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農文協トップ主張 2014年11月号

『規制改革会議の「農業改革」20氏の意見』にみる
地域の再生、農協改革 今、大切なこと

 目次
◆規制改革会議の「意見」のねらいがどこにあるか
◆水田農業の総合的発展を
◆農地法は持続可能な農村秩序の要
◆農村の「家族」と「仕事」 人口減→衰退論のまちがい
◆農業と医療・福祉・介護が一体となった地域社会を
◆今、地域は農協を頼りにしたい

 9月号の「主張」で紹介した農文協ブックレット『農協の大義』はJAを中心に大きな関心を呼び、たちまち4刷となった。

 農文協ではこれに続くブックレットとして『規制改革会議の「農業改革」20氏の意見』を発行した。執筆いただいたのは、『シリーズ地域の再生』(全21巻・農文協刊)の著者たち。いわゆる「学者」の方々が大半だが、政府の諮問機関である「規制改革会議」や「産業競争力会議」に参加する新自由主義的な「民間議員」とは明確に異なる立場を堅持し、農家・農村、地域の悩みや課題を自らの課題として受け止め、「地域と共同を再生するとはどういうことか」を考え続けている方々である。

『20氏の意見』からいくつか紹介したい。「地域の再生」にむけて、あるいは、JAの「自己改革」議論に、役立てていただければと思う。

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規制改革会議の「意見」のねらいがどこにあるか

 まずは、規制改革会議の「農業改革に関する意見」(以下「意見」)のねらいをどうみるかについて。「意見」は、農協中央会を廃止し、全農は株式会社化する。単協は事業から信用・共済事業をはずして専門農協化を進める。農業委員会は市町村長による選任制度に転換して弾力的な農地転用が可能となる体制にし、農地を所有できる農業生産法人の事業要件を廃止し、役員要件も大幅に緩和し、一般企業の農地所有を行ないやすくする、などというものだが、そのねらいはどこにあるか。

 田代洋一氏(大妻女子大学教授)は、「意見」の農協改革は、農協系統を縦横十文字に切り裂く「農協バラバラ殺人事件」だとしたうえで、こう指摘する。

「その後には農外資本がビジネスチャンスを求めて乱入し、農業の6次産業化の主役にもなっていく。恐らく答申(「意見」)が描く、全国連の株式会社化・系統離脱、単協の職能組合化(経済事業のみを行なう)では単協は成り立たないから、次に来るのは県1農協化だろう」

 この6次産業化をめぐり中島紀一氏(茨城大学名誉教授)は、「(規制改革会議の暴論ももとより問題だが)むしろ産業競争力会議の提言の方こそが問題で、提起されている『農業の産業化』政策の強行推進は日本農業を最終的に破滅に追い込んでいく最悪の政策提起だと受け止めている」として、「1次産業を出発点とする発想の柔軟化」(=「6次産業化における2次産業や3次産業の主導性の確保」)と、「和食」を売りとした「食と農の国際展開に向けた総合戦略の確立」の2つの提言を批判している。

 そもそも6次産業化は、1次産業(農業)を基本に、農業生産のために2次(加工)、3次(販売)を取り込むことだが、財界筋は当然そんなことに興味はない。しかし、1次産業を巻き込むことには魅力を感じている。

「具体的イメージとしてはコンビニなどのオリジナルブランド商品の開発を1次産業も巻き込んで進める、できればCMなどでは1次産業(生産者や産地)の名前を前面に出して売り込みたい、といったことのようなのだ。そこで主に想定されている2次産業、3次産業像は、町の小さな会社ではなく、大都市を主な商圏とする全国展開の大手の会社であるらしいのだ。これがこれからの6次化政策だとするのはあまりにも露骨な換骨奪胎というほかない」

 世界文化遺産になった「和食」も、国内農業の発展に生かそうという発想はさらさらなく、「農産物輸出戦略展開への使いやすい素材としてのみ位置づけている」とし、「農業の産業化」の目玉としている「農産物輸出」のまやかしをこう指摘している。

