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農文協トップ主張2001年6月号

情報活用で開く「防除の地元学」

目次
◆きちんと農薬を効かすことで、コストダウン
◆土着天敵・土着微生物を活かす環境づくり
◆「防除の地元学」と情報活用
◆これが農家の情報活用
◆農文協データベースがもつ特質
◆情報活用で共同性を回復する

 農産物価格の下落、所得の低下のなかで、「現代農業」ではこの間、経営と暮らしを守る「新コストダウン」にむけた各地の農家の工夫を紹介してきた。「新」とつけたのは、コスト削減だけでなく、つくられた農産物の付加価値を高め、技術・農法への転換をはらむ、新しい方法によるコストダウンだからである。そして、農家の「情報活用」が、この「新コストダウン」の強力な武器になる。

きちんと農薬を効かすことで、コストダウン

 今月の「防除特集号」では、農薬代・防除にかかる経費を減らしている農家の取組みを豊富に取り上げた。これらの事例から、防除の「新コストダウン」の方法を整理してみよう。

 「農薬は混ぜれば効く」というのは宮崎県西都市の久保浦重廣さんである(本誌57ページ)。ハウスのニラで葉に白い斑点の薬害を出してしまった久保浦さんは、その原因が、農薬(水和剤)の沈殿による濃度ムラにあることをつきとめ、そこで、常時撹拌できる撹拌器を工夫した。その結果、効果が安定し、使用濃度が「1000〜2000倍」とあれば、迷うことなく2000倍にするようになった。常時撹拌できる手段を持つことで、効果が安定し農薬の使用量は半減したのである。このように農薬は混ぜ方で効きめが変わり、また、複数の農薬や展着剤を混用する場合は、70ページで紹介したように、溶かす順番で効果に大きな差がつく。農薬を的確に使い「きちんと効かす」ことが結局はコストダウンになるわけで、そのための改善点がいろいろありそうだ。

 きちんと効かすための農薬選びにも、新しい課題が生まれている。

 ミカンの有名産地・静岡県三ヶ日町では、夏場までのダニ対策にそれまで使っていたダニ剤をやめ、マシン油に切り換えた。ダニはダニ剤で徹底防除という対応をしてきた結果、「ダニの抵抗性は3ヶ日から始まる」という風評が立つほどに抵抗性が深刻化し、そこで、いつまでも新しいダニ剤を追いかけても仕方がないと、マシン油を中心とする体系に切り換えたのである。6月中旬までにマシン油でダニの密度を抑え、値段が高いダニ剤は秋まで温存して最後にピシャッと効かせる。その結果、思わぬ変化が生まれてきた。この体系に換えて4年目になるが、このところヤマトクサカゲロウなどの天敵も増えてきたのである。こうして、ますます夏場のダニ剤が不要になり、経費も手間も大きく減った。7〜8月のダニ剤がない農協の防除暦は、今、県全体に広がり始めた。

 「改めて三ヶ日にはいろんな虫がいることがわかった」とJAみっかびの指導員、大野隆久さんはいう。きちんと効かすために農薬利用の体系を変えたところ、土着の天敵が増え、その結果、少ない農薬でピシャッと効かせられるようになった。そこで今度は、害虫に効くかだけでなく、「天敵にどう影響するか」を配慮して農薬選択や農薬配置を考える。農薬を上手にムダなく使うためにも、天敵に応援してもらわなくてはならない。

土着天敵・土着微生物を活かす環境づくり

 天敵を考慮した農薬の使い方とともに、天敵が増える圃場環境をつくる取組みも各地で活発になってきた。

 「いやたまげた。ソルゴー植えたらホントにナスがきれいにできた!」というのは埼玉県深谷市・井田宗治さんである(98ページ)。「去年の6月号の天敵の記事(87ページ)。ちょうど4月末にナスを植えたところだったんで、読んですぐ『これはいいや』って、ソルゴーの種を買いに行った。そしたらまあホント、ソルゴーで畑を囲んだだけなのに、消毒ほとんどなしでいいナスがとれちまった。びっくりだねえ。世の中、いいことを発見する人がいるもんだ」と感心することしきり。露地ナスの周囲のソルゴーがアブラムシやミナミキイロアザミウマの天敵のすみかになり、その結果、週1回の農薬散布が月1回で済んだ。「100本のナスで、農薬代が減った分と、手間が減った分と、いいナスがずっととれるようになったのを合わせて、ソルゴーの価値は30万円じゃ、きかないようだ」と、井田さん。今年はナスの本数を増やす予定だ。

