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食育活動
No.4 2006

12

〈若者への食育〉7つの実践――「食育空白の世代」へのアプローチ

 

■巻頭言 「基本法」の三つの柱をつないだ食育推進を・・・・・・4
   (学)服部学園理事長 服部栄養専門学校校長・医学博士  服部幸應
特集 〈若者への食育〉7つの実践――「食育空白の世代」へのアプローチ
【現状編】
■若者を半歩先に誘う食育を――「食卓の向こう側」に見た現代若者の食事情・・・・・・・・・・8
   西日本新聞社「食卓の向こう側」取材班 佐藤弘
■懸念される生活習慣病予備群! 現代の若者の健康状態と食生活・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
   女子栄養大学大学院栄養学専攻修士課程・管理栄養士 小澤 礼子
   女子栄養大学・大学院教授 武見ゆかり
【実践編】
■〈食育〉で一人暮らしの若者の食生活をサポートする
  ――福井県小浜市「新生活応援隊」の若者向け料理教室・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
   小浜市食のまちづくり課政策専門員(食育)中田典子
■地域の事業所へ「出前型」食育活動で若者にアプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
   長野県佐久保健所健康づくりチーム 企画員 花岡佐喜子
■定年までの食生活を応援! 社員食堂は社会人の最も身近な食育の場・・・・・・・・・・・・・・・・28
   編集部
■小学生から大学生まで
  ――七つの技と考え方を押さえれば見る間に変わる「食育実践プログラム」・・・・・・・32
   長崎大学大学院生産科学研究科・助教授 中村修
■なぜ京大生の自炊率は高いのか!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
  ――主体的な学生企画と「食の自立」を支える大学生協のコラボレーション
   京都大学生協 管理栄養士 友藤弘子
■小学校で開発された「弁当の日」は大学生にも有効だった
  ――弁当づくりを介して身につく「生活創造」の力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
   西南女学院大学短期大学部生活創造学科教授 池田博子
■都会の中心で「食」と「農」をさけぶ若者たち
――農業戦隊アグレンジャーの食育フェア取材体験レポート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
  NPO法人農業情報総合研究所 理事 植村春香
2006食育実証研究発表会報告集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
連 載
■実践から学ぶここが決め手!食育最前線の取組み
 ◆郷土食レシピづくりは地域と連携した〈食の宝物〉探し
  ――学校と地域を結ぶ学校給食の新展開を一一の地区の力が支える・・・・・・・・・・・・・58
   熊本県上天草市立上小学校学校栄養職員 松本珠美
■食育の仕掛け人!
 自分でつくって食べれば体は元気に心は広がる
  ――命の時間を生み出す高取保育園の「食べごと」の世界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
   高取保育園園長  西福江
■シリーズ:世界の食
 インド料理の真髄は家庭料理にあり――いつの時代も変わらぬ食のこころ・・・・・・・・・72
   スパイス料理研究家 ロイチョウドゥーリ邦子
■食育の使えるツール箱  
 かつお節削り器――よみがえるかつお節の香りと味の魅力・・・・・・・・・・・・・・・・・78
   (株)にんべん 研究開発部 執行役員部長 荻野目望
■地域に根ざした食文化ルネサンス
 ため池文化の国〈香川〉の食文化をとり上げる学校がふえてきた
  ――「自然と人間のこまやかな営み」の精華郷土食を伝える・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
   香川の食を考える会会長  宮城公子
■食育の情報コーナー 最新レポート!九州の食育推進の現段階・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
   九州農政局消費・安全部消費生活課長 中田哲也

巻頭言 「基本法」の三つの柱をつないだ食育推進を

◆(学)服部学園理事長 服部栄養専門学校校長・医学博士  服部幸應

(学)服部学園理事長 服部栄養専門学校校長・医学博士  服部幸應 「食育ってなんですか?」とよく聞かれます。「親子料理教室のことでしょう!」、あるいは「農業体験のことでしょう!」と言う方もいますが、食育基本法に立ち返って食育とは何か考えてみましょう。三三の条文を持つ食育基本法は、大きくいって三つの柱で成り立っています。

 一つ目の柱は、安全な食べ物、危険な食べ物は何か、より健康になれる食べ物は何かという知識を得て選食能力を高めましょう。

 二つ目の柱が、食のしつけを見直しましょう。

 三つ目の柱は、食料や環境を足下から見つめ直し、同時にグローバルな世界観で食料問題や環境問題を考えることのできる人を育てましょうということです。

 一つ目の柱、健康への関心は高まっていますが、生活習慣病やその背景にあるメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)はあいかわらず増える傾向にあります。沖縄県の平均寿命は一九九九年まで女性が全国一、男性は全国四位でしたが、二〇〇〇年に男性の平均寿命が一挙に全国二六位に落ちました。沖縄県では、この三〇年位の間に肥満の男性が非常に増えています。この肥満男性が一定の年齢に達して生活習慣病となり、それが平均寿命を押し下げる要因となったわけです。