「すでに提言における主な関心は単なる『農産物輸出』ではなく、日本の企業の海外展開に向けられていることだ。海外で販売される商品は、食の素材としての農畜産物であるよりも、食品メーカーが製造した食品(それをジャパン・ブランドとして押し上げる)であるらしい。それらの食品が販売される主な場面は、まずは日本の大手食品流通資本が海外に作る売り場(スーパーやコンビニ、ネット通販など)であり、また、日本の大手資本が提携する海外の大手小売業の店舗であるらしいのだ」

「これは従来の農産物輸出論とはかなり様相が違っている。とりあえず人気が高い『和食』風を売り物として、コールドチェーン整備等も含めた企業連携の体制を整えることなどを『食と農の国際展開への総合戦略』として急ぎ整備すべきと力説しているのだ。国内での販売がすでに行き詰まっている大手量販店やコンビニ、さらにはネット通販などの海外展開支援に、農政を、そして日本の食文化や農家の生産努力もその一つのパーツとして総動員していくという露骨な意図が明確に読み取れる」

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水田農業の総合的発展を

 このように、今回の「農業改革」には、地域農業を盛り上げようという姿勢が基本的に欠如している。「農業の成長産業化」のために「小農」の排除を進めつつ、結局は企業的農家も含めて農業生産全体を縮小させる。これに対し、村田武氏(愛媛大学客員教授)は「2014国際家族農業年」の意味にふれながら、「日本農業の将来像を語ろう」と、(1)水田農業の総合的発展と農山村の水田里山一体管理、(2)本格的な耕畜連携で土地利用型畜産へ、を提案している。

 (1)についていえば、「田畑輪換を最大限推進し、主食用米の完全自給を確保し、麦・大豆・ホールクロップサイレージ米や飼料米など飼料、雑穀・ソバ、レンゲ、野菜、ナタネ・ヒマワリ・エゴマなどの油糧作物などの生産拡大を本格化すべきである」。これは、「これまでの日米安保体制が強制したアメリカ産穀物の大量輸入に依存した食料供給・農業生産構造を抜本的に転換する以外にない」のであり、TPP路線とは反対の道である。「米の輸出拡大」といった展望のない話に惑わされず、今、農政の重要課題になっている飼料米も含め、しっかり水田の総合利用を前進させたい。

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農地法は持続可能な農村秩序の要

 規制改革会議の「意見」は、農業委員会の公選制の廃止(事実上の農業委員会の解体)と、農業生産法人の事業要件廃止や役員要件の緩和を打ち出した。そこには、農業の担い手を農家から企業に転換すること、さらに企業の農地所有という悲願を実現しようという意図が働いている。すでに農業参入している企業では、農地は「リース制」のほうが経営的に得だというのが常識になっているが、それでも財界の農地所有欲は根強い。前述の財界流六次産業化のなかで農地を自由に使いたいということか、あるいは農地以外への転用を見込んでのことか。さまざまな思惑がからんでいるのだろう。事業要件廃止はその突破口に位置づけられていると見なければならない(「事業要件」を廃止した「農業生産法人」とは、どこが「農業」生産法人なのか!)。

 この農地問題について、楜澤能生氏(早稲田大学教授)はこう指摘する。

「(規制改革会議などの)『農業改革』は、農地制度の視角から見ると、農地所有権を廃止して土地所有権一般にこれを解消しようとするものに他ならない。これは21世紀社会が求められている社会変革に逆行する」

 そもそも、戦後の農地法はどのようにつくられたか。

「農地改革は、他者労働(小作人)の成果を地主が領有する経済秩序を、労働の成果が労働の主体に帰属する経済秩序へと転換させた。この転換に伴い農地法は、旧い経済秩序を支えた地主的土地所有権を廃棄し、新しい農村経済秩序を支える農民的農地所有権を創出した」

 農地は耕すものが所有するという「自作農主義」を明確にしたのが農地法であり、当初、都府県では平均3haの経営規模が上限とされた。それ以上の大面積では自作農ではなくなると考えられたのである。昨今では「4ha以上でないと補助の対象にしない」などと小農切り捨ての話ばかりだが、当時は、面積拡大に歯止めをかけたのである。さすがにその後この上限は撤廃され、農作業常時従事義務に置き換わり(農地耕作者主義)、さらには「集落営農」など農地の地域的利用も進んでいるが、自作農主義やその後の借地による規模拡大経営の進展に対応した農地耕作者主義の精神は今日まで受け継がれている。

