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くらし・経営・地域

種苗法改定に異議あり!

Q&Aでよくわかる
「品種の海外流出」と「農家の自家増殖」は別問題だ

2月号「誌上タネ交換会」に読者から届いたタネ。登録外品種の自家増殖は自由だ

 種苗法改定案は、通常国会での審議を見送られた。新型コロナの影響で審議の時間がとれなかったのもあるが、多くの反対意見が国会に届いた結果でもあるはずだ。

 その驚きのニュースがあった翌週、編集部に1本の電話がかかってきた。愛媛県の若手カンキツ農家数名を代表して、「自分たちは種苗法改正に賛成だ」という意見を伝えるための電話だった――。

 種苗法改定案を巡っては、特に4月下旬、女優の柴咲コウさんが問題を提起して以降、新聞や雑誌、インターネットニュースで取り上げられるようになり、今や農家のみならず、広く国民の間で大論争となっている。賛否両論、なぜ意見が割れるのか。今号では改めて、種苗法改定案と問題点をQ&Aで整理したい。

「種苗法ってそもそもなんだっけ?」という方は285ページから先にご覧ください。

 

 日本の大事な品種が、海外に流出しちゃってるんでしょ?

 ブドウの「シャインマスカット」やカンキツの「紅まどんな」などが中国や韓国で栽培され、他国に輸出されています。

中国や韓国からタイやマレーシアへ

 今や「流出品種」の代名詞となりつつあるシャインマスカット。2006年に日本の農研機構果樹研究所で育成された品種で、タネなしで皮ごと食べられ、しかもつくりやすいとあって大ヒット。国内での栽培面積は急拡大しているが(17年度で約1380ha)、近年、中国や韓国でも栽培されていることがわかっている。

 農水省の担当者への取材では、中国のブドウ消費量は金額にして年間およそ6000億円。そのうち100億円くらいがシャインマスカットではないかと考えられるそうだ(18年4月号)。果実はタイやマレーシア、ベトナムや香港へも輸出されていて、これらの利益は本来、日本のブドウ農家が得るはずだったものだという。

韓国で栽培される日本のカンキツ品種

 また、編集部に電話をくれた若手カンキツ農家は、数年前に韓国へ視察に行った際、現地で「紅まどんな」が栽培されているのを見たそうだ。紅まどんな(愛媛果試第28号)は愛媛県が育成、05年に品種登録した中晩柑で、本来は国外どころか、国内での栽培も県内だけに限られているはず。しかし韓国では他にも、同じく愛媛県が育成した「甘平」(07年品種登録)や農研機構育成の「せとか」(同01年登録)が栽培され、果実が流通していることが確認されている(平成25年度東アジア包括的育成者権侵害対策強化委託事業報告書)。

「愛媛県は去年、紅プリンセス(愛媛果試第48号)という新品種を発表して、僕らは来年からその苗を植えて栽培を始める予定でいます。でも種苗法が今のままでは、いずれ紅プリンセスも韓国とかに盗まれて、勝手に栽培されるようになるかもしれませんよね」

「紅プリンセス」は紅まどんなと甘平の子どもで、ゼリーのような食感と濃厚な甘みを持つという。出荷のピークが3〜4月で、親品種とずれるのも魅力。県内の農家がおおいに期待する新品種なのだ。この紅プリンセスのためにも、種苗法の審議は先送りなどせず、しっかり通常国会で成立させてほしい。そういう意見だった。

 イチゴの品種も盗まれて、5年で220億円も損失が出ているんでしょ?

 日本の「レッドパール」や「章姫」を交配して、韓国で品種開発が進んでいます。でも、農水省の試算はちょっとおかしい。

「盗作イチゴ」で韓国が大儲け?

