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農文協のトップ月刊 現代農業2018年2月号>今年は直売所で、どんな花を売ろうかな

「今年は直売所で、どんな花を売ろうかな」コーナーより

洋風ハボタンに注目だ

静岡県静岡市・大村健次郎さん

 冬、寒さで花が少なくなる直売所で切り花ハボタンはよく売れる。好評連載中の峠田等さん(140ページ)も年末の直売所に紅白を揃えて出して、冬のボーナスを稼いでいる(2017年9月号172ページ)。ハボタンは直売所で人気のようだ。

大村健次郎さん(69歳)。左側の2ウネは「ブラックリーフ」、右側は「ファーストレディ」。お茶とカンキツの農家。6年前からハボタンと花木の栽培もはじめた

大村健次郎さん(69歳)。左側の2ウネは「ブラックリーフ」、右側は「ファーストレディ」。お茶とカンキツの農家。6年前からハボタンと花木の栽培もはじめた

 そんな日本のお正月には欠かせないハボタンが、最近はクリスマスやウェディングでも使われるようになってきているという。新顔の洋風品種がぞくぞく登場。直売所のハボタンも少しずつ変わってきそうだ。

世界が驚く日本のハボタン品種

 アブラナ科のハボタンはヨーロッパ原産。キャベツと同様にケールから分化したもので、江戸時代に渡来してから独自の品種改良が重ねられてきた。

 葉っぱが丸い「東京丸葉系」は江戸時代から育成が始まった一番古い系統。お正月といったらこのハボタンで、栽培もしやすい。

 葉が細かくちぢれた「名古屋ちりめん系」は明治中期に名古屋で改良されたもの。ケールと交配したことで、細かくちぢれた葉が特徴だ。

 東京丸葉と名古屋ちりめんを交配したのが「大阪丸葉系」。葉のふちがゆるやかに波うつ。葉に深い切れ込みが入り、サンゴのような「切れ葉系」や、芽キャベツと交配した系統もある。原産のヨーロッパも驚く、世界屈指の多様な系統が日本にはある。

 葉の変化もさることながら、花壇用の大きな「わい性種」と、茎が伸長し切り花用にもなる「高性種」という分類もある。近年は花壇苗でもコンパクトなものが求められ、玉の小さい高性種にわい化剤をかけてつくったポット苗も多い。

 そこへ最近増えてきたのが、お正月以外にも活躍する洋風ハボタン。洋風といっても、これまで日本で改良されてきた既存の高性種を掛け合わせた品種で、れっきとした日本生まれ。中にはさらにケールと交配して、ちぢれを強くしたものもある。珍しい色や葉の縁がフリル状でふわふわと華やかなものなど、パッと目を惹くものが多いのが特徴だ。

「エレガンス」を使ったリングバスケット。赤紫色のハボタンがバラのように見える。水やりをすれば、冬の間ずっと楽しめる。洋風ハボタンは「日持ちのいいバラ」として使われることも多くなってきた(石井育種場提供)

「エレガンス」を使ったリングバスケット。赤紫色のハボタンがバラのように見える。水やりをすれば、冬の間ずっと楽しめる。洋風ハボタンは「日持ちのいいバラ」として使われることも多くなってきた(石井育種場提供)

洋風ハボタン5品種

 新しい華やかな見た目と、本来の日持ちのよさが強味。洋風ハボタンは直売所でこれからきっと大人気品種になる!

 そう考えたので11月、静岡市で洋風ハボタン品種を育てる大村健次郎さんの圃場にお邪魔した。大村さんは直売所ねらいではないのだが、新顔ハボタンを数多くつくってきた人だ。

 今育てているのは5品種。ファーストレディ、ブラックエンジェル、エレガンス(石井育種場)、グリフィーユ(カネコ種苗)、ブラックリーフ(ミヨシ)。つくってみての感想を聞いた。

黒い葉のブラックエンジェル
 華やかなファーストレディ

「ブラックエンジェル」。タネの生産体制が整うまでは限定販売(エレガンスも同様)(石井育種場提供、下も)

