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農文協トップ主張 2013年4月号

つなぐ〜「地域」と「農」の担い手として
「JA全国青年大会」で示された、青年たちの新たな息吹

 目次
◆TPPが、予断を許さない状況のなかで
◆農業青年は、「強い農業」を望んでいない
◆多彩に展開する「つなぐ」活動
◆小さな経済の積み重ねと交流が地域をつくる
◆頼りになるのは「農家の技術」と「共同の技術」

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TPPが、予断を許さない状況のなかで

 去る2月14、15日、東京の日比谷公会堂で第59回JA全国青年大会(主催・全国農協青年組織協議会〈JA全青協〉)が、1500名の参加のもと開催された。

 第26回JA全国大会のスローガン「次代へつなぐ協同」をうけ、また東日本大震災からの復興支援活動「絆プロジェクト」で生まれた絆をさらに広げようと、スローガンには「つなぐ〜『地域』と『農』の担い手として〜」が掲げられた。

 大会では、「JA青年の主張」と「JA青年組織活動実績発表」が行なわれ、TPP反対の特別決議で幕を閉じた。

 JA全青協は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加に一貫して反対し、昨年11月の国会議員会館前での座り込み、首相官邸前での抗議行動などを展開してきた。大会では遠藤友彦会長が以下のように挨拶した。

「政権与党の自由民主党は『聖域なき関税撤廃を前提にする限り』TPP交渉参加に反対、としており、なお予断許さない状況で、引き続き情勢を注視する必要があります。そして、TPPが農業だけの問題ではなく、食の安全や医療制度など国民の暮らしに甚大な影響のあることを消費者に伝えていくことも含め、引き続きTPP交渉参加反対の想いをしっかりと発信していきましょう」

 来賓挨拶では、林農林水産大臣のメッセージを加治屋副大臣が代読したが、そこにはTPPの言葉はなく、「付加価値の高い『攻めの農業』」が強調され、その後の全中・萬歳会長の「TPP断固反対」の挨拶とは対照的だった。

 TPPは、いよいよ「予断を許さない状況」になってきた。オバマ米大統領は2月12日の一般教書演説で、アジア市場への輸出拡大を目指し、TPPの交渉妥結を目指すと明言し、今秋での交渉妥結に向けた協議を加速させる意欲を示した。一方、安倍首相は2月下旬の日米首脳会談に向けて、「聖域なき関税撤廃かどうか、私自身が首脳会談で感触をつかみ、判断することになる」と述べている。

 TPPは、遠藤会長の挨拶にあるように、関税問題に留まらず、食の安全、医療、金融、保険、公共事業、労働など、国民生活に関わる多くの分野で、アメリカ流「市場原理主義」を「国際ルール」として押しつけることにその本質がある。しかし政府は、TPPをひたすら「関税問題」に絞り込み、そのうえで一つでも関税交渉対象品目にできれば、これをもって「聖域」を確保できそうだとし、交渉参加に向かう恐れがある。

 大会で採択された「TPP交渉参加に断固反対する青年農業者による特別決議」では、TPPは農業を基盤とする地域社会を崩壊させ、「国家の主権をも侵害する危険性のある極めて異質で極端な貿易交渉」と指摘。TPP反対は、「利益団体のエゴ」などでは決してないのである。

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農業青年は、「強い農業」を望んでいない

 さて、JA青年部について、どんな活動をしているのかよくわからない読者も多いにちがいない。JA青年部に加入していない若手農家も少なくない。平成24年5月現在、全国710JAのうち515JAで青年部が組織され、加入者(「盟友」と呼ばれる)は6万2861名。残念ながら加入者は減少が続き、活動がマンネリになっているという声も多い。大会のなかでは、酒を飲むだけの組織にみられ、地域に貢献しているのにそれが伝わっていない、という発言もだされた。

 元JA全青協会長の大西雅彦さんは次のように述べている。

「最近気になるのは、新しく農業をはじめる方々の中に、『反JA』を掲げるのがウケると思い込んでいる人が少なくないこと。メディアの風潮がまずそうなっている。JAを叩いて、個人で企業的に経営をやって、やれ中国だ海外戦略だとやっている農家を持ち上げている」

 財界をはじめとするTPP推進派の「強い農業」論は、関税撤廃による自由化に耐え、さらには農産物輸出に挑戦する企業的経営こそ農業の担い手だと主張する。しかし、担い手たる青年農家はそんなことを望んではいない。大会での発言・発表を紹介しながら、考えてみよう。

