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連載「わくわく新世界探訪 第9回」より
薬草王国ボルネオ島(その2)
男女の営みに効く秘薬白石正之
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大型リスの「アンキス」。乾燥ペニスが強精の秘薬となる。右手に持っているのは食用にするイタチの仲間
インドネシアのボルネオ島奥地では、さまざまな薬草を活かした農業が、今も息づいている。20年にわたって425種の植物を調べてきた白石さんに、9月号では植物を燻した煙で作物を病害虫から守ったり、ミツバチを誘引したりする話を紹介してもらった。今号では男女の営みに効く秘薬を紹介してもらった――。
出会いに役立つ惚れ薬
中央ボルネオ州の僻地には、今でも通い婚が残っている村が2カ所あります。通い婚とは、男性が女性のもとへ通う婚姻の形態で、妻問婚ともいいます。魅力的な女性の家にはたくさんの男性が通い、女性の家の仕事を手助けします。仮に男性たちが鉢合わせしても、先にいる人を優先するのでいざこざはなく、生まれた子供は母親の家で育てられます。小さな村における近親婚の弊害を避ける方法でもあると、古老は説きます。
その男女の出会いに役立っているのが惚れ薬です。インドネシアには多くの惚れ薬がありますが、ボルネオ島の惚れ薬は特に有名です。原料の多くは芳香のある植物で、例えばフトモモ科のメラレウカの葉(タボヤン語ではシントック・マデュ)や、ショウガ科のハナミョウガの仲間の花(トプス・マイス)などです。これらを油に漬けて、その精油をつけると男女ともに顔色が冴えて、目の輝きが増し、より魅力的になるそうです。
子だくさんの村に伝わる強精薬
子だくさんは家の繁栄を支えるとして、男女の強精薬はそれぞれの家の秘伝薬として伝えられてきました。
ボルネオ島奥地の村に伝わる強精薬草(一部)
女性 男性 現地名 学名(植物分類) 使用部位 妊娠促進 膣が縮小 膣が名器化 官能的になる 疲れ知らず 体が火照る 潮を吹く 気持ちよくなる 勃起する 男性器が硬く 男性器が大きく 男性器が長く 持続力向上 早く甦る インポが治る Bulayung Lpomoea(ヒルガオ科) 根 ● ● ● Keloto Bolak Alyxia
(キョウチクトウ科)根 ● ● Ketungen Durio
(アオイ科ドリアン属)根 ● ● ● ● Gasing Ficus variegata
(クワ科)根や葉 ● ● ● ● Lumpotong Dysoxylum alliaceum(センダン科) 根 ● ● ● ● Lempang momordica(ウリ科) 根 ● ● Rataag sidong Calamus(ショウブ科) 根や果 ● ● ● ● Onken Opes Flemingia strobilitera(マメ亜科) 根や葉 ● ● ● Saan-Kayu Gingeng Celtis(ニレ科) 根 ● ● ● ● ● Saruwang Beroug Luvunga eleutherandra
(ミカン科)根 ● ● ● Tuora Durio
(アオイ科ドリアン属)果肉 ● ● ●子供17人を授けた秘薬「リスのペニス」
小生が出会った一番の子だくさんは、17人の子を持つ野草医の奥さんです。10代前半に結婚して、17人目は60歳近くになってから産んだそうです。その夫の秘薬をお土産にもらいました。それは木登りリスのペニスを乾燥したもので、爪楊枝の半分程度の乾物でした。これをコップ半分の水に2〜3時間漬けて飲むそうです。
●望むままに勃起状態が続く「川ヒルの熟成」
インドネシアで一番有名な男性の強精薬は、ジャングルの川に棲むヒルで、大きいのは30cmくらいあります。その川ヒルをココヤシの油に漬けて、土中に埋めて熟成させてから男性器に直接塗布します。すると、その力を望むように維持し続けることができるとのこと。噂を伝え聞いたアラブの金持ちが村までやってきたそうです。町の市場にはその偽物が出回っていますが、それらは水田のヒルを使っているため臭く、女性に嫌われるそうです。
●すぐに体が火照ってくる「野生のドリアン」
野生果実の中のナンバーワンは、野生のドリアンの仲間。臭みがなくトゲが5〜8cmと長いクトゲン(白い果肉)やトゥオラ(真紅の果肉)です。脂肪分が多く、食べるとすぐに体が火照り、男女ともに元気になります。血行があまりに強く促進されるので、血圧が高い人や心臓病の人には厳禁です。
また、木を伐採する人たちは、大木に寄生するある種の寄生木やランがなによりの強精薬だといい、見つけるとそのまま生で食べます。
●薬草料理の「ウンタラン」や「ルジャック」
表にあるような薬草は一般的に、乾燥して粉にするか、生のまま潰して熟したバナナの果肉に混ぜて団子のように丸めて「ウンタラン」として食べます。
また、多くの女性たちが集う茶飲み会でよく食べられる強精薬料理は、薬効のある果実の未熟果と果菜を刻んでヤシ糖蜜をかけたサラダ「ルジャック」。渋みと苦みがありますが、女性器を潤す食べ物として好まれています。
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ワニのペニス(および睾丸)も効く。水に漬けて飲むと、男性の性器を大きくする。水が臭ってきたら、一度乾かして、また新しい水に漬ける
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ジャングルの川に生息するヒルを用いた強精薬は、はるばるアラブから買い求めにくるほどの効果
産後の肥立ちや母乳の出もよくなる
村では、子供たちや祖父母がいる場でも、性について語られます。性教育におおらかな土地柄で驚きます。惚れ薬も強精薬も、先祖伝来の秘薬の効能を信じているからこそ効果があるのでしょう。
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筆者も大好きなドリアンの野生種、果肉が赤い「トゥオラ」。食べ過ぎると汗がダラダラ、体の末端まで血行がよくなり、一晩眠れなくなる
また古老たちは、強精薬草は性についてだけではなく、健康面での効果も見直すべきだと強調しています。薬草の適切な使用が妊娠時の健康維持に役立ち、出産を軽くし、産後の健康回復や健康維持、子育て中の母乳の出をよくし、子供の発育にも役立つのです。
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焼き畑に生育する「ルンペン」。トカドヘチマに似ていて、果実の長さ5〜6cm、径1.5〜2cmのミニ野菜。女性ホルモンの分泌が盛んになるそうで、村の婦人曰く「これを食べると旦那が浮気しなくなる」
子だくさんの幸せについて、9人の子を育てた老女が「折々に子や孫たちが遠くから集まってくれる。家族全員が広間で話し合う様子を目にすると、家族の行く末を見守りたい、長生きしたい意欲が湧いてくる」と話してくれたことが、心に残っています。
(埼玉県坂戸市)
この記事の掲載号『現代農業 2017年11月号』巻頭特集:洗うをラクにおもしろく/稲作 みんなで活用! 色彩選別機/野菜 秋の病気は換気と暖房で抑える/果樹 石灰で、味と色がよくなる強くなる/特産 売れるマイタケホダ木のつくり方/畜産 宮城全共レポート/くらし・経営 牛乳でモーッと元気に/田中式無摘果ミカンのつくり ほか。[本を詳しく見る]
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