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食からの生きがい・健康・地域づくり「3・1・2弁当箱法」と「共食」の実践の場を訪ねて
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足立己幸 女子栄養大学名誉教授、保健学博士、管理栄養士。専門は食生態学、食教育学、食育。食生活指針、食育に関する各省庁の検討会委員、NPO法人食生態学実践フォーラム理事長など、社会活動でも活躍。主な著書に「食塩―減塩から適塩へ」(毎日出版文化賞受賞)「栄養の世界探検図鑑全四巻」(今和次郎賞受賞)「3・1・2弁当箱法」ほか多数。 |
自分の生きがいを聞かれて、あなたはすぐに答えられるでしょうか。足立己幸先生は、地域の人たちと食事学習する場合にまずは一枚のチャートを使って、「どんなことが生きがい? または、生きがいにしたいと思っていることは?」と問います。そして「それを実現するためにやりたいことは? またはやらなければいけないと思うことは?」として、「(1)健康面では、(2)食生活の面では、(3)その他の面では?」と続けて問います。さらに「これらを実現するためにどんな家族・仲間・地域であってほしいですか?」と問い、最後にそれらを全体的に見て、つながりの深いところを線で結びます。
実は、「生きがいは?」と聞かれて答えられない人もいます。でもそれは次回への宿題でもかまいせん。このチャートへの記入によって、自分の生きることと「食事がどのようにつながっているのか」、「自分はどうしたらよいのか」「家族や仲間、地域はどうあってほしいのか」などを具体的につかむことが大切なのです。すると、あらためて自分の「生きがい・くらし」のゴール、たとえば「家族や友人と仲良く過ごしたい」とか、「地域のために役立ちたい」というマイゴール(自分の目標)が見えてきます。このマイゴール実現のために、毎日の食生活が何よりも大切だと気づき、食生活改善の行動につなげて行くことができます。
従来の栄養指導や食事指導では、指導する側がまずはその人の食事内容を聞き出して栄養分析を元に改善点を明らかにして、具体的な食事のとり方を細かく教えるというものが大半でした。
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生きがいと毎日の食の大切さを結びつけるチャート |
しかし、すべての人が食べることを目的に、食べるためだけに生きているわけではありません。また、食事の優先順位もそれぞれの都合で異なります。それぞれが他人に強要されるのではなく、内的に変化の必要性に気づかなければ食事行動も変わらないものです。そこで、人それぞれに「自分の生きがいは何か?」「どんな暮らしがしたいか?」を考える機会を提供し、食事をはじめとする生活習慣をどのように改善していくかを自発的に考えることから始めようというのが、このマイゴール探しなのです。
マイゴール探しのチャートは、足立先生が中心になって開発した「共『食』手帳」の最初に登場します。この手帳は、マイゴールを明らかにする「生きがい・くらし」から入り、自分の体を知る「からだ・健康」、自分に合った食事バランスと食事の量(マイサイズ)を知る「食事・食行動」、共食を地域に広げ食環境を整備する「地域・環境」の四部から構成され、最後にもう一度マイゴールを確認し、次の段階のステップアップをねらいます。
今までの一方的な指導という関係から脱けだし、学ぶ人と専門家や関係者が「いっしょに学び、考え、実践し合う」ことによって食行動を変えて健康をベースに生き生きとした人生をおくる、そのツールが「共『食』手帳」です。いっしょに学習することができるワークシート形式になっているのですが、食行動を変える具体的な指針としては「3・1・2弁当箱法」が大切な役割を果たしています。
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3・1・2弁当箱法で詰めたお弁当 |
「3・1・2弁当箱法」は、各自おのおのが望ましい食事量や、食事バランスの目安をひと目で知り、考え、実践できる方法です。そのルールは次の五つ。
(1)自分にあった、ちょうどよいサイズ(マイサイズ)の弁当箱を用意する。
(2)その弁当箱に、主食3:主菜1:副菜2の表面積比で詰める。
(3)同じ調理法のおかずを詰めない。
(4)それぞれの料理が動かないよう、しっかり詰める。
(5)最後においしそうかなとチェック。
これで完成です。
(1)自分にあったサイズの弁当箱とは、一食に必要なエネルギー量と同じ数値の容器を選ぶこと、弁当箱の容量(ml)=一食に必要なエネルギー量(kcal)であることがポイントです。一食分に必要なエネルギー量は、四五〇〜八〇〇kcalほど、つまり弁当箱は約四五〇〜八〇〇mlに相当します。一日に必要なエネルギーの目安は、厚生労働省が発表している「日本人の栄養所要量 食事摂取基準」において、性や年齢、体格、活動量別に示されていますので一食分はおよそ三分の一から出発してよいでしょう。
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どちらも料理ベース。1日単位の「食事バランスガイド」と1食単位の「3・1・2弁当法」のつながり(グレイン、エス、ピー発表の2009年版食育カレンダーより) |
(2)は、まず、弁当箱の面積を六等分にして、主食3:主菜1:副菜2の表面積比で詰めると、一食に必要なエネルギーや栄養素を適量、かつバランスよく摂取することができます。主菜1なら、脂質やたんぱく質をとりすぎる心配もなく、副菜2なら、一日三五〇g以上、つまり一食一〇〇g以上といわれる野菜の摂取目標をクリアします。このように、主食・主菜・副菜は栄養素や味などの特徴がそれぞれ異なるので、バランスのよい食事が構成できるのです。また、弁当箱に入れると、思いのほか主食であるごはんをしっかり食べてよいということが分かります。
(3)の同じ調理法のおかずを詰めないことは、多様な料理を組み合わせるということです。炒め物、揚げ物、サラダなど、油を多く使ったエネルギーの高い料理を1品に抑えると、食事全体のエネルギー量や塩分濃度の高低のバランスがとれることも実証済みです。
(4)と(5)の隙間なくおいしそうに詰めることは、まず、弁当箱にごはんからしっかり詰めて、おかずを詰めると全体がきれに仕上がります。薬やサプリメントと異なり、食事で一番大切なことは何よりもおいしいことですから。
特徴は(1)で全体量をチェックし、最後(5)で全体としておいしそうかをチェックすること。全体から部分をていねいにチェックという「ものの見方」を重視していることです。
このように、弁当箱法で、「自分が何をどれだけ食べたらよいか」という目安が分かります。しかも、一日単位ではなく、一食単位という暮らしのサイズ、行動単位で知ることができるのです。一食分の目安が感覚として身につけば、他の食事も同じ調子で一日全体へと広げることも可能です。図のように、食事バランスガイドとのつながりも示されています。一日の単位ではハードルが高く実行できなくても、行動単位で示してあげれば、次の行動へとつながり、成果を上げやすいのも特徴です。
(つづきは本誌をご覧ください)