「青年の主張」部門では、熊本県JA菊池青壮年部・石井宏和さんの「farmers idea?農家ならではの発想」が全中会長賞を受賞した。石井さんが所属する旭志青年部(59名)では、地域の祭りやイベントへの参加、幼稚園や小中学校の子どもたちへの食育活動、そして地元の中学1年生を対象に、青年部員宅に1泊2日で農業体験する「ふるさとファームステイ」に取り組んでいる。この「ファームステイ」は現在まで19年間続き、受け入れ人数は1200人を超え、これこそ「旭志の後継者育成の大きな原動力になっている」と石井さんは胸を張った。一方、原油や飼料高騰で経営が苦しくなるなか、酪農仲間20人が出資してトウモロコシの発酵飼料などをつくる「牛の給食センター」をつくり、さらに糞尿を発電や熱原に活かそうと「バイオガスプラント」も立ち上げた。地域の生ごみや食品廃棄物なども生かし地域のエネルギーセンターにと夢が膨らむ。

「日本の農業はTPPなどの自由化問題によって最大の局面を迎えようとしています。個々の競争が激化した社会、農業もそこに組み込まれようとしています。しかしながら、日本の農業は違います。私たちは団結をもってこの難局に向かっていかなければならないのです」「3・11以降、社会にとって何が必要か必要でないかを私たち農家なりに考える時が来たのではないでしょうか」?石井さんはこう訴えた。

 JA横浜青壮年部の鈴木太一さんは、「うちのイチゴを食べて『美味しいね!』と笑顔になる。この笑顔こそ私の目指す農業だと思いました」と語り、「本当に横浜に農業は必要ないと思いますか? 地方でやれば良いでしょうか?」、「そうだとすれば、国土の狭い日本で農業は必要でしょうか? 中国やアメリカにまかせておけばよいでしょうか」と都市農業の大切さをアピールした。

 福井県JA若狭小浜青壮年部田烏支部の山下倫弘さんは、 棚田に1600本のキャンドルを灯しフォトコンテストを行なうイベントを紹介、そしてこう締めくくった。

「…鮮やかな棚田の向こうには青い海が広がり、水平線に夕日が沈みます。私の夢は、結婚して子供が生まれたとき、この大好きな景色を子供に自慢することです。私には、日本の農業がどうだとか、農業を広く普及させたいだとか、そんな大きなことは言えません。でも、この大好きな田烏の風景を、そして地域の力を自分たち世代が中心となって必ず受け継いでいきます」

 ほかに、果樹のネット販売に取り組む秋田県JAあきた北央青年部の澤藤匠さん。小さな花産地で全国ブランドをめざすJA京都市青壮年部の吉田宗弘さん、「生産者と消費者が信頼関係で結ばれている牛飼い」をめざすJA香川県青壮年部の芳竹宣幸さんが発言。さまざまな悩みや課題を抱えつつも農業が大好きで、自分の農業は仲間や地域に支えられていること、それを次代の子どもたちにつないでいくことに想いをこめた「青年の主張」であった。

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多彩に展開する「つなぐ」活動

「活動実績発表」では、JA東京むさし三鷹地区青壮年部の須藤金一さんが全中会長賞を受賞した。同青壮年部では、市内の中学校22校すべて(生徒数1万1000人)に地場産食材を提供してきた。三鷹の農業を知ってもらおうと「食育カレンダー」も制作。旬の野菜や農家の作業暦、学校の栄養士さんによる野菜レシピなどを載せたカレンダーのメインは「農のある風景画」だ。風景画は地元小学校の夏休みの自主課題として募集した。500枚の絵が集まり13点をカレンダーに掲載。選ばれた絵の表彰式を行なう農業祭では500枚の絵すべてを展示し、一昨年の第50回農業祭にはのべ1万5000人、市民の10人に1人が参加する一大イベントになった。

 この農業祭やJA直売所には長野県や新潟県の青年部も参加し、復興支援の交流がきっかけで福島県いわき市からも参加。風評被害に対し何かできることはないかと考え、招待したのである。

 北海道JAふらの青年部東山支部の大野寛之さんは「こちら、過疎最前線! 東山でそばを作り始めた男たちの物語」を発表。耕作放棄地を活用する「青年部によるそば実証圃場」プロジェクトを立ち上げ、そば粉の無料配布や女性部の協力をえた料理レシピ(クレープ、ドーナッツなど)の紹介、小学生とのそば打ち体験を行なっている。地域の青年団との協同活動も進め、人口減少で絶えていた盆踊りを青年有志で20年ぶりに復活させた。

