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第7回 おにぎりを撮る

 モノを撮る、というのは簡単そうでじつはむずかしい。おにぎり一つにしても、いざ目の前に置かれたら、あなたはどう撮影するだろうか? 本連載の1、2回目で、レフ板と窓際簡易スタジオのつくり方を解説した。今回は、その有効な使い方を解説する。ポイントは、モノのとらえ方と見せ方(光と配置)。うまそうなものをうまそうに撮るやり方だ。

ここを読む前に連載第2回を復習してください→

※画像をクリックすると拡大表示します。

コツ1 部分で伝わるモノ、そうでないモノ

おにぎりを撮る前に少し回り道をしよう。写真1をご覧いただきたい。これを見ても写っているのがなんだか理解できる人はほとんどいないだろう。次に写真2をご覧いただきたい。誰にでもわかると思うが、これはカップだ。


写真1

写真2
で、写真3と4が、それぞれ1と2の全体像となる。ここまでくると写真1がなにであったか気がつくだろう。写真撮影に使うストロボだ。
写真1と2、2つの写真の見え方の違いは、日常的にしばしば使う道具としてのカップと、ふだんあまり目にしないストロボという「モノ」に対する「親しさ」が、それぞれまったく異なることに起因している。

写真3:ストロボのように、めったいに見ないモノは、全体を写す必要がある。そうしないときちんと認識されないのだ。

写真4:このような写真は、カップの宣伝ならともかく、深い印象を与える写真とはなりにくい。むしろ、写真2のように、全体を写さないほうがいい。
カップのように誰でも知っている「モノ」であれば、特徴のある部分をクローズアップしても、その全体像を想像できる。画面の中に、グリップが写っているだけで十分カップだと伝わるのだ。

コツ2 朝を演出する背後からの明るい光

2つの写真をよく比べていただきたい。同じアングルから撮影したものである。クリックすると拡大するので大きくしてじっくり見比べていただきたい。どこが違うか。
違いは光の強さである。とくにプランターの花を見比べてみよう。左の写真5のほうが明るく見えるはずだ。
これは単純に、「露出補正ボタン」を+1にして撮影した。つまり右の写真6よりも写真5のほうが+1段分明るいということ。
で、ご覧いただくとわかると思うけれども、左の写真は明るい朝日が差し込んでいるように見えるはず。なんでもかんでも明るければいいということじゃないけれど、一般的に背後からの明るい光は朝を演出するのだ。


写真5


写真6


コツ3 ふつうじゃ、ありえない配置を

最初の写真は、画像で見ると違和感はないけれども、実際には写真7のように配置しているのだ。
こんなふうに食卓に配置することはありえない。第5回「給食を撮る」でも解説したけれど、食器が重なるくらいに近寄せて配置する。
写真8はカメラアングルだ。画面の右側にレフ板があるのが見えると思う。このレフ板は、サンドイッチを照らすということもあるけれども、植木鉢をメインに照らしている。朝を演出する、背後からの明るい光をつくるためだ。


写真7:せっかくきれいに並んでいるサンドイッチをわざわざ並べ替えて崩している。なぜか?
この方がおいしく見えるからなんだ。
画面の中でおいしそうに見える並べ方が正解だ。その並べ方は実際に食べるときの並べ方とはまったく異なることが多い。定食屋のメニューがおいしそうに見えない原因はここにある。
写真8:縦画面で撮影。多くの場合、横画面は横の広がりを表現する。反対に、縦画面は奥行きとか高さを表現する。東京タワーやら大阪城を撮影するとき横画面で撮影している人が多いけれども、平べったく写る原因はここにある。
今回は敢えてテーブルの奥行きとか、背後の窓から差し込む光を表現したかったので立て画面で撮影した。と、まあ、カメラマンとはいえ、いろいろと考えて撮影しているのです。

コツ4 組み合わせて主題を明確に

本誌(『食農教育2005年7月号』)にて、「写真は引き算である」と書いた。余計なものをどんどんそぎ落としていくことを、引き算にたとえたわけだ。
で、「おにぎりを写せ」と言うと、たいていは写真9のように写す。破綻のないように全体を素直に写す。こういうふうに写っていれば、とくになんの不満もない公務員的人生ではある。
平凡ではあり、大きな波風のない安定路線である。安定路線ではあるがいささかおもしろみには欠けるきらいがあるのは否めない。
そこで、写真10をご覧いただきたい。ここまでくれば、もうおわかりだろう。皿も湯飲みも割り箸も漬け物も、全体を写していない。全体をほぼ写しているのは、主役のおにぎりだけだ。
「写真は引き算だ」の意味するところは、情報として必要不可欠なものだけに、画面を整理することなのだ。
さて、あなたはどっちのおにぎりに食欲をそそられるだろう?

写真9:可もなく不可もない写真。なんとか及第の70点というところだ。定食屋のメニューである。

写真10:背後からの明るい光と、ふつうじゃありえない配置をすると、こうなった。
ところで、写真10を見て、引き算だといいながら、主題のおにぎり以外に漬物も割り箸も湯飲みまで写っているではないか! と、お怒りのあなた。芝居を考えていただきたい。主役だけで芝居は成立しない。一人芝居というのもあるけれども、その場合、そんじょそこいらのハンパ役者では演じられない。
主題そのものを引き立てるための脇役があると、主題がよりいっそう際立つ。
引き算というのは、日本人であれば割り箸の一部が写っていれば割り箸であると認識できる。割り箸全部を写さなくたって割り箸に見えてしまうのだ。そういう「共通する認識」を大いに利用しようということ。湯飲みも漬物もしかり。全体を写すと安っぽい定食屋のメニューになっちまうのだ。

参考URL

ごはんがあればそこそこしあわせ

山形の米農家押野氏のよだれの出てくるようなおにぎりのページ。
ここを見るたびに、おにぎりが食べたくなるのは私だけではないはずだ。
写真も非常にうまいのでぜひ一度ご覧あれ!


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