月刊 現代農業
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「イネの密播・密植 育苗・田植えをラクに」コーナーより

苗箱半減 田植えラクラク 妻も大喜び
密苗で夫婦の会話も密になりました

巻頭写真

イネの密苗は本格始動2年目。
直売所や業務用野菜は、
お客さんの使い勝手に合わせて、
株間・条間、自由自在。
ハウスの環境制御は、
光や炭酸ガスをうまく補い、
茎本数をもっと増やす――

(依田賢吾撮影、以下も)

(依田賢吾撮影、以下も)

筆者(45歳)と妻。全40haを密苗にして、田植えがホントにラクになった

苗が細く、根張りも悪い……

 2008年に千葉から地元の福島に戻り、本格的に稲作に取り組むようになりました。当時の作付面積は約13haでしたが、2017年には約40haまで増えました。

 毎年、2〜3haの面積増加に対応するため、育苗ハウスや苗箱、育苗器などの資材を増やしたり、大型の田植え機やコンバインを導入。当然、生産コストも増えていきました。

 コスト削減が経営面での大きなテーマとなり、鉄コーティング湛水直播や乾田直播などへの移行も考えていたなか、ヤンマーの密苗と出合いました。これまでのやり方を大きく変更することなく、育苗や田植えのコスト・労力を削減できることに魅力を感じました。

 2016年、まずは30aでコシヒカリを試験栽培し、300g播き(催芽モミ、以下も)の苗を24枚つくりました。これまでの130g播きの苗と比べると細くて、かなり見劣りしました。根張りが悪いため、マット形成が不十分だったのかもしれません。田植えをしてみると、少し水が多かったせいもあってか浮き苗も多く、かなり不安になりました。

 しかし1往復しても、2往復しても苗継ぎなし。これまで1往復ごとに苗継ぎしていた30a区画(100×30m)の圃場を、苗継ぎなしに一気に田植えできてしまいました。これには驚き、大きな魅力を感じました。

健苗ローラーで苗踏み。1葉期にかけると葉が倒れてすぐには起き上がらない。でも、大丈夫

リン酸資材の苗上手ブレーキB(ミズホ)。育苗初期に200倍に薄めてかん水し、根張り優先の生育に(168ページ)

40haで6000枚が3000枚に!

 2017年、ひとめぼれ25ha、コシヒカリ15?haの全面積を密苗に切り替えることを決断。不安もありましたが、一番の理由は労力の削減です。もともと、コシヒカリで坪42株の疎植栽培、10a当たりの箱数は12枚(ひとめぼれは坪50株、15枚)だったので、3分の1の箱数までにはならないですが、それでも350g播きとすればコシヒカリが6枚、ひとめぼれが8枚と、半分にまで減らすことができます。6000枚必要な苗が3000枚で済み、タネ播きにかかる労力も半分になるし、床土や覆土も半分で30万円のコストダウン、苗箱も追加購入しなくてよい。すばらしい! と思いました。

 正直、苗が徒長して減収するかもしれないというリスクはあまり考えず、とにかく春作業を省力化するために決断。これにはヤンマーの支店長さんも「えっ! 全部ですか?」と目を丸くしていたのを覚えています。

苗を過保護にするな!

 苗の管理はずっと母親がしてきましたが、2017年は私がすることにしました。ヤンマーの三瓶民哉師匠(76、168ページ)も何度も足を運んでくれて、いろんなアドバイスをいただきました。三瓶師匠によると、「とにかく苗を過保護にするな」とのこと。まず、育苗器から出したその日にローラーをかけて苗踏み(土が乾くのを待ってから)。これまでは水で洗い落としていた覆土の持ち上がりも、ローラーで落とすことができました。

 次に緑化するまではシルバーラブ(シルバーシートとラブシート2枚重ねの被覆資材)をかけていましたが、「ハウスでシルバーシートをかけるのは、育苗器にもう一回入れるようなもの」と、スズメ対策のラブシートのみに変更。ハウスの換気では、昼夜を問わず開けっ放しにしました。これには、長年育苗を担当してきた母が大騒ぎ。大丈夫か? と不安がっていました。私に内緒で夜にハウスを閉めに行ったこともあったのだとか。後日聞いた話ですが、ハウスを開けっ放しにするのは、草丈が伸びやすいコシヒカリで1葉期、ひとめぼれで1.5葉期からだそうで、私のやり方は師匠のおすすめよりもちょっと早かったようです。結果的には母がうまくフォローしてくれた形となりました。

 1週間もするとしっかり苗も揃って一安心。定期的にローラーをかけ、三瓶師匠おすすめのリン酸資材も散布し、根張りもバッチリでした。

8条植えの密苗田植え機。苗のせ台に16枚、予備の苗置き台に8枚の計24枚で走行。ひとめぼれ(10a8枚)でも、30aの圃場を一気に植えられる

11日前に田植えした圃場

1株抜くと、しっかりと新根が伸びて活着していた

苗継ぎ・苗運びが減って、妻が大喜び

 実際に田植えが始まると、想像以上に密苗のメリットを感じることができました。夫婦で午前に2回、午後に1回やっていた軽トラックでの苗運びも、午前の2回のみになりました。この1回を減らせたことが大きいです。

 圃場からハウスに戻って空箱を下ろし、腰をかがめて重い苗箱を持ち上げ、新たに100枚積み込みます。1時間ほど作業して田んぼに戻るのですが、疲れがどっと出てくる午後の苗運びは精神的にもきつく、軽トラの中ではお互いに口をきくこともありませんでした。しかし、昨年は1回やれば、「あと1回で終わりだ」という気持ちになれました。

 また、前述のとおり、30a区画の田んぼなら、苗継ぎの必要はありません。その間に嫁はゴミ上げをするなど、別の作業ができます。ヒマだからと、一緒に田植え機に乗って、ときどき後ろを見て除草剤の残り具合を確認してもらったりしました。密苗のおかげで、夫婦の会話も密になりました(笑)。

 苗継ぎや苗運びの回数を大きく減らせたり、7条植えだった田植え機が8条植えになったことで、作業スピードもアップしました。1日に田植えできる面積は、以前はがんばって2ha(コシヒカリで苗箱240枚分)ほどでしたが、昨年は余裕をもって2.5ha(同150枚分)をこなせるようになりました。逆に代かき作業(1日1.5〜2ha)が追いつかなくなってきたので、今年はトラクタ2台態勢で代かきする予定です。

 坪当たりの植え付け本数は、コシヒカリ42株、ひとめぼれ50株から、昨年は地域の慣行と同じくコシヒカリ50株、ひとめぼれ60株にしました。密苗でも、これまで通りの分けつを確保できるか見えないなか、安全運転でいきました。

 最終的には、密苗でも腰の低いガッチリ苗ができたので、田植え後の活着や生育は良好でした。収量は平均8俵。低日照・長雨で厳しい条件のなか、例年の半俵減にとどめることができました。

(福島県泉崎村)

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現代農業 2018年4月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年4月号

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