 富山県みな穂青壮年部(発表・田中吉春さん)では、鳥獣害が深刻化するなか、「草刈り奉仕活動」を始め、さらにソバによる放棄田回復を進めソバ打ち教室も開催。地元商工会青年部からの「ソバ屋台出店」の要請にも応じ、「入善レッドラーメン」というトウガラシ入り麺を共同で開発した。トウガラシの育苗は入善高校農業科が担当、「農商校」連携なのである。

 長崎県JA島原雲仙青年部小浜支部の宮田和晃さんは、

「ポテトでつながるプロジェクト」を発表。若手の勧誘を積極的に進め組織が若返ったのを機会に「どうせなら、何か面白い事ばしてみゅうで!」と話し合った結果生まれた取り組みだ。小浜の特産であるジャガイモの創作料理開発を長崎市の九州調理師専門学校専攻科の生徒さんにお願いし、小浜と雲仙の観光協会に関わってもらい、旅館やホテルに売り込む。オーナーや女将、調理師さんなど50名ほどが参加した創作料理選考会では、和食部門「じゃがいも磯辺揚げ」、洋食部門「アイミルフィーユタカ季節の野菜のせ」、スイーツ部門「じゃがいもアイス」が選ばれ、 24軒の旅館ホテルと取引が開始された。

 ほかに、花を無料配布しながら母の日のお墓参りを提案する和歌山県JA紀州中央青年部(発表・野村直佑さん)、

「新・わんぱく農場に向けて120年目の挑戦」の山口県JA下関青年部菊川支部(発表・坂田謙祐さん)など、元気な「つなぐ」活動が、参加者を勇気づけた。

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小さな経済の積み重ねと交流が地域をつくる

 本誌の新年号では「『大衆による生産』で未来を拓く―日本の農家が創る“スモール・イズ・ビューティフル”」という主張を掲げた。「スモール…」と謳ったシューマッハは、「人間の身の丈にあった技術」を生かした「大衆による生産」こそが、労働と自然の破壊をもたらす現代文明の危機を打開する唯一の道だとし、農村と小都市に何百万という数の仕事場をいかに作り出すかが、現代文明の危機を克服する核心であると主張した。

 今、安倍新政権のもと、アベノミクスという経済成長戦略が強力に打ちだされ、期待も高まっている。しかし、これで地域の再生が進むとは思えない。輸出型大企業のみ栄え、格差と地方の疲弊が進むという構造は再生産され、「国土強靭化」にむけた公共事業の拡大も、「農村と小都市に何百万という数の仕事場」をつくりだすことにはつながらないだろう。これについては、改めてこの「主張」欄で取り上げたい。また農文協では4月(予定)に、『アベノミクスと日本の論点―脱成長が地域を元気にする』という内容のブックレットを発行する。成長への誘惑を捨てた重層的で小さな経済の積み重ねと交流こそ地域・日本の向かうべき途であることを浮き彫りにしたい、と考えている。

 JA全国青年大会のスローガン「つなぐ〜『地域』と『農』の担い手として〜」も、発表された実践もまた、「小さな経済の積み重ねと交流」を進めていく取り組みだ。JA大会で強調された支店を核とした協同活動を、地域の様々な人や組織とつながりながら青年組織もしっかり担っていく。

 TPP反対闘争や震災復興支援の活動の取り組みを通して、青年たちの活動に新たな息吹が生まれている。

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頼りになるのは「農家の技術」と「共同の技術」

「『地域』と『農』の担い手として」活動することは、「自分の技術・経営の向上と、地域を元気にしていくことを一緒に進める」ことだ。その時、何より頼りになるのは、農家が蓄積してきた技術であり、農家が編み出してきた共同の技術、地域づくりの手法である。その学びの素材・武器として、農文協の「ルーラル電子図書館」が必ずや力になるにちがいない。

『現代農業』や『農業総覧・技術大系』などを収録した「ルーラル電子図書館」には農家の技術と、現場の課題に向き合う研究者・技術者の研究成果が食品加工なども含めて集大成されている。先に紹介した、元JA全青協会長の大西雅彦さんも、この「ルーラル電子図書館」をよく活用されている。『現代農業』もよく読まれていて、こう話してくれた。

「『現代農業』の記事はどこどこのだれだれさんがこういうことをやってますよという事実がメインになっている。そんな、農家が実際にやってどうなったのか、という話が私たちにとっていちばん信頼性がある。どこぞの先生が、たとえばリン酸の施用量を変えてみたとかいっても、こっちは畑に出ていてそんなことだけやってられるかと。でも、実際に農家のじいちゃんがこんなことやってみたらうまくいったよ、という話を目にすれば、こっちも負けてられへんな、俺たちもやらなあかんなと、となる。そのうえで、なぜそうなるかという考察記事も役立つ

