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「基本法」の三つの柱をつないだ食育推進を◆(学)服部学園理事長 服部栄養専門学校校長・医学博士 服部幸應 「食育ってなんですか?」とよく聞かれます。「親子料理教室のことでしょう!」、あるいは「農業体験のことでしょう!」と言う方もいますが、食育基本法に立ち返って食育とは何か考えてみましょう。三三の条文を持つ食育基本法は、大きくいって三つの柱で成り立っています。 一つ目の柱は、安全な食べ物、危険な食べ物は何か、より健康になれる食べ物は何かという知識を得て選食能力を高めましょう。 二つ目の柱が、食のしつけを見直しましょう。 三つ目の柱は、食料や環境を足下から見つめ直し、同時にグローバルな世界観で食料問題や環境問題を考えることのできる人を育てましょうということです。 * 一つ目の柱、健康への関心は高まっていますが、生活習慣病やその背景にあるメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)はあいかわらず増える傾向にあります。沖縄県の平均寿命は一九九九年まで女性が全国一、男性は全国四位でしたが、二〇〇〇年に男性の平均寿命が一挙に全国二六位に落ちました。沖縄県では、この三〇年位の間に肥満の男性が非常に増えています。この肥満男性が一定の年齢に達して生活習慣病となり、それが平均寿命を押し下げる要因となったわけです。 これほどの変化を引き起こした沖縄県の食生活の現状を見ると、緑黄色野菜の摂取量は四七都道府県中三六位、そのほかの野菜の摂取量は四七位。ところが肉の摂取量となると、四七都道府県中一位なのです。沖縄の人は十四世紀から豚肉を食べてきましたが、昔は茹でこぼしをして脂肪をきるといった、いわゆるひと手間をかけていました。こういう伝統料理に沖縄の長寿が支えられていたわけです。だから健康の面からも、伝統的な食文化とその技法をもう一度見つめ直すのも大事なことだと思います。 二つ目の柱は食のしつけ。〇歳から三歳は「三つ子の魂百まで」の親子のスキンシップの時ですが、三歳から八歳までは、家族で食卓を囲んで、箸の持ち方などの食のしつけをする時です。一年は三六五日。朝、昼、晩あわせて一〇九五回、食卓を囲むチャンスがあるわけです。私の年代だと、平均で一年間に八〇〇回は家族で食事をしていたはずです。ところがいまは三〇〇回以下、かつての三分の一なのです。おまけに食事をしながらテレビを見ている。さらに同じ食卓を囲んでも、別々の料理を食べている。これでは箸の持ち方どころではありません。家族間の会話も少なく、親と子の絆が薄れてきました。 家族で食卓を囲んで同じものを食べ、その場で食のしつけをしないと、わがままで協調性がなく、人に注意されるとすぐキレる子になります。いまこれだけ少年事件が起きるのは、食卓にその原点があると私は思っています。食のしつけを見直す。そのためにまずは片親でもいい、あるいはおじいちゃん、おばあちゃんかも知れません、家族で食卓を囲んで、食事を子どもとしてあげることです。 三つ目の柱は、食料問題や環境問題を考える能力を持つ人を育てる。ケニア出身の女性環境保護活動家で、ケニアの環境副大臣を務めるワンガリ・マータイさんが、「『もったいない』という言葉には、消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、資源再利用(リサイクル)という三つのRが入っている」と、「もったいない」を日本語で世界発信してくれています。ところが日本人が一年間に出す残飯の量は一人当たり一七一キロと、世界一なのです。また食材も、地元でとれるものを使わず、燃料費をかけて遠い所から運んでくるという無駄なことをやっている。こんなもったいないことはありません。 この様に三つの柱は全部つながっています。たとえば残飯を出さず、食料をむだにしないということは、食べ残しをしないようにという食のしつけにつながります。地元でとれたものの有効利用は自給率の向上につながりますが、地元の食材を生かした郷土食の見直しにもつながり、そのことが健康につながっていきます。この三つの柱のうちの一つを自分の仕事、自分の専門分野として一生懸命やっていただくのはいいことですが、残りの二つの柱も、浅くてもいいけれどもカバーしていただきたいというのが、食育基本法の本来の意図ではないかと思っています。 * アメリカにおける食育の成功と失敗の事例を知りたくて、今年テレビ(NHK・BS1)の取材で実際にアメリカに行ってきました。そのとき三歳児と四歳児に料理を教える学校を訪れる機会がありました。ちょうどバナナプディングをつくっているところで、まず先生が実際につくってみせ、「さあ、あなた方もつくってごらんなさい」というわけです。できあがったら先生の所へ持って行きます。そのとき先生は「Good job」と言ったのです。「グッド」はよい、「ジョブ」は仕事。大人同士なら「やったね」くらいの意味ですが、三歳児、四歳児がそう言われるとどう感じるか。自己尊厳感の原体験につながるのではないでしょうか。小さいときから「いい仕事」とほめられて自尊感情を持つことができれば、生きるための仕事をしようという意識も高まり、日本もニートがいなくなるのではないか。そんなことを考えながら帰国の途につきました。 こういうことも含めて、食育は非常にトータルな教育なのです。食育を大きくとらえて、学校、家庭、地域社会のさまざまな専門家やボランティアの人たちにも協力してもらいながら、子どもからお年寄りまでをつないで、さらに生産者や食品加工者に安心・安全・健康な食材や食品の提供をお願いし、国民運動として食育を推進していきましょう。 |