「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年11月号
 

食農教育 No.58 2007年11月号より

水道水とペットボトルの水はどこが違うの?

神奈川・茅ヶ崎市立松浪小学校 秋山勝彦

身の回りの水を見直す

 四年生の社会科で水道を学習するのと同時に、総合学習でも身の回りの水について調べようということになり、お店で売っている水や自動販売機で売っている水について調べることにしました。水道水に使われる水源の汚染への不安から利用の広がっているペットボトルの水に、関心を持っていたからです。

 そこで、子どもたちに聞きました。「家で水道水以外の水を飲んだり、料理に使ったりしている家はありますか」。すると、水をペットボトルで購入していたり、ときどき遠くへ汲みに行ったり、浄水器をつけたりするなど、水道水以外の水を飲用や料理に使っている家庭が予想以上にありました。その数はクラスの約三分の二になりました。

 理由を聞くと、安全だからとか、おいしいからとか、体によいからということでした。そこで、「安全・おいしい・体によい」をキーワードに、授業を展開することになりました。逆にいうと、本当に安全なの?本当にそんなにおいしいの? 本当に体によいの? という疑問から出発するということでしょうか。

ペットボトルの水の値段はどうやって決まる?

図1 授業計画を構想するときに使った図

 まず、自動販売機やスーパーマーケット、コンビニエンスストアー、ドラッグストアー、ディスカウントスーパーなどで売っている水を調べました。自動販売機の写真を撮り、銘柄と価格を調べ、地図に自動販売機の場所を記していきました。次に、自宅に近い店ごとのグループに分かれて調べました。酒店やコンビニエンスストアーでも、詰め替え用の水を売っていました。同じ物でも店によって価格が異なることや、安売りの一〇〇円ぐらいのものから、六〇〇円近い深層海洋水のようなものまで、さまざまあることがわかりました。

 社会科で学習したときの水道料金表を持ってきた子が、「お店で買う水と水道水とでは、どっちが安いのかな」と言い出しました。そこで、その料金表から割り出してみると、水道水一リットルあたり約〇・一五円だということがわかりました。

 それに対してペットボトルの水は、一リットル約七〇〜三〇〇円ということですから、いかにペットボトルの水が高価なのかがわかりました。子どもたちには、この価格の違いがどうしてなのか、ペットボトルの水の価格はどうして決まるのかという疑問がわいてきました。

 また、調べてきたペットボトルの水のいくつかを「飲んでみたい」との子どもたちの声に押され、第一回の水の試飲会を開くことにしました。国内のナチュラルミネラルウォーター二種類、深層海洋水二種類など、伏流水の種類や採水地の違う五種類の水を用意しました。水は冷やさず常温で飲み比べました。

 水の味や好みの順位や価格の予想などをしてみました。子どもたちは、水の味について、「あまい」「苦い」「やや苦い」など苦心して書いていました。その結果、高価な水が必ずしも「おいしい」と感じるわけではないこと、好みにはだいたい同じ傾向があることがわかりました。子どもたちからは、「水の味には違いがある」「次は冷やして飲みたい」という声があがりました。

水の値段はタダだった

ペットボトルの水の工場周辺の環境(富士吉田市)

 試飲した後のペットボトルのラベルをよく見ていくと、同じ水でも、ナチュラルミネラルウォーター、ボトルドウォーター、清涼飲料水と品名が異なることがわかります。また、賞味期限や成分、採水地などの情報が載っています。そんなことを調べるうちに、「採水地に行ってみたい」「どんなところでつくっているのか見てみたい」と、子どもたちが言いだしました。そこで、担任の私だけでしたが、富士吉田市にある林の中の工場を見学させてもらいました。深さ一五〇メートルの井戸で地下水を汲み上げている製造ラインを見学し、殺菌方法などを聞きました。経費は、容器代、工場の費用、運送代、利益などで、水の値段は入っていないということに驚きました。また、工場周辺は自然に恵まれよい環境にあると安全面を説明されました。周辺環境がいかに地下水に影響を与えるか、ということなのでしょう。

 容器や地下水を加熱殺菌するなど、十分に安全は確保されている近代的な工場でした。ただ、水道法と食品衛生法で定められている基準をつきあわせてみると、水道水の水質規準は、ミネラルウォーターの水質基準よりも項目数でも基準でも、厳しいものになっていることがはっきりしました。水道水よりペットボトルの水のほうが安全とは必ずしも言えず、水質基準をとれば、水道水のほうが安全といえるようです。

ペットボトルの水は本当においしい?

