主張

「空き家」でコミュニティビジネス、「小さい農業」を増やす

 目次
◆市町村の空き家対策が進行中
◆むらで空き家管理
◆農村RMOのコミュニティビジネスに
◆空き家で「小さい農業」を増やす

 6月7日、改正空き家対策特別措置法が参議院で可決され成立した。空き家の増加は農村でも都市でも大きな問題だ。空き家が放置される理由の一つに、建物を取り壊すと住宅用地として優遇措置が受けられなくなり、固定資産税が高くなることがある。そこで空き家対策特別措置法では、倒壊の恐れがある危険な空き家が市町村から「特定空き家」に指定・勧告されると、建物があっても優遇措置が解除されることになっている。今回の法改正は課税強化をさらに進め、特定空き家の手前の段階を「管理不全空き家」として、これも優遇措置から除外することになった。

『現代農業』の兄弟誌『季刊地域』の2023年夏号(54号)では、この法改正も意識しながら「空き家の活動3原則+自然の力を味方にする家づくり」を特集した。空き家は厄介な問題だが地域資源にもなり得る。それはなぜか、それにはどこから手をつけるべきか、を探った特集だ。

市町村の空き家対策が進行中

『季刊地域』ではちょうど8年前の夏号でも空き家活用を特集している(「にぎやかなむらに! 空き家徹底活用ガイド」)。このときは空き家対策特別措置法が15年5月に全面施行された直後。住宅は個人財産ということもあり、それまで行政は空き家にあまり関与していなかった。しかし空き家の増加が社会問題化してきたことから、市町村が実態を把握し「空き家等対策計画」をつくることや、空き家情報をデータベース化することを法律に定めた。それとともに「特定空き家」の所有者に対し市町村が助言・指導、勧告・命令ができるようになり、改善しないときは固定資産税を最大6倍にしたり、行政代執行で強制撤去することが可能となった。

 この特措法後の大きな変化といえば、「空き家バンク」を設ける市町村が増えたことである。登録された空き家の情報をインターネットで公開するだけでなく、運営に力を入れているところが増えてきた。今回の特集で紹介している滋賀県米原市はその好事例だ。

 米原市では「まいばら空き家対策研究会」という非営利団体が14年に設立され、市から委託されて空き家バンクの運営や移住相談の窓口業務を行なっている。設立以来、バンクに登録された空き家は270戸以上あり、そのうち購入や賃貸につながったのが約150件。空き家活用による市外からの移住者は200人を超えた。

 研究会では自分たちの仕事を「空き家と空き家を探している人との素敵な出会いをつくる仕事」と位置づけ、これを「恋する空き家プロジェクト」と名づけている。空き家バンクのウェブサイトでは物件ごとの情報を充実させ、取得希望者が現われると自治会長との面談までセッティングする。研究会の役割は移住者と空き家の「マッチング」なのだが、新たな住人を建物だけでなくその地域につなぐことを大事にしているのだ。

 また、米原市は「空き家バンクサポーター」という制度も設けている。自治会単位でサポーターを1人選出してもらい、地区の空き家情報の収集を担ってもらうという仕組みだ。空き家の活用を進めるには「予防」が重要だそうで、放置期間をつくらないよう地域の側に当事者意識を持ってもらおうというねらいだ。そして情報提供された空き家がバンクに登録されれば、サポーターや自治会に交付金が支払われる。市内110余りの自治会のうち、20以上の自治会がサポーター制度に参加しているという。

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むらで空き家管理

 今回の空き家特集の一番の特徴は、このような当事者意識を高めた地域の動きに焦点を当てていることにある。空き家の問題を市町村まかせにせず、かつての旧村などの地区単位での活動が始まっている。「空き家の活動3原則」とは、先ほどの「予防」と「マッチング」、そして「むらで管理」である。特集の中から具体例を挙げてみよう。

 広島県庄原市山内やまのうち町は、中国山地の真ん中にある人口1500人の小さな町。地域運営組織・山内自治振興区が空き家の現状把握を始めたのはコロナ禍に入る少し前のことだ。空き家の賃貸や売買をしてもいいという所有者は見つかった。だが「歳をとって、重たいもんはよう動かせん」「片付けには金がいる」という声が聞こえてきた。

 そこで20年12月に立ち上げたのが「山内てごぉし隊」だ。「てご」は手伝うという意味の方言。家財道具の片付けに苦労している家主と移住者の手助けを始めた。地域の人々が次々加わり、現在では総勢150人もいるメンバーが出動要請に備えているという。「てご」された移住者がメンバーに加わるといういい流れもできている。

 むらの空き家管理を目的に一般社団法人やなぜ空き家ねっとを立ち上げたのは、富山県砺波市の柳瀬地区。やなぜ空き家ねっとは、補助金に頼らず「稼ぐ力」をつけようとしてきた。そのために、地元を離れた空き家の所有者などから草刈りや庭木のせん定を有料で引き受ける。現在は3軒の利用があり、その収入が昨年度は50万円ほどになった。