 積極的に天敵を増やしている農家もいる。和歌山市の木村善行さんのナスのハウスには、まだ4月だというのにナナホシテントウやクモ、卵からかえったばかりのカマキリ、そしてヒメハナカメムシなど、そこらじゅうに天敵がいっぱいいる。ナナホシテントウのためにハウスの隅のイネ科雑草は残し、周囲に生息しているナミテントウやカマキリ、ヒメハナカメムシをとってきたり、マメハモグリにやられた無農薬のエンドウの葉をビンに入れ、羽化してきた寄生蜂を集めてハウスに放す。スリップスの天敵、ククメリスカブリダニは最初は資材化された商品を買ってくるが、あとは米ヌカボカシと生ヌカを混ぜたボトルのなかで増やしてしまう。米ヌカに生えたカビを食べてコナダニが増え、これをエサにククメリスが増えるという仕掛けだ。通路に下葉を捨てて米ヌカをまけばククメリスが増えるのではないかと木村さん。今、話題を呼んでいる「米ヌカ防除」は、天敵を活かす方法でもあるようだ(106ページ)。

「防除の地元学」と情報活用

 さて、その「米ヌカ防除」だが、各地で取組む農家が増えてきた。宮崎県国富町の大南一成さんは、12月定植のハウスキュウリで1月下旬から通路に米ヌカをふり始めた。すると、2月に入ってもいっこうに灰カビは出ず、おまけに菌核病も発生しない。その結果、去年まで何度もかけていた高い新薬がいらなくなり、2・5反分の農薬代が16万5000円から5万5000円に激減した(78ページ)。

 この「米ヌカ防除」について、横山和成氏(農業技術研究機構・北海道農業研究センター)は、米ヌカによって生まれる多様な微生物群が、「植物を丸ごと凄まじい微生物競争社会で覆う」ことによって病原菌の1人勝ちを妨げ、さらに「その微生物群による生物的ストレスがひいては植物の抵抗力をも増強しているのではないだろうか」と効果のしくみにふれたうえで、こう述べている。「だとしたら、米ヌカの効果の源泉は、撒かれる土の微生物群集が潜在的にどれほど多様性を維持しているかにかかっており、土壌によって効果に差がでるのも当然といえる」(92ページ)。

 米ヌカは、潜在的な土壌微生物の多様性を回復、あるいは顕在化させる。大変興味深い指摘である。土着天敵を活かす防除も、田畑や地域の潜在的な昆虫相を回復・発現させる方法である。従来の防除が、害虫を殺す、排除するという1点で仕組まれてきたのとはちがって、田畑に、地域に「あるもの」を活かす。「あるもの」の潜在力を引き出し活かすために、農薬の使い方を工夫し、さらに米ヌカなど身近にある資材を活用する。

 4月号の主張「足元の、当たり前の豊かさに気づく『地元学』」では、「あるもの探し」を基本として「ものや地域、日々の生活文化をつくりあげる連続行為」として各地で始まった「地元学」の動きを紹介したが、これに倣っていえば、今、「防除の地元学」が広範に起きているのである。

 「地元学」は、外の目(風)を借りながら、地元の者(土)が当事者になって進められる。そして今、「風」として、農文協のデータベースを活用する農家や行政・農協が急速に増えている。CD―ROMとして、あるいはインターネット(「ルーラル電子図書館」)として利用できる農文協の4つのデータベース(「現代農業」「農業技術大系」「病害虫・雑草の診断と防除」「日本の食生活全集」のデータベース)は、「あるもの」を活かすために整備された巨大な電子情報群である。

