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生物科学
Volume 66,No.2 2015

Mar.

目次

特集:クモ研究の現在―新たな技術と視点から―

巻頭言:名も実利も社会貢献も―ノーベル賞の変容―(溝口元)……65

宮下 直:「クモ研究の現在」に寄せて……66

谷川明男:日本産キムラグモ類の系統地理と分類……69
 DNAデータを用いてキムラグモ類の系統推定を行った結果,外部形態での推定結果では別系統と考えられていた日本産の2属が姉妹群を形成した.また,いくつも検出された地理的系統集団の中には,現存の海峡による隔離で分化したのではなく,それらが形成されるよりも前に分化したと思われる場合があった.いっぽう,細かくて深い集団の遺伝的分化に反して,形態の相違は小さく,外部形態で見分けることのできない隠蔽種も存在した.
キーワード:COI,28S,生殖的隔離,隠蔽種

中田兼介:食う食われる中でのクモの「見た目」……79
 クモの「見た目」(造網性の場合はクモと網全体)にはさまざまな特徴が見られる.多くのクモで視覚的特徴は同種間コミュニケーションには用いられていない.クモがどのような視覚的特徴を備えるかには餌および捕食者との関係が影響しているだろう.クモの視覚的特徴が持つ機能には,餌ないし捕食者による認知を妨げる隠ぺいと,目立つ「見た目」を用いた餌の誘因が考えられる.二つの仮説の検証を試みた研究の結果はさまざまである.このことは,「見た目」の効果が見る側の視覚システムに依存しており,クモが多様な見られ方をしていることを示していると考えられる.
キーワード:認知生態,視覚シグナル,捕食-被捕食関係,紫外線

高須賀圭三:クモヒメバチによる寄主操作 ―ハチがクモの造網様式を操る―……89
 強力な捕食者として認識されがちなクモ類にも天敵はいる.クモを専門に狩る天敵としてクモバチ科Pomplidae(旧称,ベッコウバチ科)が有名であるが,寄生蜂類の中にもクモを利用するものがいる.その中で,クモヒメバチというグループは,幼虫がクモの体表に取りつき,クモを殺して蛹化する前にクモの造網行動を操作し,網型を改変してしまう(網操作).近年,世界各地からその報告が相次ぎ,各ハチ–クモ系ごとに実に多様な網操作様式が見出されており,いずれもハチの蛹の保護に寄与していることが明白である.この特異な行動が単一起源なのか独立進化なのかという疑問にはまだ明確な答えは出ておらず,またその至近要因も謎に包まれたままであるが,現時点で判明している網操作の実態とその至近要因に関するいくつかの見解についても議論する.
キーワード:飼い殺し寄生,外部寄生,寄生蜂,休息網,操作網

馬場友希・高田まゆら:農地研究から解き明かすクモの生態 ―圃場から国土スケールまで―……101
 クモは古くから農地生態系における重要な天敵生物として知られるとともに,近年は環境保全型農業の取り組み効果を反映する農業環境指標生物としての役割も注目されている.この農地のクモの役割を明らかにする研究を通じて,クモと餌生物との相互作用,周辺環境との関わり,さらには緯度勾配に沿った種多様性のパターンなど従来の基礎研究からだけでは明らかにされなかった興味深い知見が得られている.本稿では農地研究により明らかにされたクモの生態を紹介するとともに,生態的現象を明らかにする上での農地生態系に注目する利点についても触れる.
キーワード:環境保全型農業,空間スケール,生態学,生物間相互作用

松本晶子・小野口航・福川康之:人の移動動機の解明に向けて―島人の離島選好度と地理認知……112
 なぜ人々が旅行するのか,という問いは,観光心理学において伝統的課題とされてきた.人は「目新しいところに行きたいと思う一方で,なじみ深い(親近性の高い)場所にもう一度行きたい」と思うことが,近年の研究からあきらかになっている.人間の認知地図の中で親近性の高い場所とはどのようなところを指すのだろうか.本研究では沖縄県の島人を対象に,彼らの地理認知を明らかにし,親近性の高い場所がどのような要因で形成されているのかを明らかにする.
 本研究では,与那国島,石垣島,沖縄島において対面形式でアンケートを実施し,沖縄諸島の8つの島と台湾,2つの本土都市に対する類似度データと選好度データを収集した.分析結果は,人々の認知地図には南北の地理的基準と沖縄県/非沖縄県という行政区分基準の2つが用いられていることがわかった.また「親近性の高さ」が行政区分と訪問経験によって形成されることを明らかにした.
キーワード:親近性,訪問経験,旅,動機,琉球弧

書評—『オホーツクの生態系とその保全』『文化系統学への招待』『動物の環境と内的世界』『植物地理の自然史 進化のダイナミクスにアプローチする』『生き物の描き方―自然観察の技法』『うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か』


English_conents

Mizoguchi Hajime:Current situation of Nobel Prize : fame, income and sosial contribution(65)
Special feature:Recent advances in spider research from new technologies and perspectives
Miyashita Tadashi:Introduction(66)
Tanigawa Akio:Phylogeography and taxonomy of Japanese liphistiid spiders(69)
Nakata Kensuke:Visual appearance of spiders as predators and prey(79)
Takasuka Keizo:Spider web manipulation-parasitic wasp larva turns host spider into a slavish zombie-(89)
Baba, Yuki G. & Takada, Mayura B.:Spider ecology in agroecosystems:from field-plot scale to nation-wide scale(101)
Matsumoto-Oda Akiko, Onoguch Wataru, Fukukawa Yasuyuki:Islanders' preference for islands of the Ryukyu arc and the cognitive map of them:for understanding of the motivation of human migration(112)
Book review(121)


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