現代農業 特別号
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2002年特別号 購入する
パート1

味が良ければよく売れる

長野県波田町・太田清晴、房子さん夫妻
松川村・浅野茂さん

●編集部

原題「プルーンは“完熟生”に限る! 自動販売機でつかんだ消費者の気持ち」1999年11月号248〜251頁

邪魔物扱いだったプルーンが自動販売機では売れる

太田清晴さん、房子さん夫妻
太田清晴さん、房子さん夫妻。懐中電灯を持って、あちこちの自動販売機めぐりをした

 太田さんがプルーンを植えたのは、15、6年前に農協にすすめられたのがきっかけ。

 しかし、プルーンの出荷はイチゴのようにパック詰めにするので、けっこう手間がいる。それに出荷時期は九月中旬で、リンゴの中生種と収穫時期が重なってしまう。それで、当初20本あったのをだんだん減らして、今は3本しかない。それも、リンゴ畑の端にあり、太田さんいわく「土手果樹」になっていた。

 そんなときに3年前のプルーンの大暴落にあった。農協にも「今年は穫れすぎたからもってこないで」といわれてしまい、プルーンを収穫しても売り先がなかった。

 そこで、すでに自動販売機でリンゴを売っていた太田さんは「そんなら、自分は自動販売機があるわ」と生のプルーンも置いてみた。

 といっても、それは農協に出していたのとはちょっとちがう、ほとんど完熟に近い品物だった。裂果したものもかまわずにビニール袋に目一杯に12個入れて、400円にした。それまで余った完熟プルーンは家でジャムにしたり、人にあげたりしていたので、奥さんの房子さんは「こんなのが売れるのかな」と半信半疑だった。

 ところが自動販売機に行ってみて、ビックリ。前日の夜に入れ替えたのが、翌朝にはなくなっていたのだ。毎晩入れても間に合わない。日によっては、2、3回も入れ替えに行くときもあり、「落ち着いて晩酌もできない」ほどになってしまった。

 お釣が戻ってくる機種ではないので、400円ちょうどを持ちあわせていなかった人が、「家にお金を取りに行っている間に売り切れてしまった。何とかなりませんか」という電話をかけてきたり、「何時頃来るの?」と中身を入れ替えに行く前から待っている人もいる。

自動販売機は気が抜けない?

太田さんの自動販売機
リンゴ「千秋」が並んだ太田さんの自動販売機。9月中旬からプルーンが並ぶ
プルーン
8月下旬から9月上旬にかけてが食べ頃のプルーン、「パープルアイ」。完熟すると、甘味が増し、果肉が黄金色になる。食べてるそばから果汁がしたたってくる、みずみずしいおいしさ

 太田さんはもともと自分でものを売ることに興味があった。そこで目をつけたのが、卵が売られている自動販売機だった。「あそこに自動販売機がある」と聞けば、仕事を終えて、夜、懐中電灯を持って出向き、どこのメーカーか調べてメモした。

 機械の大きさ、値段、お釣が返ってくる、とか、冷蔵庫付き、などの機能の確認をしたり、一つ一つの箱の大きさをチェックした。そうした中で山本製作所の「あさいちくん」という機種を選んだ。1台29万8000円。換気扇がついているのだが、太田さんは果物ならまず毎日入れ替えをするので、電源は入れていない。

 場所は、ちょうど親戚の土地に、左右を電柱に挟まれたスペースがあったので、そこに置かせてもらった。国道一九号線より20mばかり奥まった、住宅地の中だ。

 買う人は付近の住民だけかと思っていたが、そうでもない。国道の抜け道に面しているので、けっこう車も通る。松本での勤めの帰りに寄る人や、近隣の町村の人もいたのは意外だった。

 太田さんの家から車で15分ぐらいのところだが、入れ替えに行って帰ってくるのに一時間は必要だ。「家に近いにこしたことはない」と思う太田さんにとって、この時間はちょっと負担だった。