 これほどの変化を引き起こした沖縄県の食生活の現状を見ると、緑黄色野菜の摂取量は四七都道府県中三六位、そのほかの野菜の摂取量は四七位。ところが肉の摂取量となると、四七都道府県中一位なのです。沖縄の人は十四世紀から豚肉を食べてきましたが、昔は茹でこぼしをして脂肪をきるといった、いわゆるひと手間をかけていました。こういう伝統料理に沖縄の長寿が支えられていたわけです。だから健康の面からも、伝統的な食文化とその技法をもう一度見つめ直すのも大事なことだと思います。

 二つ目の柱は食のしつけ。〇歳から三歳は「三つ子の魂百まで」の親子のスキンシップの時ですが、三歳から八歳までは、家族で食卓を囲んで、箸の持ち方などの食のしつけをする時です。一年は三六五日。朝、昼、晩あわせて一〇九五回、食卓を囲むチャンスがあるわけです。私の年代だと、平均で一年間に八〇〇回は家族で食事をしていたはずです。ところがいまは三〇〇回以下、かつての三分の一なのです。おまけに食事をしながらテレビを見ている。さらに同じ食卓を囲んでも、別々の料理を食べている。これでは箸の持ち方どころではありません。家族間の会話も少なく、親と子の絆が薄れてきました。

 家族で食卓を囲んで同じものを食べ、その場で食のしつけをしないと、わがままで協調性がなく、人に注意されるとすぐキレる子になります。いまこれだけ少年事件が起きるのは、食卓にその原点があると私は思っています。食のしつけを見直す。そのためにまずは片親でもいい、あるいはおじいちゃん、おばあちゃんかも知れません、家族で食卓を囲んで、食事を子どもとしてあげることです。

 三つ目の柱は、食料問題や環境問題を考える能力を持つ人を育てる。ケニア出身の女性環境保護活動家で、ケニアの環境副大臣を務めるワンガリ・マータイさんが、「『もったいない』という言葉には、消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、資源再利用(リサイクル)という三つのRが入っている」と、「もったいない」を日本語で世界発信してくれています。ところが日本人が一年間に出す残飯の量は一人当たり一七一キロと、世界一なのです。また食材も、地元でとれるものを使わず、燃料費をかけて遠い所から運んでくるという無駄なことをやっている。こんなもったいないことはありません。

 この様に三つの柱は全部つながっています。たとえば残飯を出さず、食料をむだにしないということは、食べ残しをしないようにという食のしつけにつながります。地元でとれたものの有効利用は自給率の向上につながりますが、地元の食材を生かした郷土食の見直しにもつながり、そのことが健康につながっていきます。この三つの柱のうちの一つを自分の仕事、自分の専門分野として一生懸命やっていただくのはいいことですが、残りの二つの柱も、浅くてもいいけれどもカバーしていただきたいというのが、食育基本法の本来の意図ではないかと思っています。

 アメリカにおける食育の成功と失敗の事例を知りたくて、今年テレビ(NHK・BS1)の取材で実際にアメリカに行ってきました。そのとき三歳児と四歳児に料理を教える学校を訪れる機会がありました。ちょうどバナナプディングをつくっているところで、まず先生が実際につくってみせ、「さあ、あなた方もつくってごらんなさい」というわけです。できあがったら先生の所へ持って行きます。そのとき先生は「Good job」と言ったのです。「グッド」はよい、「ジョブ」は仕事。大人同士なら「やったね」くらいの意味ですが、三歳児、四歳児がそう言われるとどう感じるか。自己尊厳感の原体験につながるのではないでしょうか。小さいときから「いい仕事」とほめられて自尊感情を持つことができれば、生きるための仕事をしようという意識も高まり、日本もニートがいなくなるのではないか。そんなことを考えながら帰国の途につきました。

 こういうことも含めて、食育は非常にトータルな教育なのです。食育を大きくとらえて、学校、家庭、地域社会のさまざまな専門家やボランティアの人たちにも協力してもらいながら、子どもからお年寄りまでをつないで、さらに生産者や食品加工者に安心・安全・健康な食材や食品の提供をお願いし、国民運動として食育を推進していきましょう。