『現代農業』は農家の体験や技術を学び合い交流する雑誌だ。今、フェイスブックなどソーシャルメディア全盛とかで、双方向的な情報の受発信が盛んになってきたが、『現代農業』はこれを農業の世界で何十年も前から先取りしてやっている」

 大西さんは、以前は役立ちそうな記事のリストを作ったりしていたが、「ルーラル電子図書館」なら簡単に探し出せる。PDF(記事画像)で見られるのもいいという。紙面の印象で記事を覚えているからだ。研修生には、作業前に電子図書館の『農業技術大系』の記事を読ませている。わからない言葉があったら、その言葉で検索させる。iPadやスマホを使えば、10分休みの間でも情報が得られる。出張の時も読める。たまには“流し”で検索してみるのも、思わぬ記事に出会えて面白い、という。

 JA青年部では4年前から「ポリシーブック」をつくる取り組みを進めている。当時民主党政権下において、自分たちの主張が受け入れられにくい中、自分たちがどういう農業経営をしていきたいのか、どういう地域にしていきたいのか、ということをまず考え、まとめるためのフォーマットのようなものだ。大西さんはこう話す。

「たとえば農協から肥料を買うと高くつくという話もよく出てくるが、肥料のコストを下げたいというならまずは『現代農業』を読んでみる。『肥料代を安くする』という特集もある。農家の工夫に学び、提案して試験をし結果を出せばいい。そんな農家の実践をもとに肥料の扱い方を変える農協もある。

 長らく事務方が優秀だったために、農家が考えなくなっているようなところもある。なんで俺らが考えなけりゃならんのよ、農協が考えて持ってこいや…でもそれでは協同組合じゃない。パートナーでなくてはならないのに、資材屋さんと話しているような感じになってしまっていることもある。そこを変えていく。自分たちの想いや課題を自分たちでつかみなおす、そういった活動もポリシーブックのねらいのひとつです。

 戦後の復興、米価闘争、国際化などの時代の変化の中で、青年部活動は盟友が力を合わせ、議論を重ね行動し、日本農業をリードしてきました。最近では地域ごとにどんどん特色を出して行くようになってきて、そんな独自の取り組みを通じて地域の再生、発展に大きく関わっています」

 青年たちの新たな息吹に学び、期待し、「つなぐ」活動をともに広げていきたい、と思う。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2013年4月号
この記事の掲載号
現代農業 2013年4月号

特集:ウネ立て名人になる!
春はみんなで育苗巡回/接ぎ木上手になる!/植えた翌年から稼ぐ/枝物で耕作放棄地を解消/初乳を早くしっかり飲ませる/保温マットの被覆・巻き取り器/産地農家の食卓レシピ 連載100回記念特集/農家が本気で後継者育成 ほか。 [本を詳しく見る]

農協は地域に何ができるか 農協は地域に何ができるか』石田正昭 著

地域社会の発展なくして協同組合の発展はなく協同組合の発展なくして地域の発展もない。資本が地域を見捨てる今日、企業経営と社会的関心のバランスのとれた混合体としての農協の新たな役割を各地の事例もふまえ論述。 [本を詳しく見る]

地域農業の担い手群像 地域農業の担い手群像』田代洋一 著

TPP対応型の政府・財界の構造政策を排し、むら的、農家的共同としての構造変革=集落営農と個別規模拡大経営&両者の連携の諸相を見る。併せて世代交代、新規就農・地域農業支援システムのあり方を提案。
[本を詳しく見る]

復興の息吹き 復興の息吹き』田代洋一 編著 岡田知弘 編著 横山英信 著 冬木勝仁 著 小山良太 著 濱田武士 著 池島祥文 著

大震災、原発災害という極限の最中からの地域の再生は、今後、誰でも、あすは我が身の被災者になりうる日本国民全員の共通課題。東日本大震災・原発事故を人類史的な転換点と捉え、その交点に位置する農漁業復興の息吹を、地域の歴史的営為の連続として描く。震災を巡る国際的視野からの分析もおこない、TPP推進に象徴される誤った国際化路線が、自然災害を社会災害に転化・増幅し、今後予想される大地震等による災厄をより一層危険なものにする可能性があることに警鐘を発する。 [本を詳しく見る]

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