 農水省は、イチゴの品種が韓国に流出したことで日本の輸出機会が奪われ、5年間で最大220億円の損失があったとの試算をまとめている。国内のイチゴ農家が、大損しているというのだ。

 なんでも、日本の農家が育種した「レッドパール」や「章姫」がそれぞれ90年代に韓国に渡り、現地で増やされ、05年には韓国国内での栽培が両品種合わせて約86%にもなったという(レッドパールが約53%、章姫が約33%)。そして12年には、現地で両品種を交配して「雪香」や、やはり章姫を片親とする「梅香」といった新品種が登録された。17年には雪香の栽培が約84%を占め、梅香などの韓国産イチゴはアジア各国に熱心に輸出されている(日本貿易振興機構「輸出環境調査」より)。

 農水省は、日本の品種が流出しなければ雪香などの品種は生まれず、韓国はイチゴの輸出ができなかったと想定。15年の韓国産イチゴの輸出量4000tを、日本からの輸出額として計算し、1年間に約44億円、5年間で220億円の「損失」としたわけだ。

 この試算は2年前、平昌五輪でカーリング女子の選手が韓国産イチゴを高評価したことで注目され、「盗作イチゴ」や「イチゴ泥棒」と韓国を非難する声が上がった。

韓国の輸出額=日本の損失額?

 でもこの試算、よくよく考えると少し、いやかなり変だ。まず、年間44億円の損失というが、当時の日本産イチゴの輸出額は約11億円。その輸出力の差は4倍で、韓国が輸出しなければ、その分がそっくり日本産に置き換わるという計算は、虫がよすぎるといえないだろうか。

 そもそも、韓国が輸出しているのは日本の品種ではない。日本の品種を親にしているが、韓国が自国で育種した品種である。他国の登録品種でも、育種素材として利用する分には、問題はまったくない。それは日本の種苗法も、植物の新品種保護に関する国際条約であるUPOVも認める育種手段で、育成者の許可も必要ない。「盗作」とはいえないはずだ。

 考えてみれば、日本にも海外の品種を交配親に持つ品種はたくさんある。韓国に渡った「章姫」だって、親の親の親を辿ればアメリカの品種「ダナー」にいきつく。有能な品種は海を渡り、そこでさらに優れた品種の血肉となって、また海を渡る。元来、「品種」とはそういう存在だと教えてくれた育種家もいた(18年6月号)。

「すそ野が広がった」という考え方もある

 この問題について、日本のイチゴを輸出している当事者はどう考えているのか。茨城県つくば市の(株)農業法人みずほ・長谷川久夫さんに話を聞いた。

 みずほの村市場は農家1戸あたりの平均販売額が800万円、安売り路線と決別したことで有名な農産物直売所だ。農家の手取り向上のため、14年、タイにバンコク店をオープンし、輸出にも取り組んできた(19年1月号)。輸出品目はイチゴやメロン、ブドウやベビーリーフなど。県外産の西洋ナシやリンゴ、モモなども揃えている。現在は新型コロナの影響で減収しているが、去年はイチゴだけで約1000万円を売り上げたという。

 イチゴの店頭価格は日本円にして1パック1600〜2000円。現地には韓国産や中国産が同580〜700円程度で売られているが、富裕層を中心に、ちゃんとお客さんがついている。

「うちは量と価格の競争ではなくて、品質の競争」というみずほにとっては、今のところ、韓国産イチゴはライバルではない。むしろ、イチゴがまだ珍しかったタイにおいては、韓国産が「すそ野を広げた」という考え方もできるという。広く食べられるようになって初めて、みずほの日本産イチゴの価値が伝わるというわけだ(日本の18年産イチゴ輸出額は25億円で前年比40%増)。

「日本の農家は、そういう度量があってもいいんじゃないか」。種苗法改定には大筋賛成という長谷川さんだが、こと韓国産イチゴの問題に対しては、そう考えている。

育成者の意図に反する「流出」は防ぎたい

 一方、カーリングの選手らが評価したように、韓国で育成された品種は大玉で味も悪くない。日本も負けずにいい品種を育てる必要があるし、農家の栽培技術も問われる。油断はできないわけだ。

 そして、韓国の新品種を「盗作」と呼ぶのはお門違いだが、その親となった日本の品種が、現地で一部「無断増殖」されたのは事実(284ページ)。シャインマスカットや紅まどんなしかり、育成者の意図に反する品種の流出や苗の譲渡は、きっちり防ぐ必要がある。

 海外流出を防ぐためにも、日本の農家の自家増殖を許諾制にする必要があるんでしょ?