 やなぜ空き家ねっとがもう一つ重視しているのは、今ある空き家の活用推進と、空き家の発生の予防だ。空き家の所有者には意向調査を年1回実施し、売買や賃貸の提案を持ちかけながら空き家バンクへの登録を促す。

 空き家の賃貸や売買が進まない理由には、大事な思い出が詰まっているとか、いずれ帰るかもしれないなど、所有者が抱える様々な想いがある。その解決は簡単ではないが、やなぜ空き家ねっとでは「空き家予備軍」である一人暮らし高齢者の「家の終活」の相談に気軽に乗れる関係づくりを心がけている。その場合も、草刈りやせん定を請け負うことが入口になるというのがおもしろいところだ。

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農村RMOのコミュニティビジネスに

「むらで管理」の先輩格にあたるのが、8年前の特集にも登場した岡山県美作市の「かじかつ」こと梶並地区活性化推進委員会。かじかつは、市が空き家を改修して始めた「お試し住宅」の管理を年間50万円で引き受けることを仕事にしてきた。その入居者が地域になじめるよう、地元住民とのつながりをつくったり、畑を紹介したり、むらで暮らし続けるために次の家探しをサポートしたりもする。

 8年前より進んだのは空き家管理だ。草刈り・換気・掃除機・モップがけ・郵便物の保管を2カ月に1回実施するコースを年間4万2000円に設定。5軒から請け負う。また、耕作放棄地の管理にも乗り出し、ソバやコンニャクを栽培・加工して年間100万円ほどの収入を得ている。

 空き家がなぜ地域資源かといえば、一つは小さいコミュニティビジネスの種になるからだ。前述のやなぜ空き家ねっとでは、空き家を改修した貸しスペースの運用でも年間10万円ほどの収入を得る。同じく特集に登場する事例では、宮城県栗原市花山地区の一般社団法人はなやまネットワークが、改修した空き家1軒で簡易宿所営業の許可を取り民宿の営業を始めた。地元の花山湖へワカサギ釣りに来る釣り客をターゲットに見込んでいる。はなやまネットワークは、高齢者の買い物支援や移動販売も担うなど、いわゆる地域運営組織(RMO)として活動する団体だ。

 以前の「主張」でも取り上げたように、農村地域のRMOを農水省では「農村RMO」と呼び、立ち上げのための支援事業を設けている。農村RMOには、生活支援など従来のRMOが担ってきた機能に加え、農業・農地に関わる活動も期待されている。はなやまネットワークも耕作放棄地を活用した関係人口づくりなどを始めており、農村RMOの一つと言えるだろう。

 農村RMOには集落営農から発展したものや、中山間直接支払や多面的機能支払の集落協定・活動組織をベースに活動を広げてきた組織もある。空き家管理が仕事になるといっても、それだけでは稼ぎは知れたもの。その点、耕作放棄地の活用や集落営農との合わせ技で運営する農村RMOなら、空き家を「むらで管理」する主体に打って付けではないだろうか。

 改正空き家対策特別措置法により固定資産税は強化されるが、一方で市町村は、建物を撤去しても数年間は固定資産税の上昇分を減免したり、解体撤去費用を補助するなどの事業も設けている。こうした制度の利用を増やすためにも農村RMOが力を発揮できるのではないか。

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空き家で「小さい農業」を増やす

 地域資源として空き家のもう一つの意味は、なんといっても農村で暮らす人を増やす器になることだろう。今回の『季刊地域』の特集には、空き家を購入したり借りたりしてむらで暮らすようになった移住者の記事もある。

 たとえば埼玉県秩父市の山本健太郎さん(38歳)。コロナ禍が東京から秩父へ引っ越すきっかけになったそうだ。大好きなサウナに通えなくなり、自分でサウナ小屋を建てたいと思ったことから、リモートワーク中の相方とともに空き家をリフォームしての移住を決意する。目の前に20aの畑がついた家で、山本さんは「新規就農者」になった。

 移住して感動したのは、シルバー人材センターに派遣してもらった元大工の技、それに購入した家の所有者から学んだ野菜づくりの技だった。80歳なのに自分より体力があり、何より畑の経験と知識がすごい。山本さんは「人に頼るのが苦手で、何でも我流で挑戦することに美徳さえ感じていた」そうだが、農村では身近にたくさんいる「師匠」に頼れることに気づいたという。そして、自分の周りにいる移住者や移住を考えている人の中には「昔から大切にされている土地を引き継ぎたいと思っている人」が増えている、と書いている。

 5月号の「主張」に書いたように、この4月から農地取得の下限面積が廃止された。その背景には、同じく4月から市町村が作成に取りかかっている「地域計画」に、農業をやりたい意欲のある人を経営の大小を問わず「農業を担う者」として位置づける、という国の政策変更がある。いま「半農半X」と呼ばれるような、農業を取り入れた暮らしを志向する若者が増えている。こうした人たちによる「小さい農業」をむらに増やすためにも、空き家を地域資源として活かしたい。

(農文協論説委員会)

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