『農村文化運動』 176号 2005年4月

激変する青果物流通とマーケティングの実際
――JAは市場流通依存からの脱却を――


[目次]

はじめに

序 JAの販売戦略の核心と人材育成の基本視点

東京大学名誉教授・JA―IT研究会代表 今村奈良臣

一 販売戦略の核心―P―six理論

二 リスク最小の原則―3・3・3・1の原則

三 JAほど人材を必要としている組織はない

I マーケティングによる販売チャネルの多様化とその管理こそJAの課題

千葉大学園芸学部教授 斎藤 修

一 「待ったなし」で求められている系統農協の「販売チャネルの多様化」

二 マーケティングがもつ重要な意味と、関係性強化の課題

三 変貌をとげる青果物流通システムにどう対応するか

四 販売専門の農協出資型法人の設立と、多様な販売チャネルの管理

II 卸・仲卸・量販店・外食産業が語る青果物流通の最新事情とJAへの注文

東京大学名誉教授・今村奈良臣/(株)西友Merchandisingシニアマネージメント職チーフバイヤー・矢吹寧男/(株)ワタミファーム代表取締役社長・武内 智/(株)浅間代表取締役社長・浅間正貴/東京シティ青果(株)代表取締役副社長・針替茂人/JA高崎ハム常務理事・黒澤賢治/千葉大学教授・斎藤 修/高崎経済大学教授・吉田俊幸

III JAの販売事業の課題と、地域産物をまるごと売るマーケティングの実際

JA高崎ハム常務理事・JA―IT研究会副代表 黒澤賢治

一 JAの販売事業とは集出荷事業にすぎなかった

二 青果物流通の最新事情からJAの直接取引の可能性を考える

三 地域農業のトータルコーディネートへの道

四 JAの直接販売の体制整備について

五 地域産物まるごと売りをめざす量販店へのプレゼンテーションの実際

「あとがき」に代えて
――〈生産・集荷〉から〈販売・生産〉への転換と、リスク管理、コスト運営問題

高崎経済大学地域政策学部教授・JA−IT研究会副代表 吉田俊幸

付1・JA甘楽富岡のプレゼン資料例/付2・JA高崎ハムのプレゼン資料例


はじめに

 卸売市場法が改正され、2005年度から順次改革が実施に移される。この改正には、これまで法定で一律に決まっていた卸売会社の委託手数料の自由化がふくまれている。これは従来の委託中心の青果物流通を根本から変えるもので、JAは市場への丸投げでしかない現在の販売事業から脱却し、自らマーケティングを行なうことが、「待ったなし」で求められているという。従来の市場流通依存のままでは、とくに遠隔地の産地は危機的状況をむかえるだろうというのだ。

 東京大学名誉教授の今村奈良臣氏は、本誌の「序」で、販売戦略の核心として、市場的条件や主体的条件など6つの要素からなる「P―six理論」や、リスクを最小にする多チャネル販売の原則「3・3・3・1の原則」などを提起。

 つづく第I部では、この世界の第一人者である千葉大学園芸学部の斎藤修教授に、激変する青果物流通の実態を述べていただき、JAがいま、何をしなければいけないかを書いていただいた。

 斎藤教授は、マーケティングによってJAが新しい多様な販売チャネルを切り拓くなかで、現在の委託を前提とした低い販売手数料を改変し、JAが販売事業を自立させることが緊急かつ重要な課題であることを提起するとともに、販売業務を行なう農協出資型法人を旧村単位で設立していくことや、量販店や加工業者、生協などとの連携で「地域内発型アグリビジネス」を確立していく道を、実際の先行事例をもとに展望されている。量販店や食品企業にはそれぞれの事情があり、産地側がこのような道を切り拓いていける可能性は十分にあるというのだ。

 第II部は、中央卸売市場の卸や仲卸、量販店、外食産業の関係者とJAによるパネルディスカッションの記録である。青果物流通で何が起きているかが、現場からの生の言葉で報告され、そしてJAへの忌憚のない注文がつけられている。このような方々が一堂に会し、直に議論することは非常にまれなことであり、産地に対する貴重な提言に満ちている。

 第III部はJA高崎ハムの黒澤賢治常務理事に、現職に移る前に手がけたJA甘楽富岡の実践や、現在のJA高崎ハムでの取組みをもとに、量販店へのマーケティングのノウハウを具体的に書いていただいた。黒澤常務は、本来なら門外不出の、戦略的意味をもつ52週カレンダーやプレゼン資料を惜しげもなく公開してくださっている。「待ったなし」の情勢のもとで、JAがマーケティングを開始することが何としても必要だからだ。

 そして最後に、高崎経済大学の吉田俊幸教授は、あとがきに代えて、これらの青果物流通の激変を「時代の大きな転換」の流れのなかで捉え直して、マーケティングの重要性を提起されている。

 この特集は、JA―IT研究会の実践的な研究の積み重ねからできた。JAの存在意味は、地域農業全体を振興させる営農経済事業にあり、その事業の改革は販売事業の確立にかかっている。JAの奮起を期待したい。

農文協文化部


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