 ときには「お金を入れてもドアが開かない」という苦情の電話もあって、相手の家に届けに行くこともある。

 「1日で落ちた信用を回復するには10日ぐらいかかる」と気は抜けない。

 でも、ほとんどが定期的に買ってくれる人だ。「ちょっと傷がついたぐらいで、こんなにおいしいリンゴが、近所で安く買えるなんて」といってくれる。

 お店で売られているものは、たいてい実が完熟しないまま穫って出荷することが多いので、自動販売機では樹で完熟したプルーンを置いてみた。今ではプルーンは自動販売機で全部売れてしまう。プルーンはプルーンでも、“完熟生”であれば売れることを、太田さんは自動販売機で知ったのだ。

生果のおいしさに「これはプルーンじゃない!」

サンプルーン
太田さんの「サンプルーン」。もうすぐ自動販売機に並ぶ

 もう一人、自販機で樹で完熟させた生果をウリにしている人がいる。やはり長野県の松川村で、リンゴのほかにプルーンを雨除け栽培している、浅野茂さんだ。

 ふつう、プルーンといって目にするのは、乾燥した干し果実やエキスなど、加工品が中心だ。しかし、ここへ来れば完熟のおいしいプルーンが食べられる。

 一度完熟の生果を食べた人は、「プルーンだけど、こんなのプルーンじゃないよ」と驚くらしい。完熟のおいしさに目覚めてしまったのだ。浅野さんのプルーンは、民宿などに1kg1000円で卸しているが、「それだけじゃなくて、東京の人が3、4回と足を運んで買ってくよ」というから、完熟生果の魅力はすごい。

 浅野さんのところには、今、「プルーンで最高の品種」と噂されている「ベイラー」がある。ベイラーはその甘みの強さとみずみずしさで、高い評価を得ているのだが、栽培している浅野さんにいわせると「裂果しやすく、ハイホシ病にかかりやすい」。おまけに「日持ちが悪く、10日使えればいいほう」と市場向きではない。それに実が樹の上で熟す4、5日前の固いうちにとる。

 だから、おいしいプルーンは、なかなか市場に出回りにくい。おまけに、プルーンは冷蔵庫に入れると、とたんに食味がおちてしまい、保存がきかないので、ますますおいしいプルーンは手に入りにくい。

自動販売機は消費者の流れを知るバロメーター

 さて、太田さんが自動販売機を始めてみておもしろいと思ったのが、同じ数を入れたリンゴでも300円と400円があると、なぜか400円の方から売れてゆくことだ。

 「不景気っていうけど、消費者は確実なものなら買う時代なんだね。消費者の気持ちとか、流れが分かるから、その授業料と思えば、まあ、自動販売機の値段も安いもんだよ」と笑う。太田さんにとって自動販売機は、消費者の傾向を知るバロメーターなのだ。

 他に、庭木にすぎなかったクリも、自動販売機では人気商品になった。太田さんが近所の仲間ととりくんでいる、わい性のモモも「甘くておいしい」と大好評だ。最盛期には1日3回も入れ替えに行く。

 この反応に「これはいける」と苗木を増やしているところだ。プルーンのほうもベイラーの噂を聞いて、今年、苗木を六本植えてみた。自動販売機の反応はいろいろな果樹に挑戦する自信になる。

 「もっと若ければ、果物屋をやるのが夢なんだけど、いずれはいろんな果樹のある観光果樹園にしてゆきたいんだよね」という夢に、ちょっと近づきそうだ。

▼その後の様子

「自動販売機についている換気扇を回してみたら、ちょっと温度が下がって果物、とくにモモの日持ちがよくなりました。これで鮮度のいいものを売ることができます」と太田清晴さん。「リンゴ、プルーンのほかに、ジャムやジュース、米も売っています」という浅野茂さん。いまも自動販売機がおおいに活躍している。



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