 この「経営と労働が一体となっている者にのみ、農地の権利が帰属する」という原理こそ、持続可能な農村秩序と、自然との持続的関係性を支えていると楜澤氏は強調する。

「自然と人間との物質代謝は、自己を疎外することなしに自己の対象化がつねに自己獲得となる活動過程として把握され、自然との持続的関係性が意識的に追求されることになる」

 難解な表現であるが、農家のありようを示したものである。農家は田畑や土、作物に働きかけ、自らの収穫物を得るという労働をとおして、作物や田畑や地域自然に学び、これを持続的に維持していく。この関係性のなかで農地は守られ、引き継がれていく。

 だから、農地を商品一般に対する所有権と同じにしようとする農地法改廃論は、「持続可能な農村秩序の展望を閉ざすもの」なのである。農地法とその精神は「持続可能社会への転換を主導する所有権」として、その価値は今後もますます高まり、大企業を中心とする株式会社に農地所有権を与えようとする昨今の動向に重大な警告を発している。

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農村の「家族」と「仕事」 人口減→衰退論のまちがい

 農村の持続性は農地と家族によって守られてきた。農地と家族の持続が、農村を持続させてきた。

 その農村の家族が高齢化・少子化し、人口減によって地域は危機に瀕している。規制改革会議の「意見」の冒頭もそうだが、改革を叫ぶ論者は枕言葉のように「高齢化・担い手不足」をあげ、そこからなんの脈絡もなく、威勢のいい改革論をぶちあげる。「消滅自治体」(前月号「主張」参照)が話題になっているが、そんな状況に対し、徳野貞雄氏(熊本大学教授)は「人口減少は、本当に悪いことか」と、こう述べる。

「大正・昭和前期の国民(庶民=農民)は、苦しかったし辛かった。バースコントロールの効かない中で、6人から8人の子どもを育てた家族・夫婦はざらにある。子どもを食べさせるため非常に苦労した。その子どもたちを、高度成長期に都市へ引き寄せ、勤勉・低廉な労働力として使ってボロ儲けしたのが日本の大企業である。だから、経済発展には人口成長がいるという理論になる。いま日本の夫婦は、子どもの数を減らしてホッとしている」

 そのうえ、農村の家族は危機に瀕してなどいない。

「『家や集落に若者がいなくなった』と嘆く人は多い。しかし、若者が皆東京や大阪の大都市に移動したのではない。3分の2近くの子どもや孫が近距離のマチや地方都市に居住していて、日々携帯で電話をし合い、車で行き来している。世帯は小さくなったが、家族は空間を越えて機能している。家族と世帯は違うことを認識せよ!

 家族のあり方が変化すれば、集落のあり方も変化している。徒歩で歩いていた時代の集落ではない。ムラとマチの新しい連合を形成した生活圏と生活様式を人びとは形成している」

 そして農村には「仕事」がある。仕事とは、「人間の生存・生活を維持し続けるための労働行為」としたうえで徳野さんはこう述べる。

「都会には給料の高い雇用労働である『職場』は多くあるが、人間が生活・生存し続づけるための『仕事』はほとんどない。田舎は、給料の高い『職場』は少ないが、『仕事はいっぱいある」

 そんな「仕事」や「家族」のありように魅力を感じる若者が増え、「田園回帰」時代(前月号「主張」参照))が始まっている。農村にむかう若者も活かし、「仕事」を豊かにふくらませ、「家族」のつながりも広げていく。

「我々は安心と安全、そして家族や地域社会の再結合などの成熟社会を求めているのであり、20世紀型の経済成長を求めているのは、企業と安倍さんだけである。今こそ、考え方の基本的な枠組みを、人間と生活から見る形に転換することが大切だ」

