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手作り紅茶は意外に簡単
「感動体験」にもぴったり

滋賀県甲賀市・藤田照治さん

焙炉で作った「べにふうき」紅茶。まろやかな甘みとほのかな渋味(写真はすべて田中康弘撮影)

焙炉で作った「べにふうき」紅茶。まろやかな甘みとほのかな渋味(写真はすべて田中康弘撮影)

藤田照治さん(76歳)。べにふうき10aのほか、やぶきたを70a、在来種を6aつくる

藤田照治さん(76歳)。べにふうき10aのほか、やぶきたを70a、在来種を6aつくる

10aのべにふうき園。藤田さんの茶の直売所の前にある。左側が立ち木風の自然仕立ての株。右側は機械摘みの株(更新のため中切りしてある)

10aのべにふうき園。藤田さんの茶の直売所の前にある。左側が立ち木風の自然仕立ての株。右側は機械摘みの株(更新のため中切りしてある)

 先月12月号で信楽焼きの焙炉を使った手作り紅茶を紹介してくれた藤田照治さんの家に、改めてお邪魔してみた。焙炉での紅茶作りと、もう一つ最近開発したというミキサーでの簡単紅茶作りも、実際に見せてもらった(ミキサー紅茶はカラー口絵で紹介)。

近畿初の「べにふうき」

「お茶をもっと身近に感じてほしいんや。なんなら生の野菜くらいにな」 

 信楽町は日本最古の歴史をもつといわれる「朝宮茶」の産地。藤田さんは農業大学校の校長を退任後の2002年、多くの人に朝宮茶や日本茶について知ってほしいと仲間の茶農家や陶芸作家、茶道家と一緒に「朝宮茶知ろうと研究会」を発足させた。今では県内外多くの消費者(素人さん)も参加している研究会だ。

 信楽町は狸の焼き物で有名な信楽焼きの産地でもある。1年目は信楽焼きの陶器展やおいしい緑茶の入れ方講座などを開いてみたが、緑茶の消費は思うように伸びない。「紅茶にしたほうが人気が出るのとちゃうか」と思った藤田さん。育てていたやぶきたや在来種を発酵させ、紅茶にして振る舞ったら好評だった。

 だんだん紅茶用の品種も栽培してみたくなってきた藤田さん、2003年、鹿児島から「べにふうき」の苗木を取り寄せて植えてみた。近畿地方で初のべにふうき栽培で注目され、イベントを開くとお客さんもたくさん来た。

信楽焼きの焙炉で簡単紅茶

 ある日、研究会で信楽焼きから出る遠赤外線が製茶にいいのでは? と話題になった。「魚も肉も炭火で焼くと味が全然ちゃう。中まで熱が通って、茶もおいしくなるはずや。信楽焼きで家庭用の焙炉を作ってみようか」

 焙炉とは製茶道具の一つで、茶葉を乾かしながら揉むときに使う。本来は木枠に和紙が張ってあり、上に茶葉を広げ、火鉢にかざしてじんわり温めながら手揉みする。これを信楽焼きの皿で作ってみると、火鉢の代わりに直接コンロの火にかけられるものが完成した。

 これ1枚で、紅茶も緑茶もウーロン茶も焙じ茶も釜炒り茶も揉めるが、一番簡単なのは発酵茶の紅茶だった。焙炉をサッと温め、茶葉を揉みこんでいくと、みるみるうちに緑が濃くなる。「15分もしたら色が変わってきて、これはいける!と思うたわ」

手摘み・手作りの紅茶で感動体験

「これなら、お客さんに茶摘みしてもらって、その場ですぐ紅茶にできるんとちゃうか」

 藤田さん、園の前に作業小屋を建てて、手作り紅茶教室を開くことにした。お茶を感じてもらうには自分で摘んだ葉をおいしく飲んでもらう感動体験が一番だ。「おいしいってのは忘れんでしょ。自分で一から作ったらなおさらやね」

 焙炉での作り方は右ページの通り。

 焙炉紅茶も、カラー口絵で紹介したミキサー紅茶も、本来の紅茶作りに必要とされる萎凋作業を省いているので、「本格的な紅茶ではない」といわれることもあるが、藤田さんはまずは気軽な手作り体験で入口を広げることを大切に考えている。