 第二回の水の試飲会では、「次は冷やして飲みたい」という子どもたちの希望を取り入れて、冷やして出すことにしました。冷やしたペットボトルの水と冷やした水道水を、正体がわからないようにして出しました。そうすると、意外に水道水もおいしいという評価が出ました。冷やしてしまうと、水道水もペットボトルの水もあまり変わらなくなるようでした。ペットボトルの水が水道水よりおいしいというのは、絶対ではないということです。

 では、なぜみんな水道水をおいしくないというのか、子どもたちに問いかけました。すると子どもたちからは、「川の水きたないもん」「消毒くさいよ」などの声が出ました。そこで、NGOの方にお願いして、川の水が汚れていく様子を再現して見せていただきました。最後に、以上の学習を紙芝居や新聞にまとめました。さらに、学校の中のおいしい水探しもしてみました。

世界の水へ視点を広げる授業構想

 ある研究会で、アジア太平洋資料センターがつくった『ペットボトルの水』(五二頁参照)というビデオを見る機会を得ました。今まで子どもたちと学習しながら、ずっと疑問に思ってきたペットボトルの水の国内と世界の実態がわかることに感激し、さっそく、子どもたちとそのビデオを見ることにしました。ビデオを見たところで、「水はどうしてタダなのだろう」という疑問を投げかけたところ、子どもたちから、次のような感想が出ました。「日本は水を使いすぎている」「パキスタンでは半分の家に水道がない。毎日重い水を自分で運んできている」「ペットボトルの水の工場が多すぎる」「一リットルの水道水が〇・一四円は安すぎるよ」「少ない国に水を分けてあげたい」「ペットボトルをリサイクルしない人が多すぎる」。

 このような子どもたちの感想を聞いているうちに、次のような授業構想がわいてきました。

【A 工場のある地域の人びとに視点をあてて】

(1)人はどれくらい水を買っているのだろう。お店にある水の種類を調べよう。
(2)国内のペットボトルの水を調べる。採水地の様子、ペットボトルの水の工程、価格のしくみなど。
(3)採水地が海外のペットボトルの水を調べる。採水地の国の様子を調べていく。日本との違いに目を向ける。水の豊かさの違い。人びとの暮らしぶりの違い。水環境(水道、井戸、水くみ)など。
(4)水の不足している国にできたペットボトルの水をつくる工場によって、何が起きたか。
(5)(4)で起きた環境の変化が人びとの生活にもたらしたもの。
(6)水は、地域に住むみんなのものなのか、工場を持つ企業のものなのか。 以上の過程を通して、「地球の水はいったいだれのものなのか」を問う授業。

【B 水道水とペットボトルの水の価格の違いから】

(1)どれくらい水を買っているか、ペットボトルの水の価格などを調べる。ペットボトルの水の種類、売っている場所など。
(2)水道水との価格の違いを考える。安すぎる水道水。
(3)ペットボトルの水の価格を調べる。水は0円。
(4)高い水を買う理由を考え、水を飲み比べる。
(5)ペットボトルの水を買える人と買えない人、水の豊かな国とそうでない国。
(6)地球をめぐる水循環から考える。

図2 どちらの国が幸せですか?

 地球の水はみんなの水。地球上のわずかな淡水を、地上の生き物すべてで分け合って生きていくという視点を、「水」の授業の中に取り入れようと考えました。図2のように構想できないでしょうか。海へ流れた水は海水となり、蒸発して雲になり雨となって地上へ降り注ぐ。大きな山を分水嶺にして、片方の国へ流れ出た水は、川となり地下水となり、水道や井戸を通して、人間や植物・動物へと行き渡りそしてまた海へ戻る。

 反対の国へ流れ出た水は、川にも地下水にもなるが、途中のペットボトルの水の工場で大量に地下水を汲み上げてしまうため、その先の民家の井戸や田畑へは届かない。そのため人びとやほかの生き物は水に困ってしまう。高価な水を買える人びとのためにその水が費やされて、地域に住む人びとのためにはなっていない。

 A、Bの授業の流れを総合して、表2のような授業計画案をつくってみました。何だか面白い授業ができそうなのですが、みなさん、いかがでしょうか。

表2「ペットボトルの水と水道水の授業」計画

[50時間、( )は時間数]

身近なペットボトルの水から考えよう(25)

どうして買うのかな
水道との違いは何だろう
国内のペットボトル水の採水地から
 採水地の様子(工場)
 環境への影響(地下水が枯れる)
使い終えたペットボトルはどうなっている

世界のペットボトルの水(8)

世界の水事情 外国ブランドの水 
 どこで採っているんだろう(採水地)
 採水地の様子(工場)
 工場の環境への影響(地下水が枯れる、汚染)
その国ではどんな水を飲んでいるのだろう
 水道や井戸はどうなっているのだろう

水はだれのもの(12)

水循環から考える 
地球にある水 飲める水はどれくらい
 地球の水 海水─蒸発─雨─川・池─飲料 
 水道水がおいしくないのはなぜ  
 地下水が減っているのはどうして
  工場の出現 地下水の汚染
水を分け合う 水の豊かな国と不足している国

みんなに知らせよう(5)

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