食農教育 No.58 2007年11月号より
いのちのつながりを伝える
ドングリクラフト
富士常葉大学教授 山田辰美
秋、公園や森で拾ったドングリで何かつくってみようという人も多いはず。
山田辰美先生は、ドングリクラフトを、単なる自然の素材を使った「工作」ではなく、木の実に新しいいのちを吹き込む遊びをとおして、生き物のつながりへの興味をかりたてる環境教育であるととらえています。
クラフトの作品づくりとあわせて、楽しみながら子どもたちの自然への興味をふくらませる言葉かけや活動のヒントを教えていただきました。【編集部】
[ヒント1] ドングリのおかあさんさがし
まずは森へドングリ拾いにいきましょう。でもドングリ拾いに夢中になりすぎて、地面ばかり見ていませんか。そんなときは、「ここに迷子のドングリがいるよ。おかあさんの木をさがそう」と声をかけます。
ドングリは木の赤ちゃんであること、ドングリにはいろいろな種類があること、何のドングリかはドングリがかぶったり、そばに落ちている帽子から区別がつくことを教えます。アラカシのドングリの帽子(殻斗)はしましま模様、コナラはぷちぷち模様の丸い帽子、クヌギやアベマキはもじゃもじゃの帽子、スダジイは頭巾といったように(図)。
このころになると子どもたちは、「どんぐりころころ」の歌を思い出して、しぜんに口ずさみはじめます。
おかあさん(母樹)を見分けるには、葉っぱが目印。たとえば、クヌギなら細くて縁がギザギザ(ぎょ歯)の葉が落ちているところをさがし、そこを見上げればその木がおかあさんです。
[ヒント2] ドングリとリスの助け合い
ドングリにとってコロコロころがるのはたいへん大事なことなのです。もし、おかあさんの木の根元に着地して芽生えたら、おかあさんと子ども、あるいは子ども同士が混み合って、栄養や日の光をうばいあうことになってしまいます。自分の存在がおかあさんや兄弟の生存をおびやかしてしまうのです。
そこでドングリの形が問題になります。実際に斜面をころがしてみると、ビー玉なら、何個ころがしても同じところで止まってしまいますが、特有の形をしたドングリは不思議な軌跡を描いてさまざまなところにころがっていきます。そこから子どもたちのドングリの形への興味をもたせることができます。
それでは山の上にはドングリは生えないかというと、そんなことはありません。リスやネズミ、カケスのような動物が運んでくれるからです。彼らは秋に集めたドングリをさまざまなところに運び、土に埋めて貯め込み、冬の間、掘り出して食べます(貯食)。その食べ残したものから、ドングリが芽ぶいてくるのです。
ドングリはリスに食べられることで、森のなかのさまざまな場所に子孫を残すことができるのです。
ドングリと生き物のつながりはそれだけではありません。
コナラのドングリ(堅果)のとんがったほうから根と芽が出てくるカブトムシの幼虫はクヌギやコナラなどの葉が好物です。枯葉を食べて、ウンチをぶりぶりっとして、でもそのウンチはみんなのように臭いウンチじゃなくて、山の土(腐葉土)になるのです。
ドングリを知ることは森のつくり、生態を知ることであり、生き物のかかわりを深く、学ぶことにつながっていきます。
[ヒント3] ドングリの根や芽はどこから出てくるの?
私がドングリに高い教材性を感じるのは、ドングリ(堅果)がいのちのもとであり、木の赤ちゃんが入っているから。ドングリはそこから根や芽が出てくる「栄養のカプセル」です。
私は子どもたちにドングリをさわらせながら、どこから根が出て、芽が出るか絵を描かせます。子どもたちは一生懸命予測を立てて絵を描きます。
土の上にドングリを置くと、とんがったほうから根と芽が出て、ドングリが起き上がります。それを見せると、ドングリが木の赤ちゃんであることを実感できます。
ライオン
クヌギのドングリと松ぼっくりを組み合わせて。松ぼっくりを裏返すのがミソ イモムシ
コナラのドングリの帽子にキリで穴をあけ、紐を通す。モールを通すとポーズが決まる。最後尾と頭にあたる部分はボンドで固定。目は小さなドングリ カエル
ドングリの胴体にナタマメの頭、ピスタチオの足。目はトラマメ。目や口は豆の模様を生かしている クマ
ドングリと松ぼっくりを組み合わせて。鼻と耳にドングリの帽子を使うのがポイント カメ
カキのへたとドングリの組み合わせ。
目をつけると表情が出るアニミズムの感性を育てる
私はドングリクラフトをはじめとしたネイチャークラフトを「アニミズム」の感性を育てる活動としてとらえています。「アニミズム」とは無生物をあたかも生命や魂があるかのようにとらえる感性のことです。発達心理学で幼児に特有の感じ方として説明されますが、私はこの感性は多神教的な日本的自然観や禅の精神に通じると思います。そして、ドングリや松ぼっくりなどの自然物を使って、森の動物などをつくるクラフトは、やがて朽ちて土に戻ってしまうものたちに、生命や魂を吹き込む活動であるといえます。それはまた、生態系・共生系といった生き物のつながりに基礎を置いた世界観を培うことに発展する活動だと考えているのです。
(談・文責編集部)
山田辰美先生の木の実のクラフトの絵葉書
1セット10枚組800円。
四種類(春・夏・秋・冬)のセットがある。▼お申し込みは「NPO法人 里の楽校」
FAX 054-643-3200まで
マテバシイでドングリのあんこをつくろう
昔の人はドングリのアクを手間をかけて抜いて、あんこのようにして食べていました。ドングリにアクがあるのはその渋味によって動物に食べつくされない知恵ではないでしょうか。
ほとんどのドングリはタンニンを含み、渋味がありますが、マテバシイやスダジイの実には渋味がほとんどありません。これらのドングリは渋味をもつかわりに食べつくされないほど大量の実をつけることで子孫を残そうとしているように見えます。
そのマテバシイの実であんこをつくってみましょう。マテバシイの実の皮をペンチやクルミ割りでつぶし、渋皮をとって、よくつぶします。すり鉢で気長につぶしてもいいですが、手早くやるならミキサーにかけるといいでしょう。2〜3回軽くゆでてアクを抜き、砂糖をまぜて煮込むと、きれいな小豆色になってきます。それをビスケットの上にのせて食べます。
幼児でも参加できる楽しい活動です。
ドングリをつぶす ミキサーで細かくつぶす(右はクッキーの生地づくり) でき上がりは本物のあんこ色に
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