人間の心身、社会、地球環境など、人間の生存を根源的に脅かす問題を山積させながら、二十世紀が終わろうとしている。
このような世紀の変わり目にあって、哲学者の内山節氏は、私たちが二十一世紀に残していくべきものは、価値観や生活様式、社会システムなどが激しく変化した近代社会においても変わらずに残り続けたものから考えるべきだという。
このような視点から、内山氏は、「作法」と「総有」に光をあてる。「作法」も「総有」も、むらが生みだした思想である。むらの思想は、私たちがふつう「思想」と呼んでいる思想家の手で書かれたものよりもはるかに深く、人間と自然との根源的な関係を表現していると、氏は指摘する。そして、身体と行動をとおして表現されるこのむらの思想を、実践的に現代に活かす道を氏は考察する。
このような内山氏の思索は、暮らしづくりや地域づくりを自覚的に考えている人々に、時代を拓くための多くの貴重な視点を提供するはずである。
なお本号は、東北の農家が自主的に開催した「第四回・東北農家の二月セミナー」(二〇〇〇年二月、於 仙台市)の記録に、内山氏自身が手を入れてまとめたものである。
文化部
*内山 節(うちやま たかし)
1950年東京生まれ。東京在住。哲学専攻。群馬県上野村で畑仕事をしたり村人と交流したりしながら、近代的思考を克服する哲学の創造をめざしてきた。自然と人間の関係、すなわち技術と労働の側面から現代社会のゆがみを照射し、解放の方途をさぐる思想を築いている。著書は『労働過程論ノート』(76年、田畑書店)/『存在からの哲学』(80年、毎日新聞社)/『フランスへのエッセー』(83年、三一書房)/『自然と労働』(86年、農文協)/『自然と人間の哲学』(88年、岩波書店)/『〈自然─労働─協同社会〉の理論』(89年、農文協)/『山里紀行』(90年、日本経済評論社)/『戦後思想の旅から』(92年、有斐閣)/『やませみの鳴く谷』(92年、新潮社)/『時間についての十二章─哲学における時間の問題』(93年、岩波書店)/『森にかよう道─知床から屋久島まで』(94年、新潮社)/『山里の釣りから』(94年、岩波書店「同時代ライブラリー」)/『森の旅』(96年、日本経済評論社)/『子どもたちの時間』(九六年、岩波書店)/『思想としての労働』(97年、農文協 共著書)/『貨幣の経済史』(97年、新潮社)/『自由論』(98年、岩波書店)/『循環系の社会─ローカルな技術と思想の深みから─』(98年、農文協「農村文化運動」148号)/『ローカルな思想を創る』(98年、農文協 共著書)/『哲学の冒険』(99年、平凡社)/『市場経済を組み替える』(99年、農文協 共編著書)