これが農家の情報活用

 電子情報の第1の特質は検索性にある。本にも索引があるが、電子の検索性はこれをはるかに凌ぐ。電子化されていればいくつもの本の情報を、関心がある言葉で串刺しして情報を得ることができる。たとえば「現代農業CD―ROM」で「灰色かび病」を検索すると、見出しなどを対象にした場合は132件、全文を対象にした場合は392本の記事がヒットする。

 132本の記事を見ると、農薬関連では、耐性菌をださない農薬の選び方・農薬のローテーションや耐性菌の検定法、アビオンなど展着剤の利用、さらに微生物農薬・ボトキラーをマルハナバチに運ばせるといった意外な防除の工夫がでてくる。一方、栽培関連では、カルシウムをよく効かせて作物の抵抗力を高め灰カビを防いでいる農家の取組み、灰カビの発生源である花びらが早く落ちるジベレリン処理の工夫、発病させないハウスの温度・湿度管理のポイント、不耕起で無病トマトを実現している農家事例など、多様な記事がでてくる。もちろん「米ヌカ防除」の記事もある。灰カビに効く農薬を調べるつもりだったが、意外な方法に出会える。検索は意外性をもたらす。

 そして検索は連鎖していく。「米ヌカ防除」の記事を読めば、米ヌカそのものの成分なども気になり、今度は「米ヌカ」をキーワードにして検索する。「ボカシ肥」などたくさんの記事がでてくるが、中には、健康にいい米ヌカの食べ方の記事もあったりして、家族の話題になったりもする。

 こうして検索した記事の中から、自分に必要な記事を選び保存しておけば、自分用の記事ファイルができ、これをプリントして綴じれば自分の「本」ができる。編集である。そして、編集された情報は発信したくなる。自分の経験を外部の情報を活用して形にしていくことによって、自分の技術が表現される。

 山口県阿東町の水津昭典さんは次のようにいう。

 「自分の農業、技術を人に伝えるには、なんでそうするかを、作物の生理にあわせて説明できなければならない。そんな気持ちからパソコンを買い、『現代農業』と『技術大系』のCD―ROMで記事を調べ、気に入った記事をプリントして綴じ『本』にしています。たとえば、元肥を減らす自分のやり方は、根を張らせて火山灰土壌でのリン酸の吸収を良くし、結果として食味が上がるのだと考えていますが、その裏付けをとるために、CD―ROMで『根とリン酸』の関係を調べます」

 検索性―連鎖性―編集性―発信性と展開する農家の情報活用は、実は農家の存在そのものからきている。生産と生活が分離せず、地域自然に働きかけ、働きかけられる関係を基礎に成立する農村と農家の暮らしは、豊かな連鎖の世界である。こうした潜在的な連鎖を回復し、創造するためにこそ、農家の情報活用がある。農薬ひとつとっても、地域の昆虫相など連鎖の中で考えてこそ、上手な使い方が浮かび上がってくる。土着天敵や土着微生物の生かし方は、連鎖を自分の技術としてどう仕組んでいくかという問題である。

 「あるもの」を活かすために外部からの情報を活用する―それが農家の情報活用である。

農文協データベースがもつ特質

 こうした農家の情報活用を応援するために、農文協は本として長年にわたって蓄積してきた膨大な情報を電子化し、データベースを整備してきた。情報技術(IT)といっても、活用できる「情報」(データベース)がなければ、画餅になってしまう。

 農文協の4つのデータベースを利用している群馬県東村の松村昭寿さんは、「『現代農業』というのは雑誌なのに、技術記事には高度な学術書のような面がある」という。そんな過去の記事をその時々の関心に応じて調べたいと、CD―ROMを購入したわけだが、調べるたびに、また新たな疑問や関心が湧いてくる。これがCD―ROMの醍醐味だという。

 「現代農業」はもちろん学術書ではないが、そこで表現される農家の技術や農法的な記事には、農家の研究心を触発する「何か」がある。自然相手の農家技術は未知を含む実践であり、これを表現するために執筆・編集された記事は、大変個性的な生きた情報である。

 そして「農業技術大系」には、主に試験研究・農学の成果をもとにした技術情報が体系的に整理されている。それは学会発表集や紀要集など個々の研究成果がバラバラに配列されたものとは異なり、現場の課題解決に活かせるように体系だてて編集された情報である。