 品種の海外流出と農家の自家増殖とはまったくの別問題。農水省もじつは認めています。

「海外での品種登録が唯一の対策」

 優良品種の海外流出を防ぐためにも、日本の農家の自家増殖を許諾制(原則禁止)にしなくてはいけない。自家増殖を許諾制にすれば、海外流出の抑止力になる。農水省は繰り返しそう説明しているが、これは詭弁だ。

 はたして、日本の農家が自家増殖しなければ(許諾制であれば)、品種の海外流出は防げたのか。果樹でいえば、枝1本持って行かれればアウトだし、タネの持ち出しはもっと簡単だ。そもそも、シャインマスカットや紅まどんなは、正規に購入された苗が海外に渡ったと考えられている。日本の農家の自家増殖のせいとはいえないのだ。

 一方、海外にも日本の種苗法のような法律がある。国によって保護対象の作物は限られるが、例えば中国の場合、農研機構がシャインマスカットを申請していれば、現地で品種登録できたのだ(すでに申請期限の6年を過ぎているので、今からはできない)。果樹の場合、登録すれば20年間は品種が保護されるので、中国における無断増殖は制限できたかもしれない。

 この点は、じつは農水省も認めている。「この事態(海外流出)への対策としては、種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、海外において品種登録(育成者権の取得)を行なうことが唯一の対策となっています」。これは17年、農水省の知的財産課が農畜産業振興機構(alic)の広報誌に自ら寄稿した記事の抜粋である。担当者への取材でも、種苗の持ち出しが非常に簡単であること、現地での増殖は、現地での品種登録以外、防ぐ術がないことを認めている。

現行の種苗法に「穴」

 一方で、現在の種苗法には「穴」があり、その改正も必要だ。例えば農研機構の果樹の品種などには、現在も「国内栽培限定」「海外に持ち出さないでください」などと書いてあるが、正規に買った苗を海外に持ち出すことについては、現在の種苗法ではなんら制限をかけることができないのだ(20年4月号)。

 そこで農水省は今回の種苗法改定案において、育成者が「国内栽培限定」または「県内栽培限定」といった条件を付けた場合、それに違反すれば、利用の差し止めなどができるようにするという。

 また、海外での品種登録にはすでに本腰を入れていて、出願経費の半額補助などを始めている。

 品種の海外流出は防ぎたいけど、農家の自家増殖は制限されたくない。

 いっそ、それぞれ別の法案に分けたらどうか。

海外流出防止法案ならすんなり通るはず

 賛否両論ある種苗法改定案。海外流出を防ぎたい農家は賛成で、自家増殖を制限されたくない農家は反対。それぞれの意見は、大筋、そうまとめることができそうだ。

 そして前述のように、この二つはまったくの別問題だ。それならば、いっそのこと海外流出防止に絞った法案と、自家増殖の制限に関する法案と、二つに分けたらどうだろうか。農水大臣は会見で「海外流出対策はまったなし」と訴えたが、流出防止に絞った法案ならば、きっとすんなり通ったはず。異論が多い農家の自家増殖については、しっかり時間をとって話し合えばいいのではないか。

「農家はもっと怒っていい」

 それにしても、農水省はなぜ海外流出防止と農家の自家増殖禁止をセットにしたのか。この疑問に対して元農林水産省の松延洋平さんは「責任逃れ」だと喝破する。

「海外流出の多くは、現地で種苗登録さえしていれば防げた話です。それを怠った農研機構や制度の整備を怠った農水省にこそ責任がある。農家が自家増殖しているせいじゃありません。しかし法案を読むと、まるで悪いのは農家の自家増殖であって、自分たちじゃないといっているように思える。農水省は責任逃れのために二つの問題をセットにして、結果、農家を仲間割れさせている。農家はもっと怒っていい」

 種苗法改定案は臨時国会でまた審議される予定だ。「品種の海外流出」と「農家の自家増殖」を分けた法案にすれば、農家同士が争う理由はないはずだ。(編)

*農家の自家増殖を巡る疑問は、追って取り上げたいと思います。農家からのご意見をお待ちしております。

 

「盗まれたわけじゃないんよ」
――当事者が語るイチゴの海外流出
                   愛媛県宇和島市・赤松保孝さん

 韓国の品種の交配親となった「レッドパール」は愛媛県宇和島市の農家、故・西田朝美さんが育成し、1993年に品種登録したイチゴだ(育成者権は08年に消滅)。「アイベリー」を母とし「とよのか」を父として交配、選抜した品種で、その名は地元宇和海の名産、真珠にちなんで「陸でとれる真珠」を願ってつけられたという。

