業務用品種で、地域の農地を守る【ムギ・ダイズ編】
日本初のデュラム小麦
セトデュールでブランドパスタ兵庫・芦原安男
農事組合法人八幡営農組合では水稲40haムギ42haダイズ35haソバ18haと野菜5haを栽培しながら、6次産業化に積極的に取り組んでいる。弁当や惣菜に加え、白大豆は豆腐に、黒大豆は黒豆茶等に加工して販売。自営の食堂「風雅亭」では、組合で乾燥調製し、石臼で挽いたそばなどが人気である。
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セトデュールで作ったパスタ。宗佐厄神八幡神社(加古川市)にちなみ「八幡厄神パスタ」として販売。平成29年度には「加古川パスタ」の商標も登録。今後は加古川ブランドとしても販売を広げていく予定。パスタに合うこだわりのソースも販売している
デュラム小麦との出会い
平成23年、友人の紹介で、日本製粉(株)基礎技術研究所の所員と会った。デュラム小麦の試験栽培を頼める営農組合を探しているという。
パスタの原料となるデュラム小麦は生育期間が長く、湿害・赤かび病に弱い性質を持つ。出穂期が梅雨に当たる日本での栽培には適していないため、日本での栽培技術がないとのこと。
今回のデュラム小麦は農研機構西日本農業研究センターが育種した品種で、栽培適地として降水量の少ない瀬戸内海地方が挙げられるという。
彼の熱心な話しぶりに動かされ、八幡営農組合を挙げてこの取り組みに協力することに決めたのだった。
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筆者(72歳)。642戸、耕作面積117haからなる八幡営農組合の代表を務める
湿害と赤かび病に注意
組合では、数年間の試験栽培期間を経て、平成28年度からデュラム小麦を本格的に栽培するようになった。その前年、平成27年にはこの小麦が「セトデュール」として品種登録された。
セトデュールの播種時期は10月25日〜11月10日(表)。栽培のポイントは、倒伏に気を付けながら追肥を3回タイミングよく振ること。特に実肥はパスタ加工に重要なタンパク質含量を大きく左右するので、相当量を与える。赤かび病防除は2〜3回。天候などに気を配りながら実施する。
八幡営農組合のセトデュールの栽培暦
時期 作業内容 10月下旬〜 11月上旬 播種。同時に緩効性肥料 (チッソ6kg/10a)を施用 12月〜1月 2回の麦踏み 1月上旬〜 3月上旬 追肥(チッソ5kg/10a)を 2回施用 4月下旬 実肥(チッソ6kg/10a)を 施用 穂揃い期〜 開花期 病害虫防除 (2〜3回、主に赤かび病対策) 6月中旬 水分量30%以下で収穫 梅雨が本格化する前の6月中旬に収穫する。条件がよければ収量は10a当たり約400kg。千粒重が大きくなることもあってか、普通品種(約330kg)よりよくとれる。昨季は作付け面積約11haで36tほどを収穫した。
日本初純国産パスタを販売
小麦は日本製粉(株)に全量出荷しており、挽かれてできた「セモリナ粉」はオーマイ(株)加古川工場にてパスタに加工される。イタリアではデュラム小麦を使ったパスタだけを「パスタ」と呼ぶそうだが、セトデュールを使ったパスタはまさに「本物のパスタ」だと思う。黄色い胚乳の色が鮮やかに表れ、麺の層もしっかりと分かれて、冷めてもモチモチした食感が持続する。
「八幡厄神パスタ」と命名し、平成28年10月からJAの直売所「ふぁ〜みんSHOP」で試験販売したところ、大反響を呼んだ。加古川商工会議所でも試食していただき、市内の老舗ホテルのシェフから「コシとモチモチした食感がいい」との評価も得て「もっと欲しい」とも言われた。
農地を守っていくことは組合の使命だが、大きな需要があるセトデュールなら大面積に作付けできる。八幡営農組合では3年後に小麦100tの生産、パスタ販売6tを目標としている。これに向け、今季の作付け面積は約25haと、昨季の約2倍に増やした。日本製粉(株)からの要望は1ロット100t。計1000〜2000tを目指しているとのこと。したがって現在セトデュールを生産する仲間を募集している。
(兵庫県加古川市)
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