に根ざしたネットワーク組織が急成長している
- 2 和郷園の経営システムの形成―その成長要因
- 3 冷凍食品工場の設置と効果
- 4 資源循環システムの形成と評価
- 5 和郷園の経営システムの再編
- 6 ネットワーク組織の再編課題
二、消費者と東毛酪農協同組合の連携による低温殺菌牛乳の開発と新展開
- 1 消費者との連携が新しい価値を創造する
- 2 東毛酪農協の概要と、消費者との連携で低温殺菌牛乳ができるまで
- 3 東毛酪農協の経営戦略と組合員の再組織化
- 4 本物の牛乳を求める当事者間の連携への模索――東毛酪農への消費者からの要望と期待
- 5 東毛酪農と消費者との連携から示されたこと――食と農の連携に至る「関係性の構築」こそ必要
本号は、本誌176号「激変する青果物流通とマーケティングの実際」で、第T章をご執筆いただいた千葉大学園芸学部の斎藤修教授に、「農業と食品産業との連携」について書いていただいた。 斎藤教授は、176号で、卸売市場法が改正され2005年度から順次改革が実施に移されることにより、従来の委託中心の青果物流通は根本から変わるだろうと指摘し、市場流通依存から脱却し、量販店や生協、外食産業・食品加工業等々の実需者との商談を行なって直接販売する、マーケティングの力をつけることが「待ったなしの課題」だと訴えている。
そして、大きく変貌をとげつつある現在の青果物の流通事情にふれつつ、旧村単位での加工や販売をも行なう農業生産法人の設立、「農」「食」「環境」の三領域を統合した個性的な「顔」をもつアグリビジネスの経営システムの確立、多様な販売チャネルの開発とそれぞれの特性を生かした全体管理などの課題を提起し、最後に、農業と食品産業との連携についてもふれておられる。
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本号は、この最後にふれられた農業と食品産業との連携について、詳しく展開していただいたものである(ここでは、食品産業に生協も含ませている)。
連携がなぜ必要か。一言でいえば、連携してパートナーシップの関係を強化することにより、農業サイドにない加工や販売、その他のノウハウなど、連携先の各種の経営資源を自分のものにし、安定的な価格や、比較的に高い価格で販売していくことができるからである。
原料・食材の手当てを海外にシフトした食品産業もある一方で、差別化の観点から、このような農業との連携を求める食品産業も少なくないという。ところが農業サイドからの連携へのアプローチが少なく、あるいは安定した供給がなされないために、心ならずも食材を海外に求めざるをえない食品産業もあるのだ。その意味では、連携は単に農業サイドへの所得増をもたらすだけでなく、日本の食料自給率を実践的に高めていく道でもある。経済のグローバル化のもと、今後、輸入農産物の関税がいっそう引き下げられる可能性もあるなかで、なんとしてもマーケティングを開始し、連携を推し進めていただきたい。
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本号の構成は次頁の「序」にあるとおりであるが、第I章の総論は、II章、III章の実践事例を読んだ後、再度読まれると理解がいっそう深まることと思われる。また、上述の本誌176号をぜひ併せてお読みいただきたい。
なお、本号の執筆分担は、第I章〜第III章「一、農業生産法人のネットワーク組織の新展開」までは斎藤教授の執筆、第III章の「二、消費者と東毛酪農協協同組合の連携による低温殺菌牛乳の開発と新展開」は、千葉大学園芸学部園芸経済学科助手・西山未真氏にご執筆いただいた。
農文協文化部