 韓国で「雪香」の親となったこの品種が、どんな経緯で海を渡ったのか。当事者の一人である赤松保孝さん(90歳)にお話を伺った。いわずと知れたイチゴ名人で、「るんるんベンチ」の生みの親。西田さんとは、イチゴ栽培に切磋琢磨した 仲間だったという。

――レッドパールが「韓国に流出したイチゴ」として、話題になりました。

 ああ。きっかけは『現代農業』よ。『現代農業』に俺が何度かレッドパールのことを書いて、それを読んだ韓国の農家、金さんがわざわざ訪ねてきたんだな。金さんには、西田さんと一緒に会った。ぜひつくってみたい、苗をくれんかということだったんだけど、最初の年は、いけんといって西田さんが断った。そしたら翌年も韓国から来て、そんならということで、ちゃんと契約して、苗を分けてあげたんよ。

 その後、西田さんと俺とで呼ばれて、韓国には2回行ったな。向こうの業者がレッドパールを日本に輸出したいと考えていたんだが、でも栽培がうまくいかなくて、教えてくれと頼まれたんよ。

――レッドパールを逆輸出しようとしていたわけですね。日本の生産者としては複雑じゃないですか?

 教えに行くくらいだから、西田さんはまったく問題にしてなかったよ。当時はちゃんと契約の上で栽培していたから。でも結局、韓国国内での需要が増えたとかで、その時は日本に入ってこなかった。韓国でレッドパールの栽培が一気に増えたのはその後。福岡から苗が勝手に渡ったりして、最初の契約が成り立たなくなったんだな。

 でもそれにも、西田さんは怒ってなかったよ。西田さんは、そういうことで文句をいうような男じゃない。まあ、そうなることを予測していて、「これが普通よ」といってたな。

 レッドパールと章姫を親に韓国で新品種(雪香)ができたことも、ひとっつも気にしてなかった。新品種をつくったのは確か、西田さんと俺が韓国に行った時に通訳してくれた人なんだ。日本の千葉大で学んで韓国に帰った人で、釜山の園芸試験場で場長を務めていた。そんなこともあったから、何も文句はいってなかったよ。

――今、その韓国産イチゴをひとつのきっかけとして、農水省は農家の自家増殖を許諾制にするつもりです。

 なにをいらんことを。農水省は何を考えてるんよ。イチゴ農家は毎年苗をとらなきゃいかんのに、いちいち許可をとって、許諾料を払わなきゃいけなくなるとしたら大変だ。レッドパールをつくった西田さんの考えは今話した通り。それとこれとはまったく関係ないはずだろうよ。(談)

 

早わかり種苗法
これまで『現代農業』では何度も種苗法について取り上げてきたが、今、改定案が全国民的な関心事となって、初めて興味を持った読者もいるはず。改めて「早わかり」にまとめてみたので、ぜひ入り口や再確認にどうぞ。

 「種苗法」ってどんな法律?

 タネや苗の流通ルールと育種家の権利を定めた法律です。

 種苗法は、タネや苗の流通ルールを定めた「指定種苗制度」と新品種保護のための「品種登録制度」の2本柱からなる法律。成立は1978年、「生みの親」である元農林水産省種苗課長・松延洋平氏によれば、世界に先駆けた制度で、構想時から各国に評価されたという(18年9月号、19年2月号)。

 品種登録制度は、農家育種家や公的機関の育種担当者の努力に報いるための制度。新品種には、一定期間の「育成者権」が認められる(育成者権の存続期間は原則25年で、木本性の植物は30年。種苗法第19条第2項)。登録品種のタネや苗の増殖(生産)、販売や譲渡、輸出や輸入をする場合には、育成者権者から許諾を受ける必要があり、違反した場合は10年以下の懲役、または(併科)1000万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)となる。

 タネや苗の増殖はダメって、農家は例外なんでしょ?

