『農村文化運動』 161号 2001年7月

JA甘楽富岡に学ぶIT時代の農協改革


[目次]

はじめに

第1部 JA甘楽富岡がめざすもの

 

  1. 地域を蘇らせた多品目周年型産地への転換

  2. 大都会にむらの生活文化の発信拠点をつくる

  3. 担い手のさらなる創出による遊休荒廃農地の活性化

  4. JA甘楽富岡の実践の今日的意味
    ―農都両棲のトップランナーとして

 

第2部 JA甘楽富岡に学ぶ農協改革の筋道

 

  1. 本業回帰が農協改革の出発点

  2. 生産者手取り最優先の原則

  3. 平等の原則から公平の原則へ

  4. 「農業を機軸とした地域づくり」の実効性ある計画を立てる
    ―自治体や地域の諸団体との密な連携と進行点検

  5. IT活用を事業変革の要にすえる   

 

■JA-IT研究会(仮)の開催について

 JA甘楽富岡のJA改革戦略の理論的総括
 ―組合員の潜在的エネルギーに火をつける―

東京大学名誉教授・日本女子大学教授 今村 奈良臣

 


はじめに

 「農村文化運動」一五七号でJA甘楽富岡の実践を特集してから一年がたった。この間JA甘楽富岡は、平成十二年度の農産物販売額が対前年度比で一〇〇・六%と、関東農政局管内で唯一農産物販売額が前年度を上回った農協となった。

 女性・高齢者などの多様な「潜在的販売農家」を掘り起こして、地元直売所や都市の直売所「インショップ」を拠点に、その少量多品目の農産物を周年的に直売するシステムをつくったJA甘楽富岡は、今後さらに一五〇〇人の直売農家を創出するなどして、七一八haの遊休荒廃農地をなくす試みに挑戦しようとしている。老若男女が活き地域自然が活きる、この農をベースにした「地域づくり」運動に対して、平成十三年三月、第三〇回日本農業賞大賞が贈られた。

 本号では、このJA甘楽富岡の実践を支える原則と、その原則を具体化するための方法論にせまった。

 JA甘楽富岡の原則は五点ある。

 第一に、農協の本業である営農関連事業の独立採算をめざす。そのために営農指導員の役割を、従来の技術指導から、購買事業や販売事業なども総合的にコーディネートできる〈総合職〉へと根本的に変革した。

 第二に、生産者手取りの最優先。そのために「定量定価」の多元的な直売型販売チャンネルを構築して、産地主導の販売を実現するとともに、農家の生産コスト・流通コストの削減に取り組んでいる。

 第三に、平等の原則から公平の原則への転換。組合員に対する情報公開と委員会方式による組合員の事業参画を前提に、生産技術の向上や資材の共同仕入れなどの組合員の努力が公平に評価され、努力した人に還元される仕組みをつくり、組合員の農協への結集力を高めている。

 第四に「農業を基軸とした地域づくり」の中期計画をボトムアップで立て、立案した計画を必ず実行するために、実施段階では個別農家の営農計画にまで具体化する。

 第五に、IT活用を事業変革の要にすえる。ITの活用なくして、JA甘楽富岡の、専作型産地から少量多品目周年出荷型産地への転換は不可能だったといっても過言ではない。

 金融自由化による信用事業の収益性の悪化や輸入農産物の影響による国内農産物の低迷など、農協は多くの難問を抱えているが、地域農業と農協の未来を切り拓くために、JA甘楽富岡の五原則を、それぞれの地域性に照らして実践的・創造的にいかしていただければ幸いである。

 なお、農協の今後のあり方や課題を実践的に交流研究するためのJA―IT研究会(仮称)設立準備が、今村奈良臣氏(東京大学名誉教授・日本女子大学教授)の呼びかけによって現在、進められている。このJA―IT研究会設立準備の一環として今村氏がご報告されたものに、さらに加筆していただいたものが「JA甘楽富岡のJA改革戦略の理論的総括」である。第一部、第二部と合わせてお読みいただきたい。

文化部


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