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巻頭特集

(依田賢吾撮影)

(依田賢吾撮影)

棚に山積みになった
トマト、トウモロコシ、スイカ、エダマメ……。
値引き競争せず、強気の価格でも、
お客さんが増えて、
よろこんで買ってくれるワザ

お客さんが一目で恋に落ちるポップの書き方

岩手・田屋祐樹

ポップが並ぶ田屋果樹園の直売コーナー。農園の直売所や市内の産直売場に出す(赤松富仁撮影、以下Aも)

そうだ、ポップを書こう

 幸か不幸か、私は農家の長男に生まれてしまいました。妹もいましたが、幼い頃から私が家業を継がなければならない雰囲気が見え隠れ。学生時代は休みの日の朝、二度寝に突入するかしないかのまどろみに「おーい、ちょっと今日畑をすけでけろじゃ(手伝ってくれ)」と叩き起こされ、断ればその日は一日、人でなしの扱いを受けます。そうこうしてるうちに瞬く間に時は流れ、2010年に家業を継ぐことを決意。今は35歳になり、子宝にも恵まれ、サクランボ、モモ、リンゴ、洋ナシ、合わせて3・5haの果樹園業に家族、パートさんたちと一緒に精を出しています。

 当園が主に扱う商品は果物です。野菜は毎日食べるものですが、果物はどちらかというと嗜好品に近い。就農して間もない頃、そんな果物に付加価値を付けて売るにはどうしたら……、と考えながらふらっと立ち寄った飲み屋に貼ってあった面白い文章、雑貨屋で見つけた面白いポスター、道端で見つけた面白い看板が目につきました。売り上げに効果があるのかないのかわからないが、少なからずあるのではないか。そうだ、ポップを書こう!!

よいポップのP・O・P

 私がポップを書くときに気を付けていることは、ざっくばらんに言うと、
P……ぱっと見てしまい
O……おっ!!となり
P……ポンっと買いたくなる

 これは中山マコト先生の『「バカ売れ」POPが面白いほど書ける本』に学んだことです。

 ここで質問です。あなたは次の三つのポップの文章で、どの文章に心を動かされますか?

A「盛岡産さくらんぼ
  佐藤錦 500円」

B「朝採りさくらんぼ
  佐藤錦 500円」

C「私を食べて♥ 日光をたっぷり浴びて育ちました。とっても甘〜い 初恋の味。ほっぺが落ちても知らないよ〜。田屋果樹園の佐藤錦 500円」

 もちろんCですよね? A、Bは産地や新鮮さを伝えていますが、よくある文句です。しかしCはしゃべれないはずのサクランボちゃんが、まるでお客さんに呼び掛けているよう。思わず隣にいる家族や友達に「ねえこれ見て。私を食べてだって(笑)」と言いたくなりませんか?

筆者。2013年11月号、2014年7月号などにも登場

ピンクと黄色のサクランボの詰め合わせ。ちょっと値段の高いものを売りたいときにはこんなポップ

「これ以上魅力があるプレゼントはないくらいおいしいです」という意味を込めて(A)

少ない容量の商品を売るときに(A)

なんでもヒントになる

 ポップはただ書けばよいわけではなく、「もし自分がお客さんだったらどんなポップが付いていたら足を止めるだろう」と考えるとよい文章が浮かんできます。浮かばない時は、私は全然違う商品(ホームセンター、ドラッグストア、雑貨屋)のポップを参考にしたり、テレビを見ていて面白いなと思った言葉、車で走っていて見つけた面白い看板、ラジオから流れてきた曲の歌詞、お笑い芸人が話していた言葉、いろんなものからヒントをもらって、文章にして、アレンジしてポップをつくります。

シイタケのポップ。自分の写真を貼るのはちょっと勇気がいるが、人は人の顔を見てしまうものなので効果的

酸味が高いリンゴ紅玉のポップ。相田みつをさんの有名な詩のパロディ

リンゴジュースのおいしさを強調

お客さんへのラブレター

 同じような商品があふれていると、そのなかのどれがよいのか、お客さんは選べないのです。だからどうしても安い商品に手が伸びてしまう。それではただの安売り合戦になってしまいます。自分の言い値で売りたいのであれば、ポップでその商品の付加価値を目立たせてあげれば、少しでも売り上げに繋がると思います。

 また、今はパソコンで簡単にラベルシールを作成することもできます。同じ荷姿の商品でも、ラベルが貼ってあるとお客さんも手に取りやすいと思います。

実が割れていたり、着色が悪い「キズ物」には、西城秀樹の「傷だらけのローラ」をイメージしたポップを

 お店に行けば、業者さんが印刷したであろうすごくキレイなポップを目にします。しかし、私はあえてポップは手書きにこだわります。お客さんを「恋人」だと思ってラブレターを書くと考えれば、パソコンで打った文章より、手書きのメッセージのほうが思いは伝わります。字に自信がなくてもよいと思います。まずは広告の裏でも、切った段ボールにでも、手書きでポップを書いてみませんか? 令和元年。この夏の全国の直売所が、楽しいポップでいっぱいになりますように。

(岩手県盛岡市・田屋果樹園)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年8月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年8月号

特集:贈客増収!夏の直売所
水とチッソとケイ酸で高温に負けない米づくり/夏播き・夏植えをうまくやる/生食用とはまったく違うワインブドウの夏の管理/耕作放棄地も体の不調もクワで解決/進む、脱ネオニコ系殺虫剤 ほか。 [本を詳しく見る]

稼げる! 農家の手書きPOP&ラベルづくり 稼げる! 農家の手書きPOP&ラベルづくり』石川伊津 著

農産物を直売所やイベントなどで売るときに便利なPOPやラベル。それを自分でつくれるようになるための本。 [本を詳しく見る]

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