「ブラックエンジェル」。タネの生産体制が整うまでは限定販売(エレガンスも同様)(石井育種場提供、下も)

「2016年に初めてつくったからまだよくわかんねえけどな」と言いながらも、大村さん、ブラックエンジェルはつくりやすい品種だという。縁がウェーブがかった黒い葉で、ハボタン栽培で問題になる「色戻り」が起きにくいと感じている。

 ハボタンの中心部は寒さにあたると色づきはじめるが、いったん色づいたあとに再び気温が上がると、緑色にもどってしまう。

「せっかくきれいに色づいたと思っても、ぽつぽつ緑が入ると汚くなるんだよな。最近は寒くなったり暑くなったりが激しいから、困っちゃうよ」

 ブラックエンジェルは茎も真っ直ぐ伸びるのでイチ押しの品種だ。

 ファーストレディは着色部がきれいな濃赤色。葉が薄く、柔らかいので強風で倒れやすいが、葉枚数が多いので華やかなハボタンだ。華やかだと大村さんもつくるのが楽しい。

クリスマスに人気のブラックリーフ

「ファーストレディ」

「ファーストレディ」

 葉が厚く、茎が硬いため倒伏しにくいブラックリーフ。クリスマス用に需要がある品種だ。厚みのある葉は一枚一枚ばらしてアレンジにも使える。市場の人気も高いそうだ。

 葉が横に開きやすいので、生育の揃いが悪いと丈の低い株に光が当たらず、ますます差が出てしまう。前作は生育が揃わなかった大村さんだが、今作は疎植にしたり、生育の悪い株に液肥を与えたりしたところ、揃いがよくなった。ただ、肥料が効きすぎると緑が強くなるぶん色のりが悪くなるため、色づきはじめた10月以降は無肥料で管理。

 ただ丈が低い株も、生育のいい株を先に収穫して、光が当たるようになればまた育つ。昨年度も正月需要が落ち着いた1月末にも高値で売れたという。

育てにくいが、絶対つくりたいグリフィーユ

「ブラックリーフ」。ふわっと横に広がる緩いフリルが特徴((株)ミヨシ提供)

「ブラックリーフ」。ふわっと横に広がる緩いフリルが特徴((株)ミヨシ提供)

 大村さんにとって一番悩ましいのがグリフィーユ。細かく波打つ葉はふわふわで、中心部は真っ白になる。繊細な印象の品種で結婚式にもよく使用されているそうだ。背丈もあまり伸びないコンパクトなハボタン。しかし大村さんは、4年間栽培しても満足できるものはまだつくれていない、という。

 発芽率も6割と揃いが悪いし、色戻りしやすい。寒さにも弱いため、霜に当たると葉先が茶色く焼けてしまう。霜が強くなってくる11月以降は寒冷紗をかけて、せっかくの白を汚さないように、と気を使う品種だ。

 でも、つくるのはやめられない。つくったら必ず売れ、市場人気が非常に高い。

「この冬は水はけが悪いところに植えて大失敗したよ。でもまた次もつくると思うなあ」

安定のエレガンス

2017年11月2日に大村さんの畑で撮影した「グリフィーユ」。緑がきれいで葉物としても人気

2017年11月2日に大村さんの畑で撮影した「グリフィーユ」。緑がきれいで葉物としても人気

 丸葉系のエレガンスは一番安定した品種。発芽率もよく、茎も真っ直ぐ伸びるのでつくりやすい。今までの丸葉系は外側の葉が緑だったが、エレガンスは紫色に着色して、落ち着いた色のハボタンだ。

 市場での人気は他の品種に比べるともう少しらしいが、タネ代が安いのもいい。大村さんが、6年間ずっとつくり続けている品種で一番信頼している。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2018年2月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年2月号

彩り品種で元気に長生き/遅出し・早出し品種で売り場独占/オクラで一稼ぎ/直売所で、どんな花を売ろう/夏秋トマトの最新品種動向/シャインマスカットの次は ほか。 [本を詳しく見る]

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