 現在、農家の自家増殖は「原則自由」。ただし、育成者の許諾が必要な品種もあります。

 種苗法成立当初、農家には、すべての自家増殖(自家採種やわき芽挿し)が例外的に認められていた。その後、バラやカーネーションなど栄養繁殖する一部の植物については、「例外の例外」として自家増殖が原則禁止、育成者の許諾が必要になった。栄養繁殖性の植物は挿し木やわき芽挿しでどんどん増やせる(コピーできる)ため、さすがに「育成者権の保護が必要」となったわけだ(下年表)。

 しかし近年までは、その他のほとんどの植物で農家の自家増殖が認められてきた。種苗法は、いわば「農家の特権(農民の権利)」を当然に認める法律だったのだ。

 ところが農水省は、17年に農家が勝手に自家増殖できない「禁止品目」を289種に急拡大。トマトやナス、ニンジンなど、一般的には栄養繁殖と認められない植物にまで範囲を広げた(18年4月号、5月号)。

 以来、農水省は禁止品目を毎年増やし(現在は396種)、とうとう今年、すべての登録品種について、農家の自家増殖を原則禁止(許諾制)とする種苗法改定案を国会に提出した(19年1月号、2月号、4月号)。

種苗法を巡る年表


1947年

農産種苗法が成立

「禁止品目」の数

1952年

種子法(主要農産物種子法)成立

1968年

植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV)

1978年

種苗法が成立

UPOV78年条約を締結

なし

1982年

UPOV78年条約に加盟

1991年

種苗法を全面改定

UPOV91年条約を締結

1998年

種苗法を一部改定、禁止品目を指定、無償譲渡も禁止

UPOV91年条約に加盟

23種

2004年

「植物新品種の保護に関する研究会」

食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)

2006年

種苗法施行規則改定、禁止品目を拡大

82種

2013年

ITPGRに加盟

2015年

「自家増殖に関する検討会」

2017年

種苗法施行規則改定、禁止品目を拡大

289種

2018年

同、種子法廃止

356種

2019年

同、品種保護のための検討会(全6回)

387種

2020年

同、種苗法改定案を国会に提出

396種


青字は世界の動き、黒字は日本の動き。農水省は上記以外に、刑事罰の対象拡大、罰金額の引き上げ、育成者権の存続期間延長など育成者権を強める一部改定を行なっている

 どのタネが「登録品種」なの? タネ袋に書いてある?

 PVPマークがあればそう。表示義務があるのに、残念ながら守られていません。

 現状、農家が自由に自家増殖できないのは「禁止品目」の「登録品種」のみ(288ページ)。法改定によって自家増殖が「原則禁止」となっても、登録外品種(農水省は「一般品種」と呼ぶ)の自家増殖は引き続き自由。育成者の許諾が必要になるのは登録品種だけだ。

 一方、農家にとっては、どの品種が登録品種なのか、現状は非常にわかりにくい。登録品種か否か、タネ袋や苗には書いていないことが多いからだ。

「指定種苗制度」によって、タネや苗の販売に際しては「種類や品種」「生産地」「採種年月」「農薬使用の有無」など、種苗メーカーが明示すべきことが定められている(単行本『今さら聞けないタネと品種の話』参照)。

 登録品種の場合は、タネ袋にそう表記する義務もある(種苗法第55条)。ところが現状は、登録品種であってもその記載がないタネ袋がたくさんある。この規定が、罰則のない「努力義務」となっているためだ。

 農水省は種苗法の改定によってこの点も改めようとしているが、法の改定を待たず、種苗メーカーにはPVPマークの記載を進めてほしい。カタログに表記しているだけでは不十分だ。

 インターネットで調べる手もあるが、農水省のホームページにある「品種登録データ検索」は残念ながら使い勝手が悪い。例えば「CFハウス桃太郎」は登録品種なのに、「出願品種の名称またはその読み」という検索欄にその名を打ち込んでも、なにも出てこない。じつはCFハウス桃太郎は「流通名」で、登録された品種名称は「TTM045」という。農水省の検索システムでは、その「品種名称」を知らなければ、検索できないのだ。

 現状はしかたない。わからない品種については、ぜひ農水省の知的財産課に聞いてほしい(TEL 03-6738-6169)。必ず調べて教えてくれる。

 「種子法」も同じような法律?

 よく混同されるが、別の法律。種子法はすでに廃止されました。

 18年に廃止された「種子法(主要農産物種子法)」は、種苗法とはまったく別の法律。こちらは1952年に「農産種苗法」(種苗法の前身)から分離独立し、まだ食料難の時代から半世紀以上にわたって、米や麦などの優良種子の安定生産と普及を「国が果たすべき役割」と定めてきた。都道府県の原種や原々種の生産を支えてきた法律である。廃止は寝耳に水であったが、その後、全国の自治体で「種子条例」が成立、取り戻しの動きがある。(編)

 


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