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農業と医療・福祉・介護が一体となった地域社会を

 この地域の「仕事」について、池上甲一氏(近畿大学教授)はこう記している。

「筆者が調査しているキリマンジャロの村でもそうだが、アフリカでは割合広く観察される『仕事を創り出す社会的仕組み』、すなわち別段なくても困らない仕事をわざわざ創って、それを村のなかで分け合っていく仕組みが参考になる。それは労働生産性偏重の評価基準とは全く別で、地域に人を残し、みんなで生きていくための知恵なのである」

「地域にとって重要なことは、どれだけ人を確保できるのかという仕事の機会創造力である。みんなで仕事を分け合い、その中で家事、育児、介護を含む家庭経済やミッション活動(地域活動、市民活動)にあわせた『自由で弾力的な』働き方を調整する」

「その具体的な方策として、アグロ・メディコ・ポリスは有効だと考えている。アグロ・メディコ・ポリスとは農業と医療・福祉・介護が一体となった地域社会のことである。それはローカルに仕事を創り出し、地域内に経済循環を創り出すという意味でも、暮らしの本拠として重要な基本的側面を整えていくという意味でも大きな可能性を秘めているように思う」

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今、地域は農協を頼りにしたい

 最後に「農協改革」について紹介しよう。

 田代氏は、前述したように、規制改革会議の農協改革の「次に来るのは県1農協化だろう」とし、「このようなことがまかり通ったら、地域はいよいよ衰退する。協同を地域経済の核に据える、地域の自主的集団的管理で農林地を守る、といった対抗軸が求められる」と述べている。

 そして楠本雅弘氏(農山村地域経済研究所長)の提言。

 楠本さんはまず、「社会的協同経営体」に注目する。「社会的協同経営体」とは、「みずから目的を実現するために、出資し、参加し、運営する協同組織」であり、家族農業が中心となった協同活動組織である集落営農も「社会的協同経営体」として進化し続けている。そこで頼りになる、あるいはならなければならないのが農協だ。

「このような新しい状況を踏まえて再構想するならば、合併を操り返して巨大化した農協が、地域住民と共生し、地域の再生・希望の拠りどころとなる方法はあるのだ。それは、地域住民が設立・運営する多様な『社会的協同経営体』に農協も出資して設立を支援し、廃止したり一部遊休化している旧支店・出張所・施設を事業所や作業所として提供したり、運営資金を融資したりして、その活動や事業を全面的に支援することである」

「『社会的協同経営体』による『小さな協同』活動のネットワークのコーディネーター機能を果すことができる『最適候補者』は農協であろう。地域住民の『小さな協同』活動が悩んでいる諸課題、たとえば運営資金の調達、事務所や作業場所の確保やその災害保険、活動人材の確保などの問題を総括的にカバーできる機能をもっているのが農協であることはいうまでもない」

 その事例として紹介している広島県3次農協では「旧村や集落に集落営農法人を設立する支援をし、農協も出資して一構成員となって目標を共有し、一緒に地域再生活動に参加し、集落営農法人ネットワーク事務局を引き受けて『集落営農法人の連合会』としての役割を担っている」

 おわりに、島根県で進む「田園回帰」にむけて活躍している藤山浩氏(島根県中山間地域研究センター・島根県立大連携大学院教授)の意見。

「幸いにして、農業も農協も、本来、多様な事業分野や人びとと柔らかい関係を構築できる本質を宿している。規制改革側と同じ『規模の経済』による効率化路線と同じ土俵に乗るのではなく、地域ごとに異なる自然と暮らしの多角形をつなぐ存在として、幅広い国民、住民と共同を進めることを心から望みたい」

(農文協論説委員会)

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この記事の掲載号
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規制改革会議の「農業改革」 20氏の意見(農文協ブックレット11) 規制改革会議の「農業改革」 20氏の意見(農文協ブックレット11)

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日本社会が直面する課題=“地域と共同の再生"を真っ向から否定し、大資本本位の成長戦略の鋳型に農業・農協をはめ込み利用しようとする政府・規制改革会議の農業改革案を徹底批判。協同組合の大義を明らかにする。 [本を詳しく見る]

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