 しかも、現場の技術課題に応えられるよう必要な事柄が網羅されている。そのうえ、毎年1回追録するという加除方式は、最新情報を届けるとともに、その時代の課題にそって全体を絶えず再編成することを可能にしている。過去の研究・情報資産と最新情報とが融合した、今に生きる情報群なのである。

 農文協データベースが、こうした特質をもっているからこそ、検索性―連鎖性―編集性―発信性という農家の情報活用を励ますのである。

情報活用で共同性を回復する

 それは、農家・農村がもつ共同性を回復、創造する武器にもなる。もう1度防除にもどって考えてみよう。

 地域の防除の状況は一方で難しい局面を迎えている。農協は大型合併が進み、全般的に営農指導は弱まっている。各地にあった病害虫防除所も整理統合され、普及員も農政的な仕事に追われることが多くなった。

 一方、農家の状況も多様になった。かつてのように単一的な産地に対して効く農薬を中心とした防除を指導するなら比較的頭を悩まさないが、作物も作型も多様化し、有機農業や高齢化してもできる農業など、農家の思いも農業のやり方も多様化している。加えて、病害虫の出方も複雑になってきた。新農薬への切り換えやフェロモン剤の利用のなかで、近年問題になっていなかった害虫が重要害虫になったり、温暖化の影響で害虫相が変わってきたりもしている。そんな状況での地域の防除、防除指導には、電子情報が大きな力を発揮する。

 岩手県JA江刺市の西武配送センターでは、2人の女性職員が、農文協の病害虫診断防除データベースを活用して窓口相談を行なっている。「このシステムが入るまでは、それは○○病だからこの農薬をかけて下さい、といっても、臨時職員が何をいうか、と信用されなかったんです。ところが今は説得力がちがう」という。

 「ナスが枯れ始めた」という相談があれば、早速、考えられそうな病気をパソコンで検索し、症状写真をとり出す。これを見ながら農家にどの病気かを判断してもらい、病名を確定する。そしてデータベースの防除情報を参考に、在庫のある農薬を勧めることができる。「現代農業」を検索すると、ナスの青枯病にミカンの皮や炭がいいという工夫がでてきたりして、自家用ならこんな方法もあるよと教えてあげる。相談が多い病害虫は、カラーでプリントして簡単なパンフレットをつくり、カウンターに置いている。このデータベースがあれば「素人」の女子職員でも「営農指導」ができる。組合ばなれが心配な農協にとって、職員のだれもが農家の相談に応じられるデータベースは大助かりだ。

 「電話で難しい相談や即答できない質問を受けた時でも、『調べておきます』と自信を持っていえるようになった」というのは、「農業技術大系CD―ROM」や「病害虫・雑草の診断と防除」を活用している、愛知県新城普及センターの大羽智弘さんである。時には、CD―ROM付きのノートパソコンを持参して、農家の作業小屋や縁側でデータベースを直接検索しながら相談にのることもある。データベースを仲だちにして、普及員と農家が知恵を出し合う、そんな「普及の形」が見えてきた。一方的な、あるいは上から下への情報の流れではなく、データベースが農家と普及員をつなぐ場をつくる。

 検索性―連鎖性―編集性―発信性に加え、農文協のデータベースは共同性を回復する武器にもなる。土着天敵を活かす新しい防除も共同性によって支えられる。


 農文協の「現代農業」や「農業技術大系」「農業総覧」のデータベース情報を、田畑や作物から得た自分の情報と、そして「農薬を減らしたい」という思いによって編集し、自分の、地域の情報資産にしていく。その情報資産を絶えず豊かにしていくことによって、自然を相手にする農業の技術が、より安定した、地域的な個性的なものになっていく。外からの画一的な情報に身をまかせるのとは反対に、農家の、地域の情報循環を強めていくのである。

 防除はもともと自然との関わりにおいて最先端に位置する仕事である。防除は、自然にはたらきかけ自然に学ぶ個性的な労働である。

 個性的で創造的な労働を実現するためにこそ、地域の情報活用がある。

(農文協論説委員会)


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