信楽焼きの焙炉で簡単紅茶作り

藤田園で働く地藤久美子さんにやっていただいた

藤田園で働く地藤久美子さんにやっていただいた

コンロに置いた焙炉を火にかけて温める。火を止め、じんわりと温かい25〜30℃になった焙炉に水洗いした100gのべにふうきをのせる

コンロに置いた焙炉を火にかけて温める。火を止め、じんわりと温かい25〜30℃になった焙炉に水洗いした100gのべにふうきをのせる

両手で茶葉をちぎってからつぶすように揉み続ける。焙炉の表面はざらついていて、擦り付けると簡単に細かくなる。葉中のカテキンと酸化酵素がくっついて褐色化。作業中に焙炉が冷めてきたら、コンロの火で酵素が働きやすい温度に細かく調整する

両手で茶葉をちぎってからつぶすように揉み続ける。焙炉の表面はざらついていて、擦り付けると簡単に細かくなる。葉中のカテキンと酸化酵素がくっついて褐色化。作業中に焙炉が冷めてきたら、コンロの火で酵素が働きやすい温度に細かく調整する

15分揉み続けると、水分が飛んでしんなり。葉色も濃くなって茶色がかった色味に。残った葉脈は取り除く

15分揉み続けると、水分が飛んでしんなり。葉色も濃くなって茶色がかった色味に。残った葉脈は取り除く

蓋をして1時間発酵させる。ここでも焙炉が冷めないように細かく調整する。発酵ムラをなくすために1、2回茶葉を切り返す

蓋をして1時間発酵させる。ここでも焙炉が冷めないように細かく調整する。発酵ムラをなくすために1、2回茶葉を切り返す

蓋を開けると茶葉が褐色に変わっていた。強火2〜3分で80℃以上にして、酵素を失活させる。熱い焙炉に触れないよう、茶葉を両手で掬い上げながら揉んで水分をとばす。30分後、茶葉がパチンと砕けたら出来上がり

蓋を開けると茶葉が褐色に変わっていた。強火2〜3分で80℃以上にして、酵素を失活させる。熱い焙炉に触れないよう、茶葉を両手で掬い上げながら揉んで水分をとばす。30分後、茶葉がパチンと砕けたら出来上がり

一般的な紅茶の作り方
( )内は工程にかかる時間

萎凋 (8〜15時間)日陰でじっくり乾燥。香気が失われるのを防ぐ

揉捻 (1時間)茶葉を揉む。葉の中の酸化酵素とカテキンが出会う

発酵 (1〜4時間)温度25〜30℃、湿度90%で酸化酵素が最も活性化

乾燥 80℃以上の熱で酵素を失活させる

*緑茶は最初に生葉を蒸して酵素を失活させてから揉捻→乾燥

焙炉紅茶、ミキサー紅茶とも萎凋を省いている。焙炉紅茶は揉捻15分、発酵1時間。ミキサー紅茶はミキサー内で一気に揉捻・発酵させる考え方

季節で味が違う世界で一つの紅茶

 手作り紅茶体験のお客さんが増えてきたので、藤田さんは一部のべにふうきを仕立て直した。普通のかまぼこ型樹形だった株を1本置きに抜いて、残った株を立ち木風の自然仕立てにしたのだ。伸びた枝にはきれいな花が多くつくようになり、お客さんにも好評だ。

 一番のねらいは整枝の時期をずらして、いつでも茶摘みと紅茶作りが体験できる茶園にすることだった。斜面一番上の列は、春に新芽を摘むために2月に整枝。2段目は5月に整枝して夏に茶摘み。秋摘みは夏に整枝する。

 茶葉は太陽をしっかり浴びるとカテキン含量が増えて風味豊かな紅茶になる。春の新芽はまだカテキンが少ないが、味がおとなしくて飲みやすい。夏は日の光をたっぷり浴びた1芯3葉を使うと、すっきりとした渋味をもつ。秋は夏に日を浴びた3葉4葉だけを使う。硬葉になっていて水分が少ないので、萎凋せずとも香り高い紅茶ができる。

「自分の好みの味にできるのも、毎回違う味になるのも面白い。世界で一つの自分だけの紅茶や。市販の紅茶とは色も風味もまったく違う。ほのぼのとまろやかで、生きた味がするのや」

*信楽焼きの焙炉は4400円、生葉は300g500円(ともに税込・送料別)。
(藤田園)

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現代